【感想】NTLive 語る会『シラノ・ド・ベルジュラック』


 これまではリアル会場で行われていた、NTLiveを観た人が作品について語り合う会ですが、前回『プレゼント・ラフター』からオンラインでの開催となりました。こういう時期ですので、自宅から安心して参加できるのがありがたいです♪

 今回は『シラノ・ド・ベルジュラック』でした
  https://www.ntlive.jp/cyrano

 現代的な服装と簡素な舞台で、詩人たちが韻を踏んだ言葉で斬り合います。スピード感があって荒々しくて、でも切なくて。見終わった後、あれはどういう意味だったのだろうかと、じわじわ思い出し、考えさせてくれる作品でした。
 
 語る会の90分はあっという間で、字幕翻訳の工夫とか、原作からどの程度変わっているか、パナッシュ…?(まずは原作を読みます!)のこととか、『ハミルトン』のラップの影響とか、とても興味深いお話を聞きました。語る会で見聞きしたことをきっかけに、考えたことをまとめました。

●『シラノ・ド・ベルジュラック』の原作は騎士の物語だった!

 貴婦人のために戦い、名誉のために命を捨てるのが騎士というもの。
 貴婦人への告白は要らない。その夫になる必要はない。これが騎士道。

 ところが、今回の作品は、シラノの騎士道スピリットが無くなっている。
 その証拠に、ラストでシラノは自分からロクサーヌへ告白してしまう…。

 ちなみに原作では、ロクサーヌが「察する」ことで、シラノの気持ちが伝わったそうです。

●騎士じゃなくなった男性はどうしたらいいの?

 現代の感覚で観たとき、きちんと好意を伝えるといったコミュニケーションをとらなかったシラノが今回「叱られる」姿を観る男性たちは、男性としてこれまで正しいとされてきた生き方を否定されたようで、代わりにどうしたらよいのかと迷うかもしれない。

 遠慮なく女性目線で言わせてもらえば、夫になるつもりがない騎士道の作法そのものが、女性を人間扱いせず、モノとか景品扱いしている仕組みのように感じる。自分自身の気持ちだけが大事で、貴婦人の反応を期待してはいけない=貴婦人が実在していなくても構わない、と解釈し直すと、恋に恋する片思い状態といえます。
 これって今回、ロクサーヌがクリスチャンに対して行ったことと同じですね。もしも、ロクサーヌが美女じゃなかったら…ストーカー扱いになってしまうのかも。

 作品上、英雄というよりも主人公だから、シラノにスポットライトが当たっていますが、恋愛と言う点ではクリスチャンの方が、シラノよりもはるかに健闘しています。確かに、クリスチャンはシラノへラブレターの代筆を頼みましたが、インテリ女性へのコンプレックスを振り払って好意をきちんと伝えたのだから。…がんばったよね!

 がんばったけれど、ロクサーヌが愛しているのは自分ではなくて、ラブレターの書き手であるシラノだ、とクリスチャンは気がついてしまう。
 それじゃあ、クリスチャンは、どうしたらよかったのだろう?

 私なら、「ロクサーヌをあきらめて、ちゃんと真心のある相手を探したら?」って言う。

●ロクサーヌは美しいだけのお馬鹿さん

 ロクサーヌは「人は外見ではない」と口先では言うものの、実際にはシラノやクリスチャンの本当の気持ちや不安を理解したり、人間の中味を見極めることが出来ない、美しいだけのお馬鹿さんだ。
 もしかするとシラノも、ロクサーヌの知性がその程度だと見切って騙したのじゃないだろうか。騙したとはいっても、これがシラノのロクサーヌへの愛なんだよ。シラノの「言葉への愛」の深さには全く及ばない薄っぺらい愛なんだよ。

 でも、私はロクサーヌが悪いとは思わない。
 運悪く美しく生まれつき、美しいということでしか褒められないのが寂しくて苛立たしくて。だからロクサーヌは内面の充実した賢い人になりたかったのだ。それなのに彼女の内面に注目する人は誰もいなかった。シラノ以外は。

●シラノは言葉だけを愛した男

 ラブレターを書いていたのはクリスチャンじゃなくてシラノだった。
 十五年間も騙さていたと分かってロクサーヌは「怒った」。
 怒った彼女がラブレターを燃やすとシラノはそれだけは止めて欲しいと懇願した。自分が死んでもラブレターが永遠に残ることが、彼の望みだったのだ。

 それほどにシラノは言葉を愛し、自分の文才に酔っている。
 ラブレターでロクサーヌの気持ちを動かすことができた、それだけで彼は大満足だ。
 シラノが満足するために、ロクサーヌが選ばれて利用されたとも読める。シラノの言葉の理解者として。

●ひとり丸ごとを愛せたなら
 
 言葉遣いで、シラノとロクサーヌは惹かれ合い
 見た目で、ロクサーヌとクリスチャンは惹かれ合う
 互いに無いものを相手が持っている残酷さ故に共犯者になったシラノとクリスチャンは、一つになりたいとキスをする。

 でもね、愛する時は相手を丸ごとでないとうまくいかないものだよ。
 相手を試したり、相手の気に入っている部分だけを見ているような愛って…難しいよね。
 
こんな風に、他人様の恋愛のよろしくないところはわりと分かるものです。
自分のことは棚に上げておけば…ね。

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