オビ小説 第四弾 2024.09.
今日はやけに時間が長い。
昼過ぎに彼女に逢い、ショッピングに付き合い、居酒屋で少し飲みながら夕飯を終わらせた。
最初の頃は食事もイタリアンやフレンチ、まわらない寿司などと張り切ったものだが、最近は居酒屋やラーメン屋、街中華などが主流となった。
我が家へなだれ込んだ俺たちは、シャワーを浴びて一戦を手短かに済ませ、
もう一度シャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。
その頃にはすでに日付けが変わってしまっていたようだ。
「今日は疲れたな」
「そうね」
「ゆっくり寝ようぜ。明日のことは明日考えればいい」
「キスは?」
「あぁ」
普段は別々に暮らしている。
だから一緒に寝る時の決まり事だ。
軽くキスをして俺の腕枕に彼女を迎える。
「おやすみ」
「あぁ」
普段はさほど寝付きのいい方ではないのだけど、この日に限ってすんなりと寝入ることができた。
どれくらい眠ったのだろうか。
「どうした? 眠れないのか」
「起こしちゃった?」
「あぁ、それはいいんだけど何してるんだ?」
「触ってるの」
「そうだろうな、触られてるのは俺だから分かるよ」
「こうしてると落ち着くの」
「俺はザワザワするぞ」
「もっとザワザワさせてあげよっか」
彼女の手が動きを変えた。
掌だけの撫でるような動きだけだったものに指先が加わった。
強くなったり弱くなったり、いくつものポイントを刺激する。
まるで指が数十本もあるようで、引いては返す波のような心地良さを感じる。
まるで触れるべき場所を心得ているかのような、複雑で単純な指先の動きを俺は楽しんでいた。
「ねえ しよ」
「夜あれだけ喘いでたのに満足できなかったか?」
「ううん満足したわよ」
「それでもしたいのか?」
「女はね男と違って何度でも満足できるのよ」
「それが便利なことだとは思わんけどな」
「どうして」
「男は簡単に復活しない」
「今もダメ?」
「試してみろよ」
彼女は毛布の中に潜っていった。
普段と違って二人で寝る時は、風呂上りに裸で寝ることが多い。
だからパジャマ代わりのスウェットや下着を脱がす必要がない。
毛布の中で彼女が何をしているのか見なくても分かる。
少し音も聞こえてくるようになった。
掌と指と口と舌が間断なく攻め寄せる。
見えない方が感覚が鋭敏になるのか、それとも実際の行為が見えた方がより感情が昂るのか、人によって違うかもしれない。
いや、日によって、時間によっても違うのかもしれない。
俺はどっちだろうとぼんやり考えていた。
愛おしそうに頬張る口、美味しそうに舐める舌、上目遣いにこっちを見る眼、すべてが愛らしく、見るほどに幸せでいられる。
毛布の中を覗いてみたい。
そんな誘惑に駆られながら、こいつは俺のモノだという征服欲も含まれているのかもしれない。
そんな時、唐突に浮かんだ言葉があった。
こんな時に何考えてんだ俺は。
だがその衝動には抗えず思わず口走ってしまった。
「なぁ 結婚しないか」
しばらく待ったが返事はない。声が小さすぎたか?
さらにしばらくして彼女が真っ赤な顔をして毛布から顔をだした。
「復活してくれたわよ」
「そのようだな」
「じゃあ私にも火を点けてくれる?」
「火は点いてるんじゃないのか?」
「じゃあ燃え上がらせてよ」
そう言うと毛布を大胆に剝ぎ、素っ裸の自分の身を俺の顔に近付けてきた。
やっぱりこんな時に言うセリフじゃねえな。
終わってから? いや日を改めよう。
彼女はすでに潤っていた。
俺は豆いじりに専念することにした。
舐めたり、吸ったり、弾いてみたり、甘噛みしてみたり……。
たまにはスリットに指を差し入れてみたり、ゆ〜っくり引き抜いてみたり……。
彼女が声を出し始めた。口には一物が入っているのに。
身体も捩るようになった。もう少しだろう。
「もうダメ、お願いちょうだい」
この瞬間に一番喜びを感じるのは俺だけだろうか。
「たまには上に乗ってみるか?」
「う、うん」
俺はこういうことに全然勉強熱心じゃない。
過去の経験値だけで勝負している。
徐々に上手くなってるのかもしれないが、単純で淡白な方だと思う。
だけど自分だけ終わって満足するようなことはない。
どんな状態であれ、必ず一度は昇天させることを自分のノルマとしている。
だがもちろん例外もある。
お相手の技や才能によっては敢え無く撃沈してしまうこともある。
言っておくがプロの方の話ではない。
苦労して身に付けられたのか、自然と身に付いたのかは分からないが、まったくの素人でも素晴らしい技や才能を持つ方がいらっしゃる。
あるいは男の側に不利な体位があったりすることもある。
俺の場合のそれが今の彼女の位置にあたる。
上下に動かれる場合は問題ないが、前後またはグラインドを素早くされると比較的短い時間でヤバいことになりそうになる。
そういう場合は下から突き上げることで難を逃れようとするのだが、意に介さず執拗に攻められることもあるから苦手意識は持っている。
ではなぜ彼女にその位置取りをしてもらったのか。
答えは簡単だ。
苦手意識の克服に決まっている。
俺の苦手意識が減れば減るほど、彼女とのベッドライフは楽しいモノになるだろうし、きっと喜んでもらえるのではないかと思ってる。
今のところ俺の方が優位のような気がしているが、いつ彼女が覚醒するかも分からない。
優位というのも俺の希望的観測かもしれないしな。
「ねぇ子供好き?」
「多分な」
「何人くらい欲しい?」
「腰が止まってるぞ」
「こっちの方が大事かな。私意外と不器用で2つのことが一度にできないのよね」
「不器用なのはバレバレだぜ。それにそこまでの覚悟はまだねぇよ」
「だってさっき」
「聞こえてたのか」
「口の中は唾液と大事なモノだらけだったから返事できなくて」
「動かないなら降りろよ」
「それはイヤです」
「ワガママだな」
「できちゃった婚とかどう?」
「だからそこまでの覚悟は」
「今ナマだよ」
「怖いこと言うなよ」
「あっ小っちゃくなっちゃった」
「だから降りろって」
「何だつまんないの」
「真剣勝負の場に別の会話を持ち込むな」
「最初はあなたじゃなかったっけ?」
「こんな時に言うセリフじゃねぇなって反省した」
「じゃあ、いつならいいのかな?」
「少しだけ興奮を引き摺ってる今よりはふさわしい時が何度もあるだろ」
「それまでお預けかぁ」
「タイミングは悪かったけど意思は示したからな」
「あとはタイミングだけかぁ」
「それが意外と難しそうだな」
「そっちはお預けでいいけど、こっちはどうすんの?」
そう言ってもう一度一物を弄りだした。
こいつこんな女じゃなかったのになぁ。
最初の頃、彼女は完全に受け身だった。
行為の最中もひたすら枕を顔の上に乗せ声を押し殺していた。
何度目だったろうか、俺はいきなり枕を引き剥がした。
「いつまで俺に顔を見せない気なんだよ、いつまで俺に声を聴かせない気なんだよ」
「だって恥ずかしいんだもん」
「さっきまで目の前にいた相手が突然見えなくなるんだぞ。俺は誰とセックスしてるんだ」
「・・・・・・」
「顔の見えないヤツとやったって萎えるわ」
「う~ん、堅いけど?」
「そこ突っ込むとこじゃねえぞ」
「突っ込まれてるのは私なんだけど?」
「ホント萎えるわ」
「だから堅いってば、あれっ?」
「普段はそうやって冗談もツッコミもできるんだからもっと楽しめよ」
「怒った? 怒ったよね? ゴメン」
「今日はもうヤメだ」
「ゴメン、私どうすればいい?」
「少し話そうか」
「裸のままで?」
「すぐに再戦可能だろ」
「リベンジマッチね」
「一度も負けてねえぞ」
「そっか、いつも先にいっちゃうのは私だもんね」
「どうでもいいよそんなこと」
「私たちカラダの相性はいいわよね」
「カラダだけかよ」
「大事なことだと思うんだ」
「そうかもな」
「私のお友達なんてカラダの相性が大事だからって、お見合いの帰りにホテルに誘ったそうなの」
「それは大胆だな」
「その積極性が裏目に出ちゃったんだけどね」
「まぁよほどいい女でないと男は引くわな」
「そういうものなの?」
「見合いの帰りだろ?」
「そう聞いたけど」
「てことは初対面なんだよな?」
「そうでしょうね」
「俺は見合いなんてしたことねぇけど、どこそこに住む〇〇さんで学歴がどうとか、どんな性格とか、どんな趣味の人かってあらかじめ知ってるんだろ? そこにセックス大好きとか、カラダの相性重視なんて書いてあれば別だけど、まずそんなことは書いてないだろうし、帰りにいきなり誘われたら、なんだこの女って普通はなるんじゃねぇの」
「それはヤだなぁ」
「いくら重要なポイントでもやりすぎだろ」
「その通りで、次の見合いでは一応の手順を踏んで、結婚を前提にお付き合いをってことにしたらしいの」
「普通だな」
「それで最初のデートの時に……」
「それは普通なのか?」
「でもお相手も望むところだったみたいで、その人が最初の旦那さんだったんだよ」
「最初の?」
「うん、アクロバティックなセックスばっかりで飽きちゃったんだって。それで離婚」
「アクロバティックなセックスってどんなんだ?」
「詳しくは知らないけどサーカスみたいだったとか」
「サーカス? 空中ブランコとか? 玉乗りとか? 剣を投げるとか?」
「それってどんなセックス?」
「そうだよな。考えられるのは繋がったまま身体を振り回すとか?」
「それってキツそうだよね」
「興味はないけど試してみるか?」
「私も興味ないかな」
「スタンダードがどういうものかも知らないけど、知ってる限りの普通がいいよな」
「少しくらいの冒険ならしてもいいわよ」
「少しくらいってどういうことだよ」
「例えばリビングでやっちゃうとか、コスプレなんてのもいいかも」
「そんなことがやりたいのかよ」
「別にやりたいわけじゃないけど、雰囲気変えるのってよくない?」
「俺は普通にベッドの上だけでいいけどな」
「そこに楽しみを見つけようとはしないのね」
「何かが間違ってる気がするのは俺だけか?」
「身体の相性だけでもダメなんだよね、きっと」
「身体の相性が重要だということは分かる」
「そうだよね」
「だけどそれ以前に相手のことを知らないとな」
「具体的には?」
「俺はどちらかというと結婚の前提として同棲を勧めている」
「そうなの?」
「ああ」
「どうして?」
「結婚してから相手の知らないことがいっぱい出てきたらどうする?」
「それは内容によるでしょ」
「自分にとって嫌なことだったらどうだ?」
「それは厳しいわね」
「もちろんいいこともあるだろう。でもその場合は嬉しくなるくらいで問題ないだろ」
「そうね」
「付き合うのと一緒に暮らすのは全然別なんだよ」
「それは何となくわかる」
「例えば、ムチャクチャ化粧が上手な人がいたとしよう」
「化けちゃう話ね」
「お泊りしてるんだから素顔でいいんだよ」
「良かった。それで?」
「俺の知人の話だけど、朝起きた時に隣で寝てる女性に覚えがなくて『どちら様でしたっけ?』って聞いたんだって」
「ぶっ飛ばされたでしょ?」
「大泣きされたんだって」
「両方気の毒ね」
「俺はさ、普通にミクの顔見て、ミクの声を聴いて………お前に浸りたいんだよ」
「はい」
「叶えてくれるか」
「じゃあ2回戦やろうか」
「何で2回戦だ? 俺は1度もいってねぇぞ」
「私こっそりいきました」
「んだとぉ!? 一人で楽しんでねぇか?」
「ハハハ」
「今度は顔出しOKだよな?」
「顔射? 初体験」
「ふざけるのもいい加減にしろよ」
「ごめん」
「ちゃんと顔を見せてくれるんだよな」
「善処します」
「声も聴かせてくれるんだろうな」
「自然に出ると思います」
「んじゃ、はじめるか」
「それでは2回戦、始めぇ!!」
「萎えるわ〜」
「ちょっと待った、萎えたままだよ」
「これから徐々にだなぁ……」
「だってこれじゃあ無理だよね?」
「まだ言うか」
「私の力が必要かな?」
「う~ん……頼むわ」
「ほいきた、エヘヘ」
いつもオビ小説をお読みいただきありがとうございます。
現在のオビ小説は本日で一応の終了とし、明日からは別のオビ小説が始まります。
引き続きお読みいただければ幸いです。