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古事記百景 その三十七
神武東征
神倭伊波禮毘古命。…自伊下五字以音…
興其伊呂兄五瀬命二柱。…伊呂二字以音…
坐高千穂宮而。
議云。
坐何地者。
平聞看天下之政。
猶思東行。
即自日向発幸。
御筑紫。
故到豊国宇沙之時。
其土人。
名宇沙都比古宇沙都比売二人。…自宇以下十字以音…
作足一騰宮而。
獻大御饗。
自其地遷移而。
於竺紫之岡田宮。
一年坐。
亦從其国上幸而。
於阿岐国之多祁理宮。
七年坐。…自多下三字以音…
亦從其国。
遷上幸而。
於吉備之高嶋宮。
八年坐。
故從其国。
上幸之時。
乗亀甲。
為釣乍。
打羽擧來人。
遇于速吸門。
爾喚歸。
問之汝者誰也。
答曰僕者国神。
《名宇豆毘古。》
又問汝者知海道乎。
答曰能知。
又問從而仕奉乎。
答曰仕奉。
故爾指渡槁機。
引入其御船。
即賜名号槁根津日子。(此者倭国造等之祖。)
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神倭伊波礼毘古命とその伊呂兄五瀬命の二柱の神は、高千穂の宮においでになり御相談なさり、
『何処の地にあれば天下の政を平らかに治めることができるのだろうか。やはりもっと東に向かおうと思うのだが』
と仰せになり、すぐに日向をお発ちになり、筑紫へ行幸されました。
そして、豊国の宇沙に到着されました時に、その土人、名を宇沙都比古・宇沙都比売の二人が、足一騰宮を造って大御饗を献上しもてなしました。
そこからお遷りになり、竺紫(の岡田宮に一年おいでになり、またそこからお上りになり阿岐国の多祁理宮に七年おいでになりました。
またそこからお上りになって吉備の高島宮に八年おいでになりました。
またそこからお上りになる時に、亀の甲羅に乗り釣りをしながら勢いよく袖を振りながら近付いて来る人に速吸の門で出遭いました。
そこで呼び寄せ、
『そなたは誰か』
とお尋ねになりました。
それにお答えになり、
『私はこの土地の国つ神です』
と申されました。
また、
『そなたは海の道を知っているか』
とお尋ねになり、
『よく知っております』
とお答えになりました。
また、
『私に仕えてくれるか』
とお尋ねになると、
『お仕えいたしましょう』
とお答えになりました。
そこで竿をお渡しになり、神倭伊波礼毘古命と五瀬命の御船に乗せ、槁根津日子の名を賜いました。
これは倭国造らの祖先です。
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※神倭伊波礼毘古命は初代・神武天皇のことです。
※伊呂兄とは同じ母を持つ兄または弟のことです。
※日向とは九州南部を指します。
※筑紫とは九州北部を指します。
※豊国の宇沙とは大分県宇佐市のことです。
※土人とはその地に生まれ住む民のことであり、原住民や現地人の意味で
す。
※宇沙都比古と宇沙都比売は宇佐の国造であった宇佐氏の祖です。
※足一騰宮は日本書紀には一柱騰宮と記され、菟狭の川上にあると
書かれています。珍しい名の宮なのでその意味さえも不明のようですが、
本居宣長によると「宮の片方は宇佐川の岸に構え、一方は流れの中に大き
な柱を立てる」とあり、足一騰宮とは片方の柱が陸にある宮ということに
なるようです。また、足一騰宮の場所が特定されていないため、数か所の
地がその名を掲げています。有名なところでは、宇佐市上拝田、宇佐市宇
佐神宮、宇佐市妻垣神社が有力です。
※大御饗とは天皇が召し上がるご馳走のことのようです。
※竺紫の岡田宮の場所は特定されていませんが、福岡県北九州市に筑前黒
崎・岡田宮があり、岡田神社とも言われています。
※阿岐国の多祁理宮も場所は特定されていませんが、阿岐国は安芸の国のこ
とであり、広島県安芸郡のことです。また|埃宮多家神社《えのみやた
けじんじゃ》が多祁理宮であると由緒書きに記されています。
※吉備の高島宮も場所は特定されていませんが、吉備は岡山県のことであ
り、岡山市高島に神武天皇聖蹟高嶋宮顕彰碑があります。また岡山県内に
高島宮址とされるところが数か所あります。
※速吸の門とは流れの早い海峡という意味で、豊予海峡の古称(速吸瀬
戸)、吉備国児島湾の古称(早水の戸)、明石海峡の古称などが候補地と
してありますが、場所は特定されていません。
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「太安万侶です。いよいよ中つ巻がスタートしました。しかし、それぞれの天皇のエピソードなどが原文では綴られているのですが、残念なことに文の量にかなりの差があり、同等の扱いにはできないと思われます。場合によっては、いくつかのセクションを纏めることもあるかもしれません。ご了承ください。それでは今回のゲストをご紹介しましょう。神倭伊波礼毘古命にお越しいただきました。まずは順調のようですね」
「ありがとう、ここまでは順調に来ているね」
「それにしてものんびりとした行程ですね」
「目的地が決まっている訳じゃないから」
「その土地の様子を見ながらということでしょうか」
「その通りだね。まあ、それぞれの地で歓待してくれるから、なかなか先へ進めないということもあるのだけどね」
「同じところに何年もいるなど、かなり慎重に歩を進めていますよね」
「どの土地が政の中心地に相応しいかを見極める必要があるから、慎重にならざるを得ないよ」
「なるほど」
「海に面したところばかりなので、食事もいいんだよね。景色も綺麗だし」
「観光気分のように聞こえますが」
「その程度の気構えで行かないと、警戒されてしまうからね」
「自分の治める土地を政の中心地にしようとする方がいるということでしょうか?」
「それもあるし、他の土地に行くのならば、いっそ潰してしまえと思う者もいるようだね」
「なかなか物騒な行程なのですね」
「この国のトップになろうとしているのだから、その程度は覚悟しているよ」
「どこまで行かれるつもりでしょうか?」
「須佐之男命じゃないけれど、清々しいと思える土地に出会えれば、この旅は終わるのだけれど…………」
「国生みから察すると、畿内までが最終目的地のように思えるのですが」
「国生み以降も諏訪までは行ってるよね。あと佐渡ヶ島とか」
「関東、東北、北海道はどうします?」
「とにかく私の政の及ぶ範囲を確定しないとね」
「そのためののんびりした歩みなのですね」
「それも一つだよね」
「他には何が?」
「もともと私と私の兄弟で始めたこの行脚だけど、主張を理解してもらうのは当たり前だけど、協力者を募るのも大事なことなんだよ。そうでないと、いざ何かをしようとしても何もできないことになるだろ? だから、出来るだけ多くの理解者と協力者を得ながら目的地を探しているんだよ」
「遊んでいるように見えていても、大事なことをやっているのですね」
「そんなに構えてる訳じゃないんだけどね」
「まだまだ旅は続くのでしょうね」
「色々見て回れて、いろんな人と話もできるし、楽しい旅ではあるのだけれど、早く落ち着きたい気持ちもどこかにはあるよ」
「ご健闘をお祈りしています」
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古事記百景 その三 古事記百景 その四
古事記百景 その五 古事記百景 その六
古事記百景 その七 古事記百景 その八
古事記百景 その九 古事記百景 その十
古事記百景 その十一 古事記百景 その十二
古事記百景 その十三 古事記百景 その十四
古事記百景 その十五 古事記百景 その十六
古事記百景 その十七 古事記百景 その十八
古事記百景 その十九 古事記百景 その二十
古事記百景 その二十一 古事記百景 その二十二
古事記百景 その二十三 古事記百景 その二十四
古事記百景 その二十五 古事記百景 その二十六
古事記百景 その二十七 古事記百景 その二十八
古事記百景 その二十九 古事記百景 その三十
古事記百景 その三十一 古事記百景 その三十二
古事記百景 その三十三 古事記百景 その三十四
古事記百景 その三十五 古事記百景 その三十六
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