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アートと健康について考えようと 「田名網敬一 記憶の冒険」 に足を運んだら、それどころではなかった

「この先どこに行くんだろう?」
個展に入った瞬間、暗闇に浮かぶ多彩な色彩とコラージュの屏風や橋が目に飛び込んできて、音と光が織りなすうねるような映像と静止画のコラボが異世界に足を踏み入れたように感じました。

Art in healthや社会的処方について調べていて、美術館に足を運んでいて、先日、「田名網敬一 記憶の冒険」@国立新美術館に行ってきました。
デザイナーとしてキャリアをスタートさせ、60年代から現在に至るまで幅広いジャンルを横断し、独自の地位を築いてきたアーティストです。
その世界初の大規模個展で、出品点数は500点オーバー!
※なんと今回の展示は写真撮影が許されていました。


壁一面にぎっしりと並べられた色とりどりの絵画やコラージュ作品が発する熱量が圧倒的で、空間の迫力にめまいを覚えるほどでした(ちょうど座れる場所があり休憩しました)。平面、立体、映像作品が混在した空間で、思いました。
「この先どこまで続くんだろう?」

一見するとポップな空間
コロナ禍に取り組み始めた「ピカソの模写」

平日の午前中にも関わらず、幅広い年代の多くの方が来ていて、写真を撮り続ける人、立ち尽くす人、「すごい」という人、「私には受け入れられないなぁ」と話す人など、いろいろでした。

ジョン・レノンに関する作品展示の前で、「この人が作ったひと?」「ヨーコって誰?」と無邪気に話す20代前半くらいの若者たちを見かけ、時代の流れを感じました。音楽の歴史や文化が絶えず進化する中で、過去の偉人が次第に遠い存在になっていくことは避けられないことですが、なんとも言えない気持ちに。

“Oh Yoko!”フルヴァージョンのアニメ作品の映像素材の1つ



アートと健康について考えるどころではなかった理由を考えてみた

それは、作品の中に、戦争というテーマが深く刻みこまれていたからだと思いました。
最後のアーティスト・インタビューで、田名網さんは、幼い頃の鮮烈な記憶を作品に取り込んできたことを語っています。

新潟に疎開先に行く時にみた街並み綺麗な目黒駅、終戦後の目黒駅が焼けただれた赤土が一面に広がる平地、地平線を分けた青空、赤土と青空の二分割の景色、赤と青の組み合わせが絵をつくる根底としてインプットされた。

田名網敬一 記憶の冒険.アーティスト・インタビュー『記憶の冒険』より


平和がなければ心も身体も健康を保つことはできません。

前職で、フランス語圏アフリカ諸国の医療従事者や保健省の方々を対象に日本での研修を行いました。その中で、コンゴ民主共和国の行政官が話した忘れられない言葉を思い出しました。

「コンゴ民主共和国は広大な国土を有し、鉱物資源、食糧資源にも恵まれており、本来であれば、栄養不良とは無縁の国ですが、政府軍と武装勢力との交戦により、栄養不良をはじめとする健康上の問題が生じています。紛争や衝突が日常的に起こり、結果として一般市民が武力衝突に巻き込まれています。
私たち医療従事者は、こうした困難の中でも、母子保健の制度やシステムを考え、母子保健分野に限らず農業や識字教育におけるプロジェクトを総合的に推進することで健康格差の改善を図ろうとしていますが、紛争がすべてを壊してしまうんです。」

https://www.jica.go.jp/domestic/tokyo/information/topics/2021/ku57pq00000mv7a3.htmlをもとに、研修記録より筆者一部改変


田名網さんの記憶の冒険に参加し、この社会や戦争、生と死について思いを馳せる時間になりました。

戦争をテーマにした作品が多いけれど、ポップな印象を与える田名網さんの作品の数々。
アートに詳しくないので個人の感想で恐縮ですが、戦争体験をこのように描いた作品をみたことがありませんでした。
田名網さんの記憶の冒険に参加することができてよかったです。
ありがとうございました。



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