天真爛漫な彼女とちょっと根暗な僕 6
第六話
前回は最後の最後に杏という僕の幼馴染から『心に決めた人がいる』と爆弾発言が飛び出した。一瞬クラス中がシーンとなったように感じたが、それが誰なのか誰も突っ込めないまま現在に至っている。今回の話はその話が中心になるのだろうが、はてさてどうなっていくことやら。
それでは第六話の始まり始まり~。
別の日、学校の教室
「カッチン、今日は何か予定ある?」
「特に予定はないが、杏とそのフレンズたちに揶揄われないようにしないといけないとは思ってる」
「私がいつカッチンを揶揄ったのよ。確かに梨香を筆頭に私の友達はあなたをオモチャにしようとしているように見えなくはないけれど。あくまで彼女らの所業で、私はカッチンの危険を察知して止めに入ってるくらいだからね」
抱きつかれたり、付き合おうって誘われたりはしたけど、危険を感じることはなかったぞ。むしろ杏とは違う感触が楽しめて心地よいっていうか楽しいっていうか……。
「ねぇ聞いてる? だから私はカッチンを揶揄ったことはないの。分かった?」
そうは言うが、突然後ろから抱きつかれて、気持ちいい? って聞かれたら揶揄われたと思うだろ普通。
「それで、今日の予定がどうしたんだ?」
「たまには一緒に帰らないかなぁって」
「別にいいぞ、今日うちの親二人とも出張でいないから、どこかで飯でも食うか。ちょっと聞きたいこともあるしな」
「じゃあカッチンちで私が夕飯作るよ。私も少し話したいことがあるんだ」
「杏の飯を食うのっていつぶりだろうな」
「何か食べたいものある?」
「すべて杏に任せる。腕は信用してるから」
そう杏はがさつで、おっちょこちょいで、天真爛漫なヤツだけど、料理の腕はいい。
「ねぇカッチン、ギューってしていい?」
「ギューって何だ? 今夜の食事の話か?」
「カッチンはギューも知らないの?」
それ知ってないとヤバいのか?
「教えてあげるからよく聞いてね。まず最初にあなたが私の胸に、正確には胸と胸の間に顔を埋めます。そしてわた……」
「ちょっと待て、すでに前提がおかしくないか?」
「そこはスルーしてくれていいから、じゃあ続けるわよ。そして私があなたの頭をギューって抱きしめるの」
それは僕を窒息させるための新しい技か何かか?
「説明するより実践の方が早いわね。カッチン来て」
「杏、胸の谷間に顔を埋めるなんて申し出は有り難いがここは学校でもうすぐ次の授業が始まる。次回ということにしないか」
「あっそうか、じゃあ今夜にしようか。先に楽しみがあるのっていいことだしね」
今夜の楽しみか。今夜僕の運命は窒息技で絞められて終わるのか。意外に冷静だな僕。
杏が何をそんなに嬉しそうにしてるのか分からないが、夕飯を一緒にしようと言ったのは僕だし今更取り消すのも変だしな。
「あのー、竹本先輩いらっしゃいますでしょうか?」
「竹本~、お前訪ねて女の子が来てるぞ」
クラスの入り口を見るとクラブの一学年下の後輩が立っていた。確か平井さんだったっけ。別のクラスの女子が訪ねてきたのが珍しいのか、それとも僕を訪ねてきた女子が珍しいのか、クラスメイトに囲まれて平井さんが小さくなっているようだ。
「どうしたの? 平井さん」
「放送室の設備がちょっとおかしいんです。部長にお知らせしたら竹本先輩に見てもらえって言われて」
僕は放送部に所属している。放送部の設備や技術に関しては今のところ僕の右に出るヤツはいない。だから部長の言うことも分かるんだけど……。
「部長は見に行ったの?」
「いいえ、お知らせした時点で先輩にって」
「あの野郎」
「お時間ありますか?」
「急ぐのかな? それとも放課後でいい?」
「放課後で大丈夫です。明日のお昼休みの番組を作る準備をしてたら急に音が出なくなって……私が潰しちゃったんでしょうか?」
「見てみないと何とも言えないけど、単なる接触不良かもしれないし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。機械自体は相当古いから、そんなこともあるんだ。気にしなくていいからね。じゃあ放課後に行くから」
「よろしくお願いします先輩。皆さんお邪魔しました」
「またいつでもおいでよ~」
クラスメイトは快く送り出したのだけど、浮かぬ顔をしてるのは杏だ。
「どうした杏?」
「一緒に帰ろうって言ってたのに」
「悪いな、うちの機械は癖が強くってさ、僕でないと分からないこともあるんだよ。だからちょっと行ってくる」
「夕飯どうするの?」
「そんなには遅くならないだろうから、先にうちに行ってるか? それともどっかで待ってるか?」
「適当に時間潰してるから、終わったら連絡して」
「分かった」
ちょっと予定が変わったけど、放送部にとりあえずは行かなくちゃならなくなった。短時間で直ればいいけど、さてどうなるのかなぁ。
つづく
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