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姪っ子物語 番外編3

『オメエの小さい頃の話を聞かせてくれねえか』

『母さんから聞いてないの?』

『聞きそびれてた』

『小さい頃はお転婆だったわよ』

『それは今も変わんねえんだな』

『失礼ね』

『だってオメエ、家出同然に出てきてそのまま居つくヤツなんぞ、そんなにいねえぞ』

『ここにいるわよ。それに一旦は帰ったでしょ』

『ああいうのをとんぼ返りって言うんじゃねえのか』

『行動的って言ってほしいわね』

『だからお転婆なんだろ』

『お転婆だったよ』

『過去形にしたいのか?』

『だってここで大人しくしてるじゃない』

『確かにな』

『後はね、父さんにも母さんにも、お爺ちゃまやお婆ちゃまにも愛されてたわよ』

『それは普通だろ』

『おじさまも?』

『小さい頃はそうだったよ』

『今は違うの?』

『もうみんないねえからな』

『そうだったんだ』

『オメエは父親と母親がいて良かったな』

『おじさまには私がいるじゃない』

『そうだったな』

『へへへ』

『他に何か思い出ねえのか?』

『中学の頃だったかな、母さんと初めてケンカしたの』

『あの母親迫力あるもんな』

『そうでしょ? だから徹底抗戦したの。それから負けても絶対泣かないって決めてたの』

『やっぱ似た者親子だな』

『私もそう思うから頑張ってたの。そしたら急に母さんが泣き出してさ』

『莉子がか?』

『私も驚いたわよ。あのイケイケの母さんがよ』

『どうして泣いたんだ?』

『娘とケンカできるのが嬉しかったんだって』

『よく分かんねえな』

『子の成長を見て感動したって感じ?』

『そういう意気に感じるところは莉子らしいな』

『もうケンカにならないわよ。二人ともわんわん泣いちゃってさ』

『そりゃ莉子の勝ちだわな』

『あれ以来ケンカはしてないなぁ』

『しなくていいんだよ』

『そういうもの?』

『俺も親父によく殴られたな』

『暴力反対!!』

『ホントそうだよな』

『乱暴な人だったの?』

『そんなことはねえよ』

『じゃあどうして殴ったりするのよ』

『俺が悪さした時とかな』

『自業自得ってやつね』

『親父の虫の居所が悪い時とかさ』

『とんだとばっちり』

『モノが飛んでくることもあったな』

『当たらないんでしょ? 避けるとか?』

『それが意外にいいコントロールしててさ』

『避けても追ってくる感じ?』

『追尾ミサイルじゃねえってんだよ』

『それでそれで?』

『顔面に茶碗を喰らったこともあったよ』

『あちゃあ』

『こっちが少し大きくなって体力とかも少しはマシになった頃でも相変わらず殴られてたなぁ』

『反抗はしなかったの?』

『どっかの時点で俺が勝てたタイミングがあったと思うんだけど、最後まで親父に手は出さなかったな』

『よく頑張ったね』

『そんないいもんじゃねえよ』

『でもカッコいいよ』

『オメエは父親とはどうなんだ?』

『父さんはとにかく甘いの』

『そうなのか』

『何でも言うこと聞いてくれるし、一度も叱られたことない』

『普段から莉子相手にしてるからな』

『母さんのパワーに比べたら私なんてちっぽけなものよ』

『だろうな』

『いい父さんだったなぁ』

『そこは過去形にすんな』

『そうそう、母さんのお弁当の話聞く?』

『莉子がつくる弁当の話か?』

『そう、母さんってイケイケで大胆でしょ?』

『そうだな』

『ところがお弁当はムチャクチャ繊細なの』

『あの莉子からは想像もできねえな』

『キャラ弁とかもつくってくれるんだけど、フォルムとかに拘るのよ。だから評判良かったし自慢の母さんのお弁当だったわよ』

『なるほどそうなんだな』

『どういうこと?』

『俺にとっちゃ莉子は立派な芸術家なんだよ』

『そうなの?』

『いくつか絵を見せてもらったことがあるけど、芸術なんてトンと分からねえ俺にだって感じるものがあったぜ』

『それ聞いたら喜ぶだろうなぁ』

『内緒にしとけよ』

『どうして?』

『すぐ調子に乗るだろアイツは』

『確かに』

『まぁ、複雑な中にある単純さが莉子の魅力なんだろうけどな』

『よく分かってるんだね母さんのこと』

『付き合い長えからな』

『それだけ?』

『なに勘ぐってんだ?』

『だって』

『心配すんな何にもねえよ、会ったこともねえしな』

『そうだよね』

『莉子はたまに夢で俺に会ってるようだけどな』

『えっ?』

『どんな俺に会ってんだろうな』

『きっと理想の男性になってると思うよ』

『会う日が来るのが怖えな』

『それにしても私のことをすんなり受け入れたわね』

『ちょっと待てそれは違うぞ』

『どう違うのよ』

『オメエは押し掛けてきてそのまま居座ってんだろが』

『悪うございましたね。じゃあ帰ればいいですか?』

『帰りたいならそうしろ』

『帰らないって言えば?』

『そっちの方が歓迎だ』

『なんだいてほしいんじゃん』

『この環境に慣れちまったのかな』

『そろそろ一緒になるなんてこと考えてる?』

『まだだ』

『早くしないとホントに帰っちゃうかも』

『そうなりゃそうなった時だ』

『もう少し積極的になれないもんですかねぇ』

『世の中斜めに見て生きてきたからな』

『仕方ないなぁ、私が面倒見てあげるよ』

『そりゃどうも』

『気が抜けるお返事ね』

『悪いな』

『もうちょっと感情込めてと……………………』

 ミクが倒れた。
 最初はどうってことのない感じだったが、すぐに高熱となり下がらない。
 それでも寝てれば治るからと言ってたのに、喘ぐような呼吸になったので医者へ駆け込んだ。
 俺みたいにタチの悪いヤツ (風邪) につけこまれたようだ。
 そのまま入院となったが治療をしてもあまりよくならないように感じる。
 このまま生を終えてしまうのではないかと思ったほどだ。

 俺はつくづく小心者だと思いしらされた。

『俺はオメエに惚れてるみてえだ』

『知ってるわよ』

『何もしてやれねえのが歯痒くて仕方ねぇ』

『病気なんだから仕方ないでしょ』

『籍なんか入れなくてもいい、一緒に住んでなくてもいい、頼むから俺と一緒になってくれ』

『私でいいの?』

『オメエがいいんだ』

『やっと言ってくれたわね』

『遅くなっちまったな』

『これで思い残すことはないわ』

『ミク!』

『冗談よ、さっさと治しておじさまの面倒見ないとね』

『側にいるだけでいいぞ』

『それは楽でいいわね』

『独り暮らしが長えからほとんど自分でできるしな』

『私のこともやってくれたりするの?』

『教えてくれればな』

『おじさまが私の下着干してる姿は見たくないかな』

『オメエの下着なら平気な気がする』

『そういうことじゃないんだけな』

『惚れた女が側にいるってだけでいいんだ』

『おじさま、一つ忘れてるわよ』

『なにをだ』

『先に好きになったのは私だからね』

終わり

仲井戸麗市  /  慕情

 早く元気になって、さっさと俺と一緒になろうぜ。なっミク。


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