姪っ子物語 その六
第六章 降雨
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この曲を聴きながらゆっくり読んでいただくと何かが起こるかも?
『ミク、俺はいつまでオジサマなんだ?』
『だってぇそれ以外の呼び方がしっくりこないんだもの』
『子供ができてもか?』
『オジサマじゃ変な感じよね』
『だろ?』
『それまでには考えるわ』
『候補はあるのか?』
『当然でしょ。パパ、父上、お父さま、父さま、父さん、お父さん、ダディ、ぱぴぃ、オジサマ』
『最後のは一緒じゃねぇか』
『だって一番呼び慣れてるし』
『呼び慣れててもオメエはイヤだって言わなかったか?』
『そうだったかなぁ?』
『じゃあオメエも姪っ子ミクにするか』
『オメエって言った』
『魔女っ子メグみたいだな』
『何それ? それより無視したぁ』
『これをジェネレーションギャップっていうのか』
『今更そんなことで悩まないの』
『ミクはタフだなぁ』
『オメエ1回ね』
『はいはい』
日常会話はいつも通りだ。だが俺たちはとうとう籍を入れた。
結婚式や披露宴はしなかった。
友人知人知り合いには、メールやはがき、封書も含めて報告だけにとどめた。
その代わりと言っては何だが、新婚旅行の代わりにミクの実家に2週間ほど滞在した。そこを拠点にあちこち観光したり、旨いモノを食ったり、そのほとんどが義理の両親にも同行してもらったから、ミクにすれば親孝行になったんじゃないかな。
今のところ莉子さんに襲われることもなく、無事に新婚生活を送っている。それどころか「もうやったのか?」とか「孫はいつになる?」とか、莉子さんはすっかりばあばモードに入ろうとしている。
そうそう、いつだったかミクが親しくしている友人たちが我が家に集まったことがあった。目的はミクの旦那をひと目見てそれを肴に飲もうってことだったらしい。
みんなが集まったのを見計らいあいさつに出向いたんだが、ワーワーキャーキャーとその辺のアイドル並みの扱いには辟易した。
中に一人、ミクより、いや、ミクと同じくらいにそそられる女性がいたが、ここで声を掛けるわけにも手を出すわけにもいかない。縁があればまた会えるだろうとは思ってみるが、ミクと莉子さんの反応を想像するだけで気持ちが萎える。
『ねぇオジサマ』
『あぁ』
『クリスマスも終わってもうすぐお正月ね』
『そういう順番だから仕方ねぇな』
『お正月はどうするの?』
『家でのんびりしようぜ』
『おせちも頼んだしね』
『あぁ』
『お雑煮って地域によって違うっていうけど、オジサマのところはどんなの?』
『京都は白味噌だ』
『どんな味だろ?』
『少し甘い』
『甘いんだ?』
『餅は丸くて焼かない』
『うちはお澄ましで、お餅は四角で焼くよ』
『全然違うな』
『オジサマは白味噌がいいの?』
『誰かに聞いたことがあるが、白味噌の雑煮は難しいんだそうだ』
『そうなの?』
『だからミクのつくれるのでいい』
『挑戦してもいい?』
『挑戦するのはいいが、正月からマズいのを食わせられるのは勘弁だな』
『ヒドい』
『チャレンジ精神は認めてやるよ』
『じゃあ今年はうちの実家のお雑煮ね』
『それで充分だ』
『おせちは何がスキ?』
『数の子とイクラがダントツだな』
『おせちじゃなくてお寿司屋さんでいいみたいね』
『最近はごまめとか黒豆もよく食うな』
『ごまめって何?』
『ごまめは方言か?』
『聞いたことないよ』
『たしか田作りだったと思うぞ』
『田作りかぁ』
『たたきごんぼも旨いよな』
『少しおせちに近付いたわ』
『煮しめはあまり好んで食わんな』
『おせちの中で一番場所取ってるのに?』
『残った煮しめを天ぷらにすると旨いんだ。元々味付きだからな』
『そのためにおせちの煮しめを食べないの?』
『そんな感じだ』
『少し変わってるのね』
『あと求肥巻きはスキだぞ』
『それって何?』
『白身魚を酢で〆て昆布で巻いたヤツだ』
『龍皮巻き?』
『求肥巻きと聞いたぞ』
『多分龍皮巻きと似たようなものね』
『そうかもな』
『結構おせちも地域差があるのね』
『海の近い地域のおせちは海産物が多いって聞くからな』
『さっきから聞いてると海産物がスキなのね』
『大好きだぞ』
『骨取れないのに』
『少しはできるぞ』
『そうね、キレイに食べられないだけだもんね』
『それを言うなって』
『ハハハ』
『年越しそばはどうだ?』
『うちは暖かい天ぷらそばだったな』
『京都はにしんそばが一般的なんだが、小骨が多いから俺も天ぷらそばがいい』
『じゃあ我が家は天ぷらそばね』
『暖かい蕎麦にワサビってのも旨いぞ』
『それ美味しそうね』
『一度試してみればいい』
『うん』
『そばがスキか?』
『うん大好き。オジサマが好きなお蕎麦屋さんってどこ?』
『俺の好きな店はいくつかあるが、晦庵 河道屋や、田毎は古い京都人には外せないだろうな。あとは有喜屋の納豆そばか、五かな』
『一番のお薦めは?』
『納豆がスキなら有喜屋だな。納豆の概念が変わるぞ』
『他には?』
『五は和久傳っていう有名な料亭がやってるから料亭の味と蕎麦の両方が楽しめるぞ』
『さすが京都って感じするなぁ』
『最近京都に蕎麦屋が増えてるそうなんだ』
『そうなの?』
『気が向いた時にどっか行ってみようぜ』
『もちろん』
他愛ない会話で一日が過ぎる。
ささやかすぎる幸せは今までの俺になかったものだ。
相変わらずミクの言動や行動には驚くことも多々あるが、それですら楽しいと思えるのだから俺も変わってきたということだろう。
いつまで続くのかなんてわかるはずもない。だけど続く限りは楽しみたいと思っている。ミク、よろしくな。
『おいミク、まだ寝ないのか?』
『もう少しね』
『最近本ばかり読んでるな』
『この本が面白くって』
『なんて本だよ』
『姪っ子物語っていうんだけど、まるで私たちのことが書いてあるみたいなの』
『そんな本があるのかよ』
『ここにあるわよ』
『そうか、じゃあ先に寝るぞ』
『待って待って今行くから』
スピンオフとかスピンアウトとかいろいろ書けそうだけど、とりあえずこれで終わりだ。
最後まで読んでくれたオメエたちには感謝するぜ。
またオメエって言っちまった。ミクに叱られそうだな。
ありがとよ。じゃあな。
あとがきみたいなもの
なぁ あんた
今の自分が生きにくいと思うなら、ミクとして生き直してみたらどうだい?
なんたって未来と書いてミクって読むんだぜ。何か明るそうだろ?
俺と一緒にさ…………行こうぜ。
長くなっちまったけどこれで終わりだ。