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サクヤ
この国の支配者である女王の孫が、新たな支配地域に自身が住まう宮殿を造った。その宮殿は筑紫の日向の高千穂峰にある。
隣国を支配するよう女王に指示されたニニギは、タケミカヅチなどの協力を得て平定に成功した。その地に宮殿を建造したニニギは比較的ノンビリした日々を過ごしていたのである。
そして今日、ニニギの妻になる娘が宮殿を訪れる予定になっている。
こやつ女を知らぬわけでもあるまいに、朝からソワソワと落ち着かない。
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『ようやく来たかサクヤ、待ちわびたぞ』
『あんたの嫁になんかなるつもりなかったけど、親父が行けっていうから来てやったわ』
『親父殿は賢明だな』
『どうだか』
『ところで隣にいるのだ誰だ?』
『あたいの姉ちゃんだよ』
『姉だと?』
『姉ちゃんだと悪いのかよ』
『いや、似てないなと思ってな。名は何という』
『イワナガっていうんだ』
『姉妹の仲は良いのか』
『普通じゃないの』
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話しは少し前に遡る。
ニニギが新しく支配した領地を視察に出た時のこと、笠沙之岬というところで他を圧するほどの美人に出会った。
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『そこの娘、お前はどこの誰だ?』
『あんたこそ誰だよ? 人にものを訪ねるなら、まずは自分から名乗るべきじゃないのか? 親父にそう教わったぞ』
『なるほど、それは親父殿が正しい。私はこの国の支配者である女王の孫で、新しくこの領地の主となったニニギという』
『ホントかよ?』
『疑うのか?』
『だって証拠がないじゃん』
『ふむ。どうすればいい?』
『身分証とか持ってないのか?』
『生憎とな。だが丘の上のうちに来てくれるといくらでも証明できるぞ』
『その手には乗らないよ』
『その手?』
『おっさん、そうやってうちに呼びこんで変なことするんだろ』
『私は変質者か?』
『ほら認めた』
『そこまで言うなら村人全員連れて来ればいい。それができることが証明にならぬか?』
『そういうことなら一応信じてやるよ』
『それは良かった。それで、お前はどこの誰なんだ?』
『簡単に名前言っちゃいけないよって母ちゃんに聞いたぞ』
『では誰に聞けばいい?』
『親父に聞いてくれ』
『その親父殿はどこにいる?』
『うちにいるよ』
『そのうちはどこにある?』
『この道を真っ直ぐ行くと集落がある。そこでサクちゃんちって聞けばわかるよ。あっ』
『サクというのか』
『おっさんきたねぇぞ』
『私はうちを聞いただけだが』
『これって誘導尋問って言うんじゃないのか』
『難しい言葉を知ってるな』
『おちょくってんのか?』
『そう目くじらを立てるな』
『ふん』
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『サク、お前私の嫁になる気はないか?』
『嫁だぁ?』
『そうだ』
『ないね』
『それは残念。それは親父殿が願ってもか?』
『親父の言葉は絶対だ。おやじが望むなら例え仇であっても嫁ぐ』
『その言葉忘れるな』
『親父に会うのか?』
『そうしないとお前が嫁に来ないのならな』
『だけど順番なら姉ちゃんが先だ』
『姉がいるのか?』
『一人だけな』
『まずは親父殿にあってみるか』
『好きにしろ』
『楽しみに待ってろ』
『誰の楽しみだよ』
『もちろん私のだ』
『何だよそれ』
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そして後日。
『サクの家を訪ねてきたのだがここがそうか?』
『おめぇ誰でぇ』
『サクの口の悪さはどうやらあんた譲りらしいな』
『うちの娘が何かしでかしたのかい?』
『いや、嫁に貰いたいと思ってな』
『あのお転婆をか?』
『そのようだ』
『そいつぁ豪儀なこった』
『認めてくれるのか?』
『認めるも認めねぇも、どこの誰かも分からんヤツに娘をやれるか』
『これは失礼した。私はこの領地を治める領主でニニギという』
『その領主さまがサクヤを気に入っただとぉ』
『サクヤと言うのか』
『サクでもサクヤでも好きに呼べばいいさ』
『それでどうなんだ?』
『どこで会った』
『笠沙之岬で一人でいるところに出くわした』
『あいつはまた一人でフラフラと』
『親父殿』
『おめぇの親父になった覚えはねぇが』
『ではなんと呼べばよい』
『俺の名はオオヤマツミという』
『ではオオヤマツミ殿、ものは相談だが、宮殿の東側に広がる領地の8分の1を進ぜよう。それでどうだろ』
『それがサクヤの価値というわけか? ご執心というわけでもなさそうだな』
『で、では6分の1ではどうだ?』
『ほう? 少しは執着があるようだ』
『分かった。4分の1だ』
『乗った』
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決して納得したわけではないのだが、領地の広さに負けて下の娘を売り渡した、いや、嫁がせることが決まった日から数日後のこと。
『イワナガ、サクヤを嫁にと申し込まれたのは聞いておるか?』
『聞いております。お相手は新しい領主さまとか、大層名誉なことではございませんか。しかも広い領地までいただけるとか』
『そうなのだが、どうも娘を売り渡したようで気が晴れん』
『そういうことなら、姉妹で嫁ぐのも珍しくないこと、わたくしもサクヤと一緒に参り領主さまを見極めて参りましょう』
『お前が行ってくれるなら安心じゃな』
『一計を案じますがよろしいでしょうか』
『どういう策じゃ?』
『かくかくしかじかで……』
『万事お前に任すとしよう』
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実はこれが長い歴史の中の支配する側とされる側の初めての婚姻となる。。
そしてサクヤとイワナガの二人の姉妹がニニギの元に嫁いだのだった。
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『それで、姉同伴とはどういうことなんだ?』
『親父が二人とも嫁げってさ』
『何?』
『姉ちゃんもあんたの嫁になるんだと』
『確かにそういう例も珍しくはないが……』
『両手に初物の花だぞ』
『私はサクヤだけでよかったのだが』
『片手落ちは良くないんじゃないか?』
『なるほど一理あるな』
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『あたいも姉ちゃんがいてくれると心強い』
『そういうことならしばらく姉も宮殿内におればよい』
『しばらくってどういうことさ』
『諸々サクヤの分しか用意はしておらん。それに親父殿とも話さねばならん』
『キチンと決まるまでってことか?』
『そうさせてくれ』
『仕方ないねぇ。姉ちゃんどうする?』
『わたくしもそれでいいわよ』
『じゃあ決まりだ。ってことで、おっさん腹減ったぁ』
『サクヤ。あなたの夫になる方におっさんはないでしょ』
『じゃあ何て呼ぶんだよ』
『ご主人様とか、あなたとか、ご領主さまとか、ニニギとか、ニギちゃんとか、ニギニギとか』
『ニギニギがいいな』
『それは後でよい』
『なんの話だ?』
『分からぬなら良い』
『変なヤツ』
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『まずはそれぞれの部屋で寛げ。食事は準備ができたら部屋に運ばせる』
『そりゃありがたい』
『わたくしの部屋もご準備いただいたのですか』
『サクヤと同室では何かと不都合もあろう』
『あたいは問題ないぞ』
『サクヤは今まで一人部屋ではなかったのか』
『一人部屋に決まってるだろ』
『だったら』
『たまには姉ちゃんと一緒もいいかなって』
『それではイワナガに不都合があろう』
『そうなのか姉ちゃん?』
『わたくしも特に不都合はないわよ。だけどニギニギがせっかくわたくしにもお部屋をご用意してくださったのよ。使わせてもらいたいじゃない』
『姉ちゃんも別々がいいんだな』
『サクヤの部屋に遊びに行くからそれでいいでしょ?』
『分かった。そんじゃあ飯にしようぜ』
『サクヤぁ~』
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木花咲耶姫の物語を書こうとしたらこんなことになりました。まだ一つのエピソードも描けていません。できれば続きが書きたいんですけどねぇ。