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どないしまんのや|百人百色

こころにも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜はの月かな
 三条院(小倉百人一首 68番  後拾遺集 雑1 860)

現代語訳
心ならずも今を生きながらえていれば、宮中から眺めているこの夜ふけの月が、さぞ懐かしく思い出されることだろう。

『帝、どないしまんのや』

『なんのこっちゃ』

『道長はんですがな』

『道長がどうしたんや』

『退位されますのんか?』

『ああその話か』

『あちこちで噂になってまっせ』

『儂はこの国一番の権力者やで、なんで道長の言うこと聞かなあかんのや』

『ほんなら退位はされまへんのやな』

『当たり前や』

『今やおまへんけど、道長はんはえらい和歌を拵えはんのどすわ』

『なんでそんなこと知ってるや』

『私は未来が見えますのや』

『冗談は顔だけにしとき』

『そりゃきつおまっせ』

『いやいやほんまに』

『そやけど、それ聞いて安心しましたわ』

『なんでや』

『私らが旨いもん食って、ええ暮らしできてるのも帝のお陰やし、それが無うなったら貧乏公家に成り下がりますやん』

『そんな心配してるんか』

『うちには嫁入り前の娘やもっと小さい子もいてますしなぁ』

『気掛かりがあるとしたら眼の病だけやな』

『そんなん薬師に言うてちょいちょいと治してもらいなはれ』

『最悪は見えへんようになるらしいわ』

『それでは帝のお仕事ができまへんなぁ』

『そうなる前に退位しろっちゅうのが道長の言い分や』

『なるほど筋は通ってますなぁ』

『そやけど儂の眼が見えへんようになる前提の話やで、普通やったら不敬罪になるんとちゃうんか』

『なるほどそれも筋が通ってますなぁ』

『おまはんはどっちの味方や』

『もちろん今は帝に決まってますやん』

『今は?』

『そやけど両方の考えを知っとかんと、いざという時に対処できまへんがな』

『対処ってなんや、ずっと儂について来るんちゃうんか』

『そりゃそうですがな、そやけど被害は小さい方がええし、事前に防げるんやったらその方がええでしょ』

『そりゃそうやなぁ』

『そやから話はよう聞いとかなあきまへんのや』

『おまはん意外に頭ええんやなぁ』

『そんなことあらしまへんで』

『いやいやなかなかやで』

『そらボンクラやったら帝の側近は務まりまへんわなぁ』

『そやけどボンクラ多いでぇ』

『それも道長はんの差し金でっしゃろ』

『儂を働かさんための手を既に打っとるんやな』

『そうでしょうなぁ、どこまで先が見えてんのかと思うくらいに一手一手が手堅いですわ』

『難儀なこっちゃなぁ』

『ほな最後にもう一回だけ確認しまっせ』

『何をや』

『道長はんには従いまへんのやね』

『そう言うてるやろ』

『分かりました。勿体無いわぁ、せっかくええおつむ持ってはんのに』

『何のこっちゃ』

『帝、あんさんもう終わりでっせ』

『なにがや』

『帝が道長はんには従わへんと言う言質を、私が取ったからに決まってますやん』

『なにを言うてるんや』

『まだ気がつきまへんか』

『さてはお前道長方の密偵か』

『ようやくお分かりになりましたか』

『いつからや』

『最初からでんがな』

『最初からやと』

『側近がボンクラばっかりで助かりましたわ』

『どうりでキレるヤツやと思たわ』

『お褒めに預かり恐悦至極』

『お前、儂を舐めとんな』

『帝を舐めるやなんてそんな恐れ多いことできまへんペロペロ』

『何やそのペロペロは』

『最近女御の間で流行ってますのや。語尾につけると可愛いなる言うて』

『ほんまかいな』

『どうでっしゃろなぁ』

『ほんでこれからどうするんや』

『退位してもらう条件の話をしまひょか』

『退位はせんて言うてるやろ』

『突っぱねはってもこっちは全然構しまへんで、そんかわり得るもんがなくなるだけですわ』

『得るもんてどういうこっちゃ』

『退位するに際しての交換条件のことですやん』

『例えば』

『退位はするけどお金はこれだけちょうだいねとか』

『金はあっても困らんからなぁ』

『退位はするけどしばらく院政でもええやろかとか』

『その手があったか』

『退位はするけど次の東宮は息子でええやろとか』

『それもええ手やなぁ』

『で、どうしゃはります』

『全部ええやんか』

『それは厚かまし過ぎまっしゃろ』

『希望やからええやろ』

『道長はんがええと言わはるのが大事でっせ』

『そこまで忖度せなあかんのか? 儂一応帝なんやけど』

『相手は飛ぶ鳥を落とす勢いの御仁だっせ』

『長い物には巻かれろっちゅうこっちゃな』

『そうとも言いますなぁ』

『帝ちゅうても大したことないんやなぁ。儂が悪いわけやないのに』

『相手が悪うございましたな』

『ほんまやで』

『ぼちぼち諦めなはれ』

『それしか道はあらへんのかぁ』

『息子はんが東宮にならはったらまだ希望はありますやん』

『去年やったら大河の絡みもあってもう少しこの話も注目されたのになぁ』

『なんのはなしですか』

作 者
 三条院 (976~1017年)  第67代三条天皇。
 わずか10歳で皇太子となるも、それから25年もの間そのままであり、1011年にようやく即位。
 しかし、病弱のため在位6年で次の天皇に位を譲り、翌年死去。

「この世をば我が世とぞ思う望月の欠けたることもなしと思えば」
 そう詠った道長は、先帝の一条天皇と自分の娘との間にできた子を次の天皇に即位させ、自分が摂政として権力を一手に握りたかったために、眼を患ったことを理由に三条天皇に退位を迫り続けます。
 天皇はついに退位を決意し、まさにその時の風景を詠まれたのがこの歌だと言われています。
 長和五年、三条天皇は皇后・娍子との子・敦明親王の立太子を条件に、敦成親王 (後一条天皇) に譲位し、太上天皇となりますが翌年に崩御されます。
 長和六年八月、三条天皇のお子・敦明親王は自ら東宮を辞退されますが、道長の圧力があったのではないかと言われています。

Fleetwood Mac  /  Go Your Own Way

ヘッダーと途中の絵はKeiです。いつもありがと。


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