古事記百景 その十九
須佐之男悪態
於是天照大御神。
告速須佐之男命。
是後所生五柱男子者。
物實。
因我物所成。
故自吾子也。
先所生之三柱女子者。
物實。
因汝物所成。
故乃汝子也。
如此詔別也。
故其先所生之神。
多紀理毘売命者。
坐胸形之奧津宮。
次市寸嶋比売命者。
坐胸形之中津宮。
次田寸津比売命者。
坐胸形之邊津宮。
此三柱神者。
胸形君等之以伊都久三前大神者也。
故此後所生五柱子之中。
天菩比命之子建比良鳥命。(此出雲国造。无邪志国造。上菟上国造。下菟上国造。伊自牟国造。津嶋縣直。遠江国造等之祖也)
次天津日子根命者。(凡川内国造。額田部湯坐連。茨木国造。倭田中直。山代国造。馬來田国造。道尻岐閇国造。周芳国造。倭淹知造。高市縣主。蒲生稲寸。三枝部造等之祖也)
爾速須佐之男命。
白于天照大御神。
我心清明故。
我所生之子。
得手弱女。
因此言者。
自我勝云而於勝佐備。…此二字以音…
離天照大御神之営田之阿。…此阿字以音…
埋其溝。
亦其於聞看大嘗之殿。
屎麻理散。…自麻以下二字以音…
故雖然為。
天照大御神者。
登賀米受而告。
如屎。
醉而吐散登許曽。…此三字以音…
我那勢之命為如此。
又離田之阿埋溝者。
地矣阿多良斯登許曽我那勢之命為如此登。…自阿以下七字以音…
詔雖直。
猶其悪態不止而。
轉。
天照大御神。
坐忌服屋而。
令織神御衣之時。
穿其服屋之頂。
逆剥天斑馬剥而。
所墮入時。
天服織女見驚而。
於梭衝陰上而死。…訓陰上云富登…
故於是天照大御神見畏。
開天石屋戸而。
刺許母理坐也。…自許以下三字以音…
爾高天原皆暗。
葦原中国悉闇。
因此而常夜往。
於是萬神之聲者。
狭蠅那須…此二字以音…
皆満。
萬妖悉発。
宇気比が無事に終わり、天照大御神は速須佐之男命にお告げになります。
『後に生まれた五柱の男神は、私の持ち物から生まれたから、私の子である。先に生まれた三柱の女神は、そなたの持ち物から生まれたから、そなたの子である』
と仰いました。
宇気比でお生まれになった多紀理毘売命は胸形の奥津宮にご鎮座されています。
次に市寸島比売命は胸形の中津宮にご鎮座されています。
次に田寸津比売命は胸形の辺津宮にご鎮座されています。
この三柱の神は胸形君らが祀る三前の大神です。
同じく宇気比により後からお生まれになった五柱の男神のうち、天菩比命の子である建比良鳥命は、出雲国造・无耶志国造・上菟上国造・下菟上国造・伊自牟国造・津島県直・遠江国造らの祖先です。
また、天津日子根命は、凡川内国造・額田部湯坐連・茨木国造・倭田中直・山代国造・馬来田国造・道尻岐閉国造・周芳国造・倭淹知造・高市県主・蒲生稲寸・三枝部造らの祖先です。
速須佐之男命は天照大御神に対し、
『私の心が清く明るいから、このように三柱もの女神を生むことができたのだ。だから私の勝ちだ』
と仰せになりました。
勝ち誇った速須佐之男命は天照大御神が営なむ田の畔を壊し、溝を埋め、また、大嘗の殿に屎を撒き散らしました。
しかしながら天照大御神は、速須佐之男命を咎めることもなく、
『屎を撒き散らしたのは、酔った挙句の行為でしょう。また、田の畔を壊し、溝を埋めたのは、その土地を新しくしたかったのでしょう』
と庇われます。
しかし、速須佐之男命は、反省するどころか、悪態は留まるところを知りません。
天照大御神が機織り小屋で神の衣を織らせている時、速須佐之男命はその小屋の屋根を穿ち、皮を剥いだ馬を投げ入れました。驚いた機織り娘は梭で陰上を衝いて死んでしまいました。
この有様にはさすがの天照大御神も畏れ慄き、天石屋戸を開き、洞窟の中に籠ってしまわれました。
そのために高天原は暗闇となり、葦原中国もことごとく闇となりました。
まるで昼の無い、夜だけの世界になってしまったのです。
萬の神たちの声が蠅のように満ち、萬の妖もことごとく災いとなるのでした。
※奥津宮とは福岡・宗像市沖之島・宗像大社奥津宮を指します。
※中津宮とは宗像市大島・宗像大社中津宮を指します。
※辺津宮とは宗像市田島・宗像大社辺津宮を指します。
※三前の大神とは三社からなる宗像大社を指します。
※速須佐之男命は自分の勝ちを宣言しましたが、あらかじめ決められた結果
が古事記では触れられておらず、どちらの勝ちとも判断ができません。
※大嘗の殿とは神に新しい穀物を供える神事を行う神聖な神殿のことです。※梭とは機織り機の一部で、横糸を通すための道具です。
※陰上とは女性器を表しています。
「太安万侶です。危惧してたことが現実に起こったと言いましょうか、伊邪那岐・伊邪那美の直系一族から二神目の犯罪者が生まれました。と言うことでゲストは須佐之男君です。本当は天照ちゃんにも来てもらいたかったんですけど、目下洞窟に籠ったままで、世間も真っ暗なままです。何とか生の声をと思いリモートも考えたんですが、最後の最後に拒否されてしまいました。またいずれお話を聞く機会もあると思いますので、その時を楽しみに待ちましょう。さて須佐之男君、お姉さんを怒らしちゃったねえ」
「怒らせたというよりは怖がらせてしまったということでしょうか」
「割と冷静なんだね」
「慌てるだけでは何も生み出せませんから」
「それで、どうするつもり?」
「お姉さまに洞窟から出てきてもらう件に関しては、高天原の面々が考えてくれていますので、彼らにお任せしようと思ってます。今回の場合、僕が口出しすれば、余計にこじれるかもしれませんので」
「それが賢明だね。それで挨拶はもう終わったの」
「いえ、まだなんですが、そこで無理するよりは、このまま帰る方がいいのかなと思っています」
「それもまた賢明だけど、帰るのなら挨拶よりはお詫びをしてから帰る方がいいと思うな」
「仰る通りですね」
「もう一つ聞くけど、どうしてあんなことしちゃったの」
「単純な話です。お姉さまに勝ったことに酔って、酔っていることにさらに酔って、羽目を外してしまったというのが正解です。亡くなられた方には気の毒なことをしましたが、あの場に僕の本性があったのか、少し疑問に思っています」
「本性がなかったということは、その場のノリでやっちゃったっていうこと? それじゃあ亡くなられた方は浮かばれないよ」
「その通りですね。ですから、どうすれば償えるのかをしっかり考えたいと思っています」
「そうすべきだね。でも那美ちゃんとこへ行ってしまったら簡単にはいかないんじゃないの」
「そうですね、急いで、中途半端になっても片付けていくか、事後を託せる方を探すか。あまり長い時間をかけるのも違う気がしますが、中途半端に片付けるよりも、事後を託せる方を探す方が正解のような気がしています。安万侶さん、お願いできませんか?」
「私と君とでは立場も違うし、これでも一応人間だから、ちょっと無理だと思うよ。申し訳ないけど」
「この件はお姉さまにお願いするのが一番いいのかもしれませんね。なんといってもお姉さまの下で働かれてた方だし、費用はすべてこちらで持ちますから、遺族には手厚くしてやってくださいとお願いしたら、引き受けていただけるでしょうか」
「それって火に油を注ぐことになると思うんだけど」
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