俺たちの出番だ
「書く時間はあるんかい?」
「いつ出すかによるな」
「ずいぶん盛り上がってきていますよ、だからそんなに余裕はないでしょ」
「どなたが書きますのや?」
「誰も書こうとしないから俺が書くよ」
「おまはんに書けまんのか?」
「じゃあお前が書くか?」
「いや、わてには無理ですわ。パソコンで打つだけならできるけどな」
「それに意味はあると思うか?」
「そうやな」
「そもそも必要なものなのか?」
「知らせるという意味では必要だろうな」
「どんな内容にするんだ?」
「くどくどと理由を並べ立てても仕方がないだろう」
「そやけど経過くらいは」
「経過を知らせたとして何が変わるんだ?」
「向こうはそれで納得するのか?」
「納得するかしないかが俺たちに関係あるのか?」
集会所の一角で話し合われていたのだが、徐々に人が集まってきた。
「言われたことは全部やったぞ。これから儂らは何をすればええんじゃ」
「おやっさん、俺たちが動くのはもう少し先だ」
「そうか、新たに用意するモノもないんじゃな」
「もう少し酒でも飲んでのんびりしといてくれ」
「おーい、みんな聞いてくれ」
集まった人々が静まり返る。
「いよいよ俺たちの出番がやってくるが、それはまだ少し先の話だ。今向うへ送る文章を書こうとしている。それを送り届けてからは忙しくなるだろうから今のうちはのんびりしといてくれ。それから仕掛け担当の者はいるか?」
「ここにおるぞ」
「お相手のための仕掛けだ。失敗はつまらんから、申し訳ないがもう一度点検を今のうちにお願いしたい」
「おう、任せときなって」
「始まったら存分に楽しんでもらわなきゃならないから、頼むわ」
「分かった。始まんのが楽しみってのはいいなあ。こんな気分は久しぶりだぜ」
「ケータリング班はいるか?」
「ここにいますよ」
「ばあちゃん、ご苦労さんだな」
「食事の世話は長年やってることだから、それほど大変でもないよ」
「ばあちゃん、始まったらゆっくり飯も食えないだろうと思うんだ。だからいつ誰が行っても腹いっぱい飯が食えるようにだけはしといてほしいんだ」
「それは任せてくれて大丈夫だよ。それじゃあばあちゃんパワーをお見せしようかね」
「とにかくもう少しはゆっくりできるんだから、全員身体を休めるように言ってくれ」
ここはとある山中。
3年前に法律が施行され、新しく全国5か所に設けられた高齢者コミュニティーがようやく機能し始めた頃のこと。
「考えてみたら変な話だよな」
「何がだよ」
「俺たちを含め爺さんと婆さんばっかりだけどよ、知恵や技術の集合体じゃねえか」
「個々の持つ力が一番大きいのはこの世代かもしれないな」
「そりゃそうだろ。前後の復興を成し遂げてきた世代だからよ」
「もう体の動かないヤツもいるにはいるが、概ね活躍できる場が与えられたことにイキイキとしてるヤツが多いぜ」
「ここまでは思惑通りだな」
「ところでいつ頃書き上がるんだ?」
「書き出したらすぐさ。漢字四文字だけだからな」
「そうか。全国5か所の連携はどうだ?」
「パーティーはいつ始まるんだって問い合わせが続いてるよ」
「じゃあ、そろそろ始めるか」
「明朝一番で書き上げれば、夕方までには向こうに届くと思うよ」
「それじゃあそれで行くか。各所各リーダーには連絡しといてくれ」
「分かった」
「いよいよか」
「いよいよだな」
「ところで漢字四文字は何と書くんだ」
「決まってるだろ」
『宣戦布告』さ
2回目、参加させていただきました。
小牧幸助様。素敵な企画をいつもありがとうございます。