【感想】『誰もいない国』(ナショナル・シアター・ライブ)

 今日も今日とて、池袋シネ・リーブルで、アンコール上映を観てきました。(日本公開は2017年)

 妙な舞台だった。つまらなかったわけじゃないけれど、意味がよく分からない。二人の老人のやりとりは面白かった、でも結局、どういう話なのかよく分からない。わからなさすぎて目が離せなかった。
 目を離すとどこからおかしくなったのかがわからなくなると、案じていたからだ。でも最初から最後まで分からないのに、どこからもへったっくれもあるかい、と、見終わってから気がついた。

 舞台は、二人の酔っ払い老人が部屋にいるところからはじまる。酒場で知り合った二人らしい。
 上品そうな一人は家の主で豊富な酒を取り出して惜しみなく振る舞う。
 もう一人はくちゃくちゃのスーツで、下ネタもへっちゃらだ。相手の顔色を観ながら、偉そうにふるまう。美味しいタダ酒を飲ませてもらうので後ろめたいから、と思えたけれど、どうやらそれだけではないようだ。なにか調べたいことがあってこの家に潜入しているようにも見える。

 奥さんの話をしたところで、二人の周りの雰囲気がなにかおかしな感じになる。その後現れた二人の男性もなにか違和感がある。

 翌朝も、彼らは何かと言っては酒をのみ続ける。
 突然、久しぶりの大学の友だち同士になり、片方が片方へとんでもない告白をする。上品な方は、物覚えの悪い病にかかっているのではないかと勘繰ってしまう。でもそうじゃなくて、納得ずくのゲームをしているのかもれいない。時々、人格が変わるように見える。健忘症のようにも見える。実は、重大な犯罪や事件を隠しているようにも見えるけれど、よくわからない。

 だんだんと、二人の癖が見えてきたと思う。結局みんなを支配したいので、相手の様子を見積もりながら態度を変えているように見える。よくわからない。

 それにしてもこの二人、どこかで見たことがある顔だ…と終わってから、パンフレットを読んでみたら、一人は『リア王』のイアン・マッケラン。もう一人は映画『X-MEN』でプロフェッサーXを演じていたパトリック・スチュワートだった。物語が異なるから不公平かもしれないけれど、舞台で彼らを観る方が、映画よりも解像度が高くて面白いと思った。
 
 ナショナル・シアター・ライブシリーズの演目なら通常は、開始前に解説や舞台裏案内があるのに今回は無かった。代わりに終了後、聴衆を交えた座談会になっていた。
 それによると、1975年に上演された作品のリバイバルだという。伝説的な舞台だったらしい。そして「観客は考えすぎだ」と役者たちは言う。
 でも、観客は考えるのが楽しいから観に行くのだし、逆に役者は、観客に多くを考えさせるための演技をするから達者と言われるんだよね。
 達者な二人を観ているだけでも面白かった作品だ。もう一度観に行ったら私はもっと別の解釈をするのだろうか。
 

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