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Bar ANRI
その店は住宅街の一角にあった。
外観はほとんど民家と変わらない。
が、一歩店に足を踏み入れるとまったく違う世界が広がっている。
店の名は『Bar ANRI』。
マスターが若い頃に好きだったポップシンガーの名前だそうだ。
だけど BGM は静かな Jazz が流れている。
![](https://assets.st-note.com/img/1736611049-Z38pUw59MDFIXHxRdGJTYKiQ.png)
店の入り口近くから奥に向ってカウンターが続く。
![](https://assets.st-note.com/img/1736608428-W7SnKyvl9a36FzjfIq0QU5xc.jpg?width=1200)
一番奥のカウンターに一人で飲んでる美人がいた。
「あちらのお客様から」
「あらそう」
俺に向けた会釈で一気に持ってかれた。
「見たところお一人のようなので一緒に飲みませんか」
「私を誘ってんの?」
「簡単に言えばそういうことです」
「私が今なにを飲んでるか分かる?」
「カクテルですね」
「ベースは?」
「一口いただいていいですか?」
「どうぞ」
![](https://assets.st-note.com/img/1736611072-3JxjYr48NRfts5VIkyXCoqMH.png)
「ジンベースですね」
「ウォッカよ」
「そうでしたか?」
「じゃあもう一杯、マスターあれお願い」
「これのベースは?」
「テキーラですか?」
「これがジンベースね」
「難しいものですね」
「こういうカクテルをメインに扱ってるお店ではね、何がベースなのか、何と何が合わさってキレイな色や不思議な色、味になるのかを考えるのが楽しいのよ。もう少し勉強してから出直してきなさい」
![](https://assets.st-note.com/img/1736540289-jCB4J6T05tAo2QY3ygIexnfs.png?width=1200)
こてんぱんにやられた。
だから俺は必死になって学んだ。
カクテルバーでバイトもした。
そしてそれなりに自信がついた頃、もう一度あの店を訪れてみた。
彼女は相変わらずカウンターの一番奥で一人で飲んでいる。
![](https://assets.st-note.com/img/1736611137-WDJuXxlkTgPeCRrwEdStO9G5.png)
「ご無沙汰してます。もう一度テストお願いします」
「あらあなた勉強してきたのね。いいわよ、マスターあれとあれお願い」
「このカクテルのベースは何?」
「これはラムですね」
「正解。じゃあこれは?」
「これに正解したら一緒に飲んでもらえますか?」
「いいわよ、でも一緒に飲むだけね」
「それ以上は望んじゃダメってことですね」
「そうね私、人のモノになっちゃったからぁ」
「ご結婚されたんですか」
「そうなの、少し遅かったわね」
「おめでとうございます」
「ありがと」
「どんなお相手なんですか」
「あそこにいる人」
「えっマスター?」
「そうなっちゃったのよね、ゴメンねぇ」
「今夜はジャンジャン飲みましょう」
「とことん付き合うわよ」
![](https://assets.st-note.com/img/1736611162-ynQrKTVzw4h5RFd0Pv8xbGtJ.png)
それから2杯目のテストにも合格し、しこたま飲むことになった。
最後にはほとんど意識もなくなるほどに飲み続けた。
もちろん、売り上げに貢献したことも付しておこう。
![](https://assets.st-note.com/img/1736611198-2lgeA7uk83rsvdKIm1yXYQBD.png)
DUKE ELLINGTON & JOHN COLTRANE / In A Sentimental Mood
![](https://assets.st-note.com/img/1736612831-Ru8yaiwtGYEbkDL3NSxv26X1.png)
賑やかし帯はいつきちゃん、作中の色っぽいお姉さん画はKeiです。
ありがと。
#Bar_ANRI #DUKE_ELLINGTON_and_JOHN_COLTRANE #In_A_Sentimental_Mood #Kei