走り続ける
「走らない! ジュンどうしてそこで走るんだよ」
「走ってるつもりはねえんだけど」
「おかず入れる度に走ってるぜ」
「コースケもそう思うのか?」
「お前と同じリズム隊にいるんだから俺が一番感じてるよ」
俺たちはヴォーカル(Vo.)、ギター(Gt.) 2人、ベース(Bs.)、ドラム(Dr.)による5ピースのブルースバンド。
曲の途中の若干リズムが変わるタイミングで必ずDr.のジュンが走る。
あそこで走られてしまうと曲の雰囲気が台無しだよ。
「リズム隊がしっかりしてくれないとさ、ブルースなんて出来ねえぜ。つまんないかもしれねえけど地味に8ビート刻んでくれればいいからよ」
それからも練習は続くが同じようなところでつまずく。
そこおかずいらねえだろ。
ブルースなんだからまったりというか、少し遅れ気味のビートでいいと思うんだけどなぁ。
何とか難所を乗り切っても今度はエンディングでグチャグチャ。
「ジュン、ちゃんと譜面見ろよ、そこはリットしてフェルマータだろ。普通に8ビート刻んでどうすんだよ」
「ノブ、言いたかねえけどよ、取材が入ってるからってさ、張り切らなくてもいいだろ。いつも通りやろうや」
「オメエ、それは言いっこなしだろ」
「だって俺たちこれで10年やってんだぜ」
「10年やってもまだ走ってるってか?」
「そうだよマーちゃん、俺たちは走り続けなくちゃダメなんだよ」
「それとこれとは話が違うだろが」
「いいんじゃないの、走り続けようよ」
「そうだな。じゃあ頭から返そうか」
「エッまだやるの?」
注)リット=リタルダンド・・・だんだん遅く(音楽用語)
フェルマータ・・・程よく伸ばす(音楽用語)
今週も参加させていただきます。
小牧幸助様 よろしくお願いいたします。