天真爛漫な彼女とちょっと根暗な僕 7
第七話
放課後になった。杏も待たせているから、とにかく放送部へ急ごう。あまり待たせると拗ねてしまうかもしれない。拗ねると厄介なんだよなあいつは。
放課後の放送室
まだ誰も来てないな。この時間だと誰かいるのに今日はどうしたんだ?
ん? 張り紙?
そういうことか。狭い放送室でウロウロされると確かに作業は遣りづらいからな。平井さんgood job!!。さてそれではチェックしましょうね。
コネクターを回すとガリガリと音がするから単なる接触不良のようだな。断線してなくてよかったよ。
ん? 微かにノイズが聞こえるぞ。ケーブルの予備ってあったっけ?
備品庫の中をごそごそ探していると背後から声がかかった。
「先輩、わざわざ済みません」
「平井ちゃん、度々起こることだから、そんなに気にしなくいいって」
「はい、ありがとうございます」
「接触不良だということは分かったんだけど、ちょっとノイズが噛んでるからケーブル換えておこうと思って。新しいのってあったっけ?」
「その引き出しになかったら分かりません」
「そうだよね。も一度探すよ」
備品庫の中をごそごそ探していると背後から声がかかった。(再掲)
「先輩」
「何?」
「後ろから抱きついていいですか?」
慌てて振り向く僕。
「どうした平井ちゃん?」
「理由はいくつかあります」
「そうじゃなくて」
「一つ目は先輩に後ろから抱きつくと、胸が大きくなると私たちの学年で囁かれています」
「エッ?」
「私、胸の小さいのが少しコンプレックスで、少しでも大きくなるのなら試してみてもいいかなって」
そんな話になってるのか?
恐るべし吉川さんの噂の伝播力。
人間スピーカーの威力はすさまじいな。
彼女こそが真の放送部員じゃないのか。
「それデマだから」
「やっぱりそうなんですね。でももう一つ理由があるんです」
聞かない方がいいと思うんだけどな。
「私先輩のことが好きなんです」
ほら、聞かなけりゃ良かったやつ。
「あのね平井ちゃん、同じクラブ内での恋愛ってあんまり良くないと思うんだ」
「私の胸が小さいからですか?」
「胸は関係ないよ。この際、胸のことは一旦忘れて……」
「でも先輩は大きい方がいいんでしょ?」
「大きければいいってもんでもないんだよ」
何答えてんだ、誰の胸も実際に触ったことないのに。
「そうじゃなくて同じクラブ員同士で付き合うとか別れるとかになると共に居づらくなったりするじゃない。だからそういうことはもう少し慎重にしたいんだ」
「私がクラブを辞めれば解決するんですか?」
そういうことじゃないんだけどなぁ。
「先輩はお付き合いしてる人いるんですか?」
「今はいないよ」
「瀬戸先輩は違うんですか?」
「あいつはね幼馴染なんだ。それに心に決めた人がいるみたいだよ」
「そうなんだ。強力なライバルだと思ってました。じゃあ立候補できるんですね?」
人の話聞いてねぇなぁ。
「そういうことじゃなくてね」
「先輩が困ってるようなんで今はこれ以上の話は止めておきます。でも私の気持ちは分かってください」
「平井ちゃん、いや平井君の気持ちには感謝するよ。もう少し冷静になったら一度お話ししようね」
「私は冷静ですよ」
「とてもそうは見えないんだけどね」
それにしてもこの間の松村さんといい、平井ちゃんといい、立て続けに告白されるなんてモテ期の到来かな? ようやく人生の春が来たってことかな?
このご縁を大切にしたいけど、ちょっと身近すぎるんだよな。
松村さんは杏の友達だし、平井ちゃんはクラブの後輩だし。
まぁ僕に興味を持ってくれる人なんてそんなもんか。
「先輩、修理終わりそうですか?」
「これから番組作るんだっけ?」
「明日のお昼休みの放送分のストックがないんですよ」
「他のメンバーは?」
「修理が終わりそうなら連絡することに」
「一応現状でも音が出せるからもう呼んだら」
「私と二人だと気まずいですか?」
「そういうことではなくて、早く始めないと帰りが遅くなるなって」
「遅くなったら先輩送ってくださいね」
「それが今日はこれから用事があってね。だからダメなんだ」
「やっぱり私とじゃイヤなんだ」
「そうじゃないってば。本当に用事があってさ。修理の予定などなかったから人も待たせてるんだよ。だから修理を早く終わらせたいんだ」
「それって私のせいですよね」
しまったぁ。予定なことを口走ってしまったぁ。
「平井ちゃん、そうじゃなくてね……」
突然後ろから平井さんが抱きついた。少し前のめりの姿勢で作業をしていた竹本は前かがみ状態になり、触れてはいけない電線に触れてしまった。
「平井さん、大丈夫?」
「先輩、ビビビッてきました。やっぱり運命の人だったんですね」
「いや、後ろから押される形で、電気の流れてる銅線に触れてしまったからなんだよ」
「少しは胸が大きくなるでしょうか」
「いや、すべて勘違いだから」
「今日はご予定があるということなのでお帰ししますけれど、明日からは先輩の時間は私が独占しますから」
「話が全然かみ合ってないんだけど」
「ついに私も運命の人に巡り合えたのね。それが先輩で良かったぁ」
「平井ちゃん、落ち着こうか」
「先輩、落ち着いてる場合じゃないですから」
「いや、今が一番落ち着く時だから」
「運命の人にいつまでも先輩は変よね。だったら克哉さん? キャー恥ずかしい」
恥ずかしいじゃないんだけど。
「克哉さんも千夏って呼んでね」
呼べないよ~。
どぎまぎしながらも一応の修理を終え、足早に放送室を後にして、杏の待つ場所へと向かう克哉さんでした。
つづく
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