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一夜の想いで
突然だが京都にも立ちんぼの出没するエリアがある。
といっても半世紀近く前の話で、現在がどうかということは知らない。
俺の話は半世紀近く前のものが多い。
その頃が一番遊んでいたからに他ならないのだが、覚えているだけでも数多くのエピソードがある。
記憶の不確かな部分は一部創作をしているが、基本的に実話であり今回もそのエピソードの一つとなる。
まずは冒頭の立ちんぼの話を続けよう。
数名の女性が夜な夜な街角に立ち、ひと時を共にしたいと思う殿方にお金で買われていくのだ。
簡単にいえば売春。
俺はお目に掛かったことがないのだが、その中のお一人にとんでもない方がいると風の噂で聞いたことがあった。
その方は女性であることをずいぶん前に卒業されたのではないかと思われるほどのお歳の方らしい。
直接的な話しで申し訳ないが口と指先と陰部を使って殿方を夢見心地にさせることには天才的な技をお持ちであったとか。
俺が聞いたのは噂に過ぎないから尾鰭がついて過大に伝わっていることも多分にあろうが、そういうご年齢の方が立ちんぼされていた事実はあったそうだ。
京都の繁華街は狭い。
特に夜に賑やかなエリアは本当に狭い。
狭いが故に彼女たちが立ちんぼをしているエリアにも住宅はある。
今回はそのエリアのアパートに住む恵子さんの話をしよう。
因みに恵子さんと立ちんぼは関係ない。
この話は俺が木屋町の飲み屋でアルバイト店長をしていた時の話である。
店員は俺を含め3名で、いずれも野郎。
その店は今ではもうなくなってしまったが、朝の5時まで営業している店で、仕事終わりのホステスさんたちが夜な夜な来てくれるような店だった。
そのホステスさんを目当てに男たちも押し掛けるからそれなりに繫盛していた。
ボトルさえあれば飲み放題の店だったからさほど面倒なことはない。
羽振りのよさそうなホステスさんは高いお酒をご所望になるが、基本的に庶民の店だから、最下層のボトルが居並ぶ。
不思議なもので高いお酒はすぐになくなりもう1本となるのだが、最下層のお酒はそうそうなくならない。
店が休みの日には来てくださるホステスさんのお店に飲みに行く。
高いお酒をご所望になるホステスさんのお店に伺うと、割に合わねえなと思うほどの支払いをすることもある。
まあお付き合いだから仕方ない・・・と割り切れないこともあるが・・・。
そして休肝日は永遠に来ない。
俺たちの店はカウンターだけで13席しかないのだが、多い時にはそこに50名近くが入り込む。
普通にカウンターに座って飲んでいる客。
場合によっては1つのスツールに2人で腰かけていることもあった。
カウンターの中に入って他の客の相手をしながら自分の酒を飲んでいる客。
もちろん支払いはしてもらう。
たまに相手している客から「いっぱいどうぞ」って言われることもあった。
そして座って飲んでいる客の後ろに立って飲んでいる客。
座っている客の間に入り込んで立って飲んでる客もいたなあ。
皆がすぐ知り合いになってしまうような店だったからそんな境遇でも客から文句が出ることはほとんどない。
たまに脛に傷持つ客がホステスさんに連れられてくることもあり文句を言ってきたりもするのだが、そんな時はお連れのホステスさんがこっぴどく叱ってくれたりするから問題にならない。
恵子さんもそんな客の1人だった。
ただ恵子さんはいつも1人で、普段の頭と身体の疲れを他愛のない会話で癒され (おーい、そんな店だったか? 美化してんじゃねえぞー) に来られてたんじゃないのかなぁ・・・。
彼女は高校を卒業して就職で京都へ来たそうで、昼間はOLをこなし夜に数日アルバイトで酔客の相手をしているとか。
とある日、いつものように彼女は1人で店に来た。
平日の遅い時間だからそんなに混んでいるわけもなく、他の野郎2人はそれぞれに客の相手をしており、必然的に恵子さんの相手は俺がすることになった。
いつものように他愛ない話をしていると
「私、来週誕生日なんです」
「それはおめでとうございます。なんかお祝いしなくちゃね。何か欲しいものあったりします? 高いモノは無理だけど、出来るだけ希望叶えちゃいますよ」
「来週のお店の休みの日って暇ですか?」
「今のところ予定はないから暇ですよ」
「じゃあ、夕方からでいいので一緒に食事してくれませんか?」
「俺と? 恵子ちゃんと2人で?」
「はい」
「あいつらには内緒の方がいいのかな?」
「できれば」
「分かった。お店はどうする? 何か食べたいものある?」
「私の部屋で手料理でもいいですか?」
「恵子ちゃんの手料理には興味あるけど、俺が部屋に押し掛けるというのは彼氏に怒られたりしないの?」
「彼氏なんかいません」
「分かった。じゃあケーキでも買っていこうか。手料理楽しみにしてるね」
そして翌週の店休日の夕方、ケーキの箱と恵子さんに似合いそうなスカーフをプレゼントに聞いていた住所を目指す。
この辺りってあまり環境にはよろしくないよなと思いながら、お目当ての部屋のチャイムを押す。
すぐに恵子さんが現れた。
普段はOLさんの格好のまま夜のアルバイトもしているからスーツ姿しか見たことなかったが、普段着の方がいつもより可愛く見えるから不思議だ。
「今夜はお招きいただきありがとうございます。はいこれケーキ、それからプレゼント。お誕生日おめでとう。えっと、上がっていいかな?」
「アッごめんなさい。今日はわざわざありがとうございます。さあどうぞ」
部屋の広さは2Kという感じか。
キッチンのある方にはテーブルと食器棚といくつかの家電製品、もう一つの部屋には洋服箪笥とテレビとベッドだったと思う。
申し訳ないが食事の内容はまったく覚えてない。
美味かったのか不味かったのかさえ覚えてない。
ただ恵子さんが会社を休んでまで作ってくれた料理はきっと豪勢だったのだろうと思う。
この一点では彼女に謝らなければならない。ゴメン。
「私、田舎に帰ってお見合いすることになったんです。だから一夜の思い出をください」
「唐突だけど一夜の思い出って何をすればいいの? トランプでもする? それともビデオでも借りて来ようか?」
「私を抱いてください」
「俺は普通に男性だからできない日ってのは無くて、そういう意味では可能なんだけどどうして?」
「初めてお店に行った時から好きだったんです。一目惚れってやつです」
「そうなんだ。全然気が付かなかったな。でもそういう想いでの作り方ってどうなのかな。明日の朝までは一緒にいるからそれで我慢しない?」
「あなたに抱かれたいんです。あなたに抱いてほしいんです」
「そんなつもりで来たわけじゃないから、添い寝じゃダメかな?」
「朝までですよ」
「ちょっと聞いてくれる? 据え膳食わぬは男の恥って言葉知ってる?」
「はい、今のような状態ですよね。女性が食べてって言ってるんだから遠慮なんかしてるんじゃないってことですよね」
「そう。でも本来の意味はすぐに食べられるように用意した膳のことなんだ。だから食べるのが当たり前なんだけど、それが男女間に転用されてさっき恵子ちゃんが言ったように使われてるんだけど、その膳は男である必要はどこにあるのかって思ってる。膳が用意してありますから食べてくださいねってことは例えばお爺ちゃんお婆ちゃんでもいいし、子供でもいいし」
「何が言いたいのですか?」
「そうだよね、意味分かんないよね。俺はね膳が用意されてないところに膳を用意させてこそ男が立つと思ってるんだ。この立つはあっちの立つと違うからね」
「それくらい分かります」
「男が口説いてこその女だと思うし、女に口説かれてホイホイ乗ってしまう男じゃいけないと思ってるわけ。だから今夜は添い寝で辛抱してよ」
「今から私を口説いてくれるとか」
「それも考えたけど、お店以外で会うのも初めてだし、こんなに長く話すのも初めてだし、君の気持ちを知ったのもさっきだし、色々フェアじゃないって俺の心が言ってるんだ」
「分かりました。朝までの添い寝で我慢します」
「物分かりが良くて助かったよ。寝物語で色々聞かせてあげるからね」
「お風呂入りますか?」
「まさか泊まるつもりじゃなかったし着替えがないからこのままでいいよ」
「着替え用意してますからお風呂入ってきてください」
「じゃあ君が先に入れば?」
「私は夕方に一度入りましたから」
「何度入ってもいいじゃない。なんなら一緒に入る?」
「それは・・・ちょっと無理です」
「分かった。じゃあ入ってくるね」
お風呂に入っていると
「バスタオルと着替えここに置きます」
「ありがと」
女性の部屋でお風呂に入ることなど早々あることではないが、ジロジロあちこち見るのも憚られ烏の行水で風呂を出た。
バスタオルの横にトランクスとTシャツとスウェットが置いてあった。
俺はトランクス派だけど、前の彼氏の忘れ物だろうか?
だけどいずれも折り目がキッチリしており、新品の封を切ってすぐという感じだ。
今夜のために買い求めてくれたのだろうか。
部屋に戻るとスウェットに着替えた彼女がベッドにポツンと座っていた。
「着替えありがとね。逃げないからシャワーだけでも浴びてくれば?」
彼女が風呂から戻ってくる。
さあ添い寝のお時間の始まりだ。
しばらくは他愛ない話をしていたのだが、
「明日も休みなの?」
「いえ、今日休ませてもらったので明日は行かないと」
「なら、もう休まないと明日しんどいよ」
「一晩くらい大丈夫です」
「そう。ならもう少し話そう」
「もう少し引っ付いてもいいですか」
「少し冷えてきた?」
「はい、それからどこか触っててもいいですか」
「場所にもよるけどいいよ」
いきなり股間を触り出した。
「ちょっと、そこは・・・」
という間もなく布団に潜り込んだ彼女はパクっと咥えこんだ。
「ダメだって」
と言ってはみたが、あまりの気持ちよさにそのまま続けてもらった。
そして結局彼女の思惑通りそういうことになってしまった。
どこでリサーチをしてきたのかは分からないが彼女は俺の好きな行為や俺の好きな体位などもよく承知だった。
迂闊に喋ることは戒めなければならないと思った。
また、行為が終った後、頼んでもいないのにもう一度咥えてゆっくりと舐めまわしてくれた。
それから立ち上がったかと思うといつ用意していたのか暖かいおしぼりで陰部をキレイにしてくれた。
あまりにも手慣れた雰囲気に彼女に尋ねてみると経験は余りなく完全な耳年増だということだった。
彼女の言い分なのだから信じておこう。
そして2人は朝までの短い時間を微睡んだ。
次の日の朝、彼女の出勤に合わせて一緒に部屋を出た。
彼女は心なしか恥ずかしげだった。
それ以来彼女が店に来ることはなかった。
今のように携帯やメールなどがあればまた違った結末になっていたかもしれないが、次の休みに彼女がアルバイトしていたスナックに行ってみた。
既に彼女の姿はなく店の人に聞くと実家に戻ったそうだ。
俺はちゃんと彼女の想いでになれたのだろうか。