オビ小説 第三弾 2024.08.
今月はひと月前に戻ってください。
『注文の多いおっぱい』の続きとなります。
♀『珍しいねあんたから連絡くれるなんて』
♂『ちょっとお願いがあってね』
♀『あんたのお願いを聞くような立場だっけ?』
♂『ん?』
♀『おっぱいは理想だとは聞いたけどな』
♂『理想に近いって言ったんだけど』
♀『一歩後退だな』
♂『それよりお願いを話すのに立場が必要なのか?』
♀『アタシはあんたのなんなのさ』
♂『エッ彼女じゃないのか?』
♀『エッそうなのか?』
♂『エッそうじゃないのか?』
♀『一度も好きとは言われてないぞ』
♂『そうだよな』
♀『付き合ってくれともな』
♂『そういう手続きを踏まないとダメなのか』
♀『基本的にはそうだろうな』
♂『困ったな』
♀『他に方法がないわけじゃない』
♂『それ聞いたら教えてくれるか?』
♀『いきなり押し倒してやっちゃうんだよ』
♂『そんなこと僕にできると思ってるの?』
♀『無理だろうな、逆はあっても』
♂『逆?』
♀『アタシが押し倒すんだよ』
♂『それなら僕にもできそうだ』
♀『とりあえずおっぱい見るか?』
♂『なんだいきなり? 脈絡がないぞ?』
♀『既成事実ってやつだな』
♂『なるほど、事実があれば言葉はいらないのか』
♀『それとこれとは別なんだがな』
♂『やはり言葉は必要なんだな』
♀『あんたとアタシならいらないかもしれないけれど、あった方がきっと嬉しいと思うぞ』
♂『そんなものか』
♀『あんた、人の気持ちには疎いからな』
♂『理解できないものを悩んでも仕方ないだろ』
♀『理解しようとすることが、そういう仲だってことじゃないのか?』
♂『なるほど、一理ありそうだな』
♀『ところでオビ小説が社会認知されそうだって』
♂『聞いた。専用オビができたんだってね』
♀『そうらしい。私たちも盛り上げないとな』
♂『何をすればいいだろうか?』
♀『まずはおっぱい見るか?』
♂『見せてくれるのか?』
♀『一言いってくれたらな』
♂『う~ん』
♀『イヤなのかよ』
♂『そうじゃないけど、言い慣れない言葉を望まれてるようだからな』
♀『分かってるじゃん』
♂『おっぱい見せてくれ』
♀『はぁ?』
♂『言い慣れない言葉を言ってみたんだけど』
♀『違うだろ?』
♂『違うのか?』
♀『マジか?』
♂『マジだけど』
♀『センスがなさすぎるな。いや、理解力が低すぎるな』
♂『そうなのだろうな』
♀『まあいい、見せてくれとは言ってくれたんだ。これが精一杯なんだろうな。で、どこ行く?』
♂『うちへ来ないか?』
♀『おかんがいるんだろ?』
♂『そのおかんに彼女ができたって言ったら会いたいって』
♀『ひょっとしておかんにも見せるのか?』
♂『そんなことはない、僕の部屋でいいだろ?』
♀『これから行くのか?』
♂『今度の金曜がいいそうだ』
♀『ちょっと待て。うっかり聞き逃しそうになったけど、おかんに彼女ができたって言ったのか?』
♂『正確にいえば、僕にも好きな人と、好いてくれる人ができたと言った』
♀『2人いるのか?』
♂『親と同じ反応だな』
♀『で、どうなんだ?』
♂『僕の好きな人が、僕を好いてくれているということが分かった。つまり君』
♀『頬が緩み目尻が下がるのが分かる。だけど私の知らぬ間に親にまで話してるのか』
♂『意思は通じてると思ってたからね』
♀『ということはすでに既成事実はできてるということだな』
♂『一度も誤魔化したことはないよ』
♀『ご挨拶だけですぐ部屋へ行けるのか?』
♂『多分一緒に食事とかって言ってた気がする』
♀『フルコースディナーか?』
♂『おかんの手作りだよ』
♀『食事が先か、部屋が先か?』
♂『大きな問題はないと思うんだけど』
♀『互いに見せ合いっこするんだぞ、問題ありだろ』
♂『そうか?』
♀『見せ合いっこだけで済めばいいが、場合によっては……』
♂『場合によっては?』
♀『上気した顔とか、スッキリした顔で、初対面の親の前に現れるわけにいかないだろ』
♂『では日を改めるか?』
♀『またか?』
♂『君の部屋はダメなのか?』
♀『この前よりヒドくなってる』
♂『僕は気にしないよ』
♀『アタシが気にするんだよ』
♂『じゃあ片付けようよ。なんなら手伝うから』
♀『手伝ってもらうんじゃ意味ないだろ』
♂『言い方を間違ったな。僕が君の部屋を訪れられるように部屋を片付けてくれないか』
♀『キラーワードだな』
♂『その方がいつでも逢えると思うんだ』
♀『分かった。片付けるからひと月待ってくれ』
♂『そんなにかかるの?』
♀『悪いな、これでも最短のつもりだ』
♂『やっぱり僕の部屋だね』
♀『どこかにしけこむ話はどうなった?』
♂『数回なら可能かもしれないけど、いつもというわけにはいかないだろ?』
♀『確かにそうだな。分かった、28日に短縮するわ』
♂『2日縮んだ? 僕への愛情が2日分増したってこと?』
♀『一緒にいたいからな。ではこうしよう、最初の10日で、見せたくないものを片付けるから、あとは手伝ってくれ。これで1か月が半月くらいになったぞ』
♂『そんなに見せたくないものってあるの?』
♀『さすがに使用済みの下着はランドリーバッグの中だけど、洗濯終わりの下着なんかがあちこちに散らばってる。埋もれてるのもあるかもしれない。これは見せたくないし見たくもないだろ?』
♂『宝探しみたいだね』
♀『お気に入りが見つかったりすると嬉しいもんだぞ』
♂『いやいや片付けようよ』
♀『だから10日頑張るってば』
♂『片付いた後はキープできるの?』
♀『次の問題はそこだな』
♂『また10日待てとかなしだよ』
♀『善処するが、そんなには掛からんだろ。せいぜい1~2日』
♂『キープしようとする努力は?』
♀『どこかに忘れてきたみたいだ』
♂『もう』
♀『そんなに言うなら、あんたが一人暮らしするってのはどうなんだよ?』
♂『考えたこともないけど、君のこと以外で、今の生活に何の不満もないからなぁ』
♀『私の順位が今の生活より低いってことだな』
♂『だって今は気にしなくていい衣食住が、すべて自分で面倒見ることになるんだよ。それはリスク以外の何物でもないよ』
♀『あたしは独り暮らしだぞ』
♂『だから部屋の片付けにずいぶんの時間が必要になるんでしょ?』
♀『いや、それはあたしが片付け下手なだけで』
♂『それを理解してるのにどうして早く手を付けないの?』
♀『分かった、今から行こう』
♂『どこへ?』
♀『あたしの部屋』
♂『宝探しに?』
♀『探さなくていいけどな』
♂『見せたくないんでしょ?』
♀『二人でいたいのが優先事項だ』
♂『じゃあ行こうか』
♀『見て驚くなよ』
♂『やっぱやめよう』
♀『どうして?』
♂『見せたくないものを見たくない』
♀『じゃあ半月待つんだな?』
♂『その前に僕の部屋がある。なんなら君がよく言うどこかにしけこむ手もある』
♀『そうだな』
♂『ここまで何もなく過ごしてきたのだから焦らないでいようよ』
♀『分かった。ところで今度の食事会には何を着て行けばいいんだ? おっぱい見せるんだから脱ぎやすい方がいいよな?』
♂『Tシャツとジーンズみたいな普段着でいいんじゃないの』
♀『そういう訳にいくか。彼の家へ初めて行くんだぞ。ましてご両親に挨拶までするのに普段着で行けるわけないだろ』
♂『そうなの?』
♀『私の親に会いに行くとして、あんたは普段着で来れるか?』
♂『スーツかなぁ』
♀『だろ?』
♂『だね』
♀『スーツはあるけどなんか違うだろ?』
♂『女性っぽい方がいいかもね』
♀『あのひらひらってヤツか? そんなの持ってねぇし』
♂『スラックスよりスカートとか?』
♀『足には自信あるからミニでも履くか?』
♂『そんな感じでどう?』
♀『適当だなぁ』
♂『妹なら詳しいんだろうけど』
♀『うちは弟だからなぁ』
♂『いっそお母さんに見立ててもらう?』
♀『それ着てあんたんちへ行くのか? 恥ずいわ』
♂『とりあえずお店覗きに行かない? 親切な店員さんがいるかもしれないし』
♀『そうするか、しかしこの出費は痛いなぁ』
♂『やっぱ普段着でいいよ、普段着の一番マシなやつにしよ』
♀『それはダメだ、とにかく見に行ってからだ』
♂『そうだね、それがいいね』
♀『コストが掛かりすぎるようなら普段着再考だな』
♂『ずいぶん張り切ってるようだね』
♀『そりゃ彼氏んちだからな』
♂『緊張とかしないの?』
♀『今はまだ大丈夫だ』
そして金曜の朝
娘『おはよう、あれお父さん会社は?』
父『今日は有休だ』
母『楽しみにしてるんだってさ』
娘『楽しみって何よ?』
父『瑞稀は彼氏を連れてくるっていうし、巧も彼女を連れてくる。そんなお楽しみ見逃す手はないだろ』
母『ホントに興味津々なのよ。困ったお父さんでしょ?』
兄『おはよう、あれ今日金曜だよね?』
母『父さんは有休なんだって、それから……以下同文』
兄『ふ~ん』
娘『お兄ちゃんの彼女も来るのよね?』
兄『そう言ってたよ。緊張もしてない感じだったけど』
父『他人事か?』
母『度胸はあるようね。それとも鈍いのかしら?』
兄『瑞稀の彼も来るんだろ?』
娘『ずいぶん前から緊張してるみたいだったよ』
母『こっちは極度の緊張症か』
父『楽しそうな夕飯になりそうだな』
母と娘は夕飯の支度を、父と兄はお掃除など迎える準備を。
いよいよ彼と彼女がやって来ます。
ピンポ~ン 娘『来た!!』
彼『こんにちは、瑞稀さんとは同級生でお付き合いさせていただいてます中島寛也と言います。今日はお招きありがとうございます。それからいつもお弁当ありがとうございます。毎日楽しく美味しくいただいています。よろしくお願いします』
母『しっかりしてるじゃない』
父『俺でもこれくらいの挨拶はできるぞ』
兄『お父さん、高校生と張り合ってどうすんの』
娘『寛也くんが今日を希望した理由は、土日はお弁当がないからだって。お母さんのお弁当相当楽しみにしてるみたいよ』
母『土日もお弁当届けようか? それとも土日はうちで夕飯にする?』
ピンポ~ン 兄『来たみたいだ』
彼女『こんにちはりんです。りんなかじま』
母『外国の人?』
妹『帰国子女?』
父『How do you do?』
彼『姉ちゃん?』
彼女『なぜ寛也がいる? あんた、いつからここの子になったんだ』
こうして賑やかなうちに食事会は始まったのです。
弟『姉ちゃんがお兄さんの彼女?』
姉『寛也はどのポジションでここにいる?』
兄『彼は妹の彼氏なんだよ』
母『りんさんは独り暮らしなんだって?』
姉『母は再婚で、あたしは母の連れ子なんです。母が死んでしまった今、父と弟とはいえ血の繋がらない男たちと同じ家に住むわけにもいかず、仕方なく独り暮らししてます』
父『なるほど、それは大変だね。それで君たちはもうやったのかね』
妹『父さん』
姉『まだです』
兄『手も繋いでないよ』
母『お前たちは?』
妹『手は繋いだかな?』
弟・父・母・兄『瑞稀』
賑やかなうちに食事が進んでいきます。
そして食事が終われば……ムフフ。(完)