古事記百景 その十一
迦具土殺害
於是伊邪那岐命。
拔所御佩之十拳劒。
斬其子迦具土神之頸。
爾著其御刀前之血。
走就湯津石村。
所成神名。
石拆神。
次根拆神。
次石筒之男神。…三神…
次著御刀本血。
亦走就湯津石村。
所成神名。
甕速日神。
次樋速日神。
次建御雷之男神。
亦名建布都神。…布都二字以音下效此…
亦名豊布都神。…三神…
次集御刀之手上血。
自手俣漏出。
所成神名。…訓漏云久岐…
闇淤加美神。…淤以下三字以音下效此…
次闇御津羽神。
上件自石拆神以下。
闇御津羽神以前。
并八神者。
因御刀所生之神者也。
所殺迦具土神之於頭所成神名。
正鹿山津見神。
次於胸所成神名。
淤縢山津見神。…淤縢二字以音…
次於腹所成神名。
奧山津見神。
次於陰所成神名。
闇山津見神。
次於左手所成神名。
志芸山津見神。…志芸二字以音…
次於右手所成神名。
羽山津見神。
次於左足所成神名。
原山津見神。
次於右足所成神名。
戸山津見神。
(自正鹿山津見神至戸山津見神并八神。)
故所斬之刀名。
謂天之尾羽張。
亦名謂伊都之尾羽張。…伊都二字以音…
伊耶那岐神はよほど腹に据えかねられたのか、ついに佩刀の十拳剣を抜き、我が子でもある迦具土神の首を切り落としました。
すると、刀の切っ先から迸った血から、石析神、根析神、石箇之男神の三柱の神がお生まれになりました。
次に刀から岩に飛び散った血から、甕速日神、樋速日神、建御雷之男神、またの名を建布都神、またの名を豊布都神という三柱の神がお生まれになりました。
次に刀を握った手から漏れ出した血から、闇游加美神、闇御津羽神の二柱の神がお生まれになりました。
ここに石析神から闇御津羽神まで八柱の神が迦具土神の血からお生まれになりました。
さらに殺された迦具土神の頭から正鹿山津見神がお生まれになりました。
次に胸から淤縢山津見神が、腹から奥山津見神が、局所から闇山津見神が、左手から志芸山津見神。
次に右手から羽山津見神、左足から原山津見神、右足から戸山津見神がお生まれになりました。
ここに正鹿山津見神から戸山津見神まで八柱の神がお生まれになりました。
迦具土神を斬った十拳剣は、またの名を天之尾羽張、またの名を伊都之尾羽張と言います。
※石析神、根析神、石箇之男神の三柱は剣と岩の神と言われています。
※甕速日神、樋速日神、建御雷之男神の三柱は雷と火の神と言われていま
す。
※闇游加美神、闇御津羽神の二柱は水の神と言われています。
※正鹿山津見神は山の神と言われています。
※淤縢山津見神は何の神なのか分かりません。
※奥山津見神は奥山の神と言われています。
※闇山津見神は谷間の神と言われています。
※志芸山津見神は何の神なのか分かりません。
※羽山津見神は何の神なのか分かりません。
※原山津見神は山中の原の神と言われています。
※戸山津見神は山の入り口の神と言われています。
「太安万侶です。那岐は怒ってるんでしょうねえ。ということで、那岐に来てもらいました」
「久しぶりだな安万侶」
この時代で良かったというべきか、現代なら間違いなく犯罪者ですからね。
たとえ女房が子供に殺されたとしても、子供が殺意を持っていたとは考えにくく、不可抗力とされるでしょうから、罪にはならないはずですよね。
それを斬っちゃったら問題ですよ。
「色々と大変だったのは分かるけど、ついに子殺しになっちゃったね。でも少しは元気になれた?」
「そんなにすぐには元気になれねえよ」
「それにしても思い切った行動だったね」
「迦具土のことだよな。実は那美のことばっかりじゃねえんだ」
「どういうこと?」
「他にも火の神はいるけど、あちこちに火をつけて回ったり、燃やしてしまおうとする神は、俺は今までに見たことがねえ」
「あの子がそうだったと?」
「何度か叱ったんだ。その時は言うことを聞くんだけど、すぐにまた火で遊ぶようになるんだよ」
「それで叱ってるつもりが殺してしまったと」
「いや違う。怒りに任せて剣を振るったことは間違いねえ。那美のことが頭にあったのも事実だ」
「殺そうとして殺したってこと?」
「あいつを生かしておくのは危ないと思ったんだ」
「それにしても」
「あいつを見てねえからそんな呑気なことが言えるんだぜ」
「言ってることは分かるよ」
「何度か家も燃やされかけたんだ。未遂になってるけどな」
「そんなに火遊びが過ぎたんだ」
「那美のことも火遊びだとしたら」
「子供が母親に火遊び? 意味変わってきてるんじゃないの?」
「冗談言ってる場合か?」
「ごめんなさい」
「問題行動だったことは認めるが、あいつを斬ったことは後悔してねえ」
「一生背負っていかなければならないね」
「今回のことがあろうがなかろうが、それは変わらん。あいつも俺にとっては大事な子供だ」
「他の方法はなかったのかなあ」
「あったかもしれねえな。だけど斬ってしまったんだから仕方ねえだろ」
「亡骸はどうした? 那美ちゃんと同じところに埋葬してあげるの?」
「あいつの亡骸や血から大勢の神が生まれてさ。俺にとっちゃ孫だよ。スゲエなあって思ってたらさ、いつの間にか亡骸が消えてたよ」
「大勢のお孫ちゃんに生まれ変わったってこと?」
「そうなんだろうな」
「今度は危なくないのかな?」
「しばらく見ていたけど、そんな感じは受けなかったな」
「火の神もいる?」
「ああ、いる」
「それでも大丈夫と見立てるのなら、良かったねって言えばいいのかな?」
「それはどうだろうな。やったことはやったことだからな。ああ、那美に会いてえなあ」
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