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姪っ子物語 番外編2

その女の名は莉子。
愛する、いや愛する以上に愛してくれる夫が一人。子供は男の子と女の子が一人ずついるがどちらも独立を果たし家を出ている。他に猫が一匹、犬が一匹。
若い頃からのイケイケの性格は家庭を持っても子供が産まれても治まるどころか磨きが掛かっているように思うことさえある。
ずいぶん脛にキズもつくったろうに、この女は懲りるということを知らない。
人は彼女のことを…………なんと呼んでいるのかは知らない。

それがある日のこと。

『私、心を入れ替えることにしたから』

『誰と?』

『誰と?』

『誰かと心を入れ替えるんでしょ?』

『そんなことできるの?』

『君が何か見つけたのかなって思ったんだけど』

『そうじゃなくてイケイケの性格を治そうかなって』

『あぁそっち、頑張ってね』

『なんか期待されてないようなんだけど』

『そんなことないよ』

『期待感を感じな〜い』

『あまり期待しすぎて落胆の方が大きいのもイヤでしょ』

『ほらぁ失敗する前提じゃないの』

『過度な期待は持たない主義だから』

『少しくらい期待してくれてもいいのにぃ』

『だって、君が心折れた時、支えるのは僕になるんだよ。僕の方が落胆が大きかったら支えることなんてできないんだから』

『それはそうよね。度々お世話になってま~す』

『そんなことはいいんだけど、君が傷付かないかがいつも心配だよ』

『私ってそんなに弱い?』

『自覚のなさがさらに心配』

『私ってダメダメなのね』

『君はイケイケなんだろ?』

『そのつもりでいるわよ』

『だったらそのままでいいんじゃない』

『ありがと』

『どういたしまして』

『それで今夜何食べたい?』

『寒いからモツ鍋なんてどう?』

『あそこのお店行く?』

『家で食べようよ』

『じゃあ買い物行かなきゃ』

『一緒に行くよ』

『運転手と荷物持ちお願いね』

『はいはい』

『どこでお買い物する?』

『モツ買うならあそこの店でしょ』

『やっぱそうなる?』

『他どっか知ってる?』

『お店はあるけどねぇ』

『いつもの店でいいよ』

『そうだね』

『あとお酒も買わなきゃ』

『もうなかったっけ?』

『最近ちょくちょく二人で飲むようになったからね』

『やっぱ日本酒? ビールやワインも良さそうなんだけど』

『酒屋でじっくり探そうよ』

『食材よりは酒屋直行かな』

『先に食材買わないと売り切れたらどうすんのさ』

『う~ん、じゃあ食材が先』

『お酒は逃げないよ』

『お酒も売り切れることあるよ』

『じゃあ急いで回んなきゃね』

『もうホントに飲み助なんだからぁ』

『君と同じくらいにはね』


ラブラブな会話を繰り広げる二人だが、ここまで来るのに紆余曲折はあったようだ。いや少し違う。紆余曲折あったのは彼女の方だけで、彼氏の方はひたすら彼女のためを考え愛を与え続けたということだ。
それでもまだイケイケでいようとする彼女。それを応援する彼氏。
人は彼女のことを…………なんと呼んでいるのかを知ったところで…………。


『ちょっとアニキ、聞いてよ』

『莉子、挨拶はどうした』

『アニキ、こんにちは、ちょっと聞いてよ』

『おぅ、どうした?』

『この間ね、うちの人にイケイケの性格治そうかなって言ったらさ』

『頑張れってか?』

『そうなんだけど全然期待してない感じでさ』

『オメエ、自分の過去振り返ってみなよ』

『そりゃそうなんだけどさ』

『自業自得だわな』

『ちょっと悔しいんだよ』

『それでもできないからやめとけって言わないところがスゲエよな』

『そうでしょ』

『相変わらず愛されてんなオメエは』

『へへへ』

『で、なんでイケイケやめようなんて思ったんだ?』

『それはねぇ』

『どうせまたどっかで面倒の種拾ったりしたんだろ』

『アニキは何でもお見通しだ』

『懲りねぇなぁオメエはよぉ』

『反省してます』

『相談がなかったけど何とかなったのか?』

『うん』

『うんじゃねぇぞ』

『はい。でも自分で解決出来るようになったんだよ』

『そこは褒めてやらないとな』

『少しは成長してるんだからね』

『調子に乗って無茶するんじゃねぇぞ』

『は〜い』

『また旦那に心配かけやがって』

『うちの人知らないと思うよ』

『オメエはバカか?』

『バカはひどいよ』

『俺が気付いたのに旦那が気付かないはずねぇだろ。だからバカって言ってんだよ』

『ホントに気付いてるかなぁ』

『当たり前だろ』

『どうしてアニキに分かんのさ』

『実はオメエの旦那と秘かに連絡取りあってんだよ』

『え”~っ?』

『冗談だよ』

『アニキを始めて怖い人だと思った』

『どうして?』

『だって実際にやりそうだから』

『そこまでお節介じぇねぇよ』

『私が困ってるとか落ち込んでるオーラいっぱい出してたらやるかもしんないじゃん』

『あえて否定はしないけどな』

『本当に繋がりないよね』

『今のところはな』

『今のところ?』

『オメエ次第ってことだよ』

『やっぱイケイケの性格直した方がいいよね?』

『そろそろ年齢も考えねぇとな』

『アニキは自由でいいよなぁ』

『バカ言ってんじゃねぇぞ、男独りってのもこれで色々大変なんだよ』

『大変って例えば?』

『何やってもやらなくても独りじゃ満たされねぇんだよ』

『それは贅沢って言うんじゃないの?』

『家族がいたり、オメエのとこみたいに愛してくれる旦那がいることって本当に幸せなことなんだと思うぞ』

『そんなもんかなぁ』

『せめてお手伝いさんでもいればなって思うぞ』

『私行こうか? 泊まりがけで何日分かご飯の用意するとかできるよ』

『旦那はどうすんだよ』

『お留守番』

『お気楽だねぇ』

『田舎って楽しみが少ないんだよぉ』

『もしオメエにお願いするんなら旦那も一緒に来てもらうよ』

『それじゃあ私がつまらん』

『何がしたいんだか』

『だっていつも一緒だよ』

『それが夫婦だろうよ』

『そうなんだけどさ』

『イケイケを続けようがやめようがどっちでいいけどさ、周りに迷惑かけたり悲しませたりだけはするなよ』

『は〜い』

『旦那によろしくな』

『また連絡しま〜す』

『おぅ待ってるぜ』


人は彼女のことを…………なんと呼んでいようが関係ねぇが、俺は莉子と呼んでいる。人様の奥さんなのにな。

終わり

Big Brother and The Holding Company and Janis Joplin  /  Catch Me Daddy

仲良し妹Keiのnote1周年を祝してこの物語を贈る  兄


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