音楽史上の事件です/2022年10月4日パシフィックフィルハーモニア東京第152回定期演奏会
このnoteは以下のコンサートに行ったmiwaが、すでにかなり忘れてしまった記憶をその残りだけでも留めておきたくて書いたものです。
自分のために書いているので、用語が自分にしか伝わらないものになっていて、とくに曲の感想が「なんじゃこりゃ」になっていると思います。「こんな風に感じる人もいるのだなあ」と生温かく見ていただけたらうれしいです。
※角野隼斗さんの呼び名は、普段呼ばせていただいている通りかてぃんさんと表記しています
【公演概要】
◆公演タイトル
パシフィックフィルハーモニア東京第152回定期演奏会
◆公演日時
2022年10月4日(火)19:00開演(18:00開場)
◆会場
サントリーホール
◆出演
ピアノ(ソリスト):角野隼斗*
指揮:飯森範親
オーケストラ:パシフィックフィルハーモニア東京
女声合唱:東京混声合唱団
【プログラム】
◆トーマス・アデス/ピアノと管弦楽のための協奏曲(日本初演)*
◆ホルスト/組曲「惑星」作品32
【ソリストアンコール】
◆ガーシュウィン(編曲:角野隼斗) /アイ・ガット・リズム
【はじまり】
この演奏会のことを知ったのが今年の1月。早速この曲をYouTubeで聴いてみた。なんだか不思議な曲。もしかして拍子が揺れてる?でもちょっと気持ちいいかも。日本初演って素敵だ!なんて感じて。
・・・しかし揺れてる?なんてもんじゃなかった笑
6月2日に楽譜の一部がお披露目になったけれど
「6分の2→4分の3→6分の2→4分の3」・・・なんですかこれは?!ちっとも理解できず
でも9月28日のかてぃんラボでメトリック・モジュレーションの丁寧な説明が。6分の2拍子がやっと理解できた!しかしアデスさんの楽曲はさらなる変拍子の嵐!嵐!5分の4拍子とかオケとピアノの拍子が違うとか、なんなんすか?!
など感じつつ、予習も兼ねて楽曲を繰り返し聴いていたのですが、だんだんこのリズムがくせになってきた。くせというか、馴染んでしまった。すごく気持ちいい。なんなら「惑星」(これも変拍子が多い)が退屈にさえ感じてしまうような(行き過ぎ笑)
かてぃんさんは上記のラボでこう語っていた
「受けたことを後悔したこともあった」
だけどリハの後でこう言われてた
すごくすごく大変で途方もない時間を乗り越えたからこそたどり着いた地平なのだと感じた
本番に向けてもはや死角なし!マエストロやオケのみなさん(そのうちお一方のつぶやきがこちら)からもそんなわくわくなつぶやきがたくさんTLに回ってくる
そして当日を迎えた
【開演の前に】
サントリーホールに着いたのが16時半(開演2時間半前)。自分はなるはやで会場に行って近くのカフェで気持ちを落ち着かせるのが習いなので、そうやって時間を過ごした。今日はオープンカフェ。時は夏の終わり(もう10月だけど)。時間がたつにつれて夏の風から秋の風に入れ替わっているのを感じる。呼吸する度に胸の奥まで気持の良い空気が沁みわたってほっとする
遠方から見えたフォロワーさんに会ってしばし歓談。朝のJアラートにはほんと焦ったよね
そうこうするうちに日も暮れてコンサートが近づいてきた
開場時刻になり、パイプオルゴールのかわいらしい動きを見て。さあ参戦だ(参戦?笑)
ロビー内に入場できても18時20分頃まで客席に入場できなかったので、しばし待機。ロビーには「題名のない音楽会」からかてぃんさんへのお花が
座席は1階6列18番。パシフィックフィルハーモニア東京のサントリー定期席で購入したS席。ちなみに1列から6列まではS席で、7列目より後ろがSS席だった
かてぃんさんの横顔から足(膝下まで見えて、足元はよく見えず)、弾く手もよく見え、さらにオーケストラの弦やハープが目を動かすだけで見渡せるとてもよい席だった
【トーマス・アデス/ピアノと管弦楽のための協奏曲(日本初演)】
◆さあはじまる
開演時刻より少し遅れて、スタッフと思しき人がなにかを持って下手の奥の入り口からステージにやってきた。わたしはオケの方が演奏する楽器に関わるなにかだろうと思い込んでしまって、その行方を見ることがなかった。後から知ったのだが、この人はピアノの中(右側)にタブレットを入れ、足もとにペダルを置いたとのこと。かてぃんさん用のアデスの
楽譜のセッティングがされたのだった!
楽譜はあるかもしれないと思っていたけれど、わたしが気づいた限りでは、かてぃんさんは楽譜があるらしき場所にまったく視線を送ることがなく、あたかも暗譜で弾いているかのようだった。しかし保険で楽譜が置かれていたにしても、楽譜をめくっていかないと必要な場所に追いつけず保険にならないから、全身全霊で飛び跳ねるようにピアノを弾きながら、冷静に左足で楽譜をめくっていたのだと思うと尊いしかない
かてぃんさんはスーツとワイシャツ。ガチクラの時よりも少しカジュアルダウンされてる。元気そうな笑顔。髪は上記のラボの時よりもカットしてる。長いのも好きだけどこのくらいの長さも似合う。コンミスとマエストロと肘タッチ。マエストロと二言三言やりとりして着席
◆第1楽章
冒頭の拍子は4分の1→6分の2→4分の3→6分の2→4分の3・・。予習の時はAメロがアイガットリズムや君が代(自分には君が代の要素が濃く感じた)に似てると思ったけど、本番ではとにかく楽しくて「うわ~!」って声が出そうだった(出ていたかもしれない)。ピアノとオケの息もぴったり。一体化した有機体のよう。曲想は日の差す熱帯のジャングル(明るめ)で見たこともない動植物とめくるめく出逢いをしてる感じ。みんな心拍も体内の水の流れも動きも違う。それが無限のリズムの揺れになって感じられる
予習では、1楽章は紅の豚で少年ポルコが少女ジーナを飛行艇に乗せて初飛行をしてるようなイメージだったけれど、本番ではもっと人や動物の肌やにおいや温度や湿度を感じて、生命の驚異にふれているみたいだった
かてぃんさんのピアノ、生命がいっぱいだった。みんな生きてることを喜んでいて、でも自然の猛威に左右されることもあって。それはかてぃんさんの心やからだもきっと同じで、だからこんな豊かな表現をされるのだと思った。高速の動きも、緩やかなリズムの揺れも、指とからだの美しいこと!自然が作りたもうた奇跡があるなら、かてぃんさんもそのひとつに違いない。再現部の入り手前の盛りあがりの、刻みと音の勢いと色が「わ~~っ」て押し寄せてきてめっちゃかっこよかった!
◆第2楽章
予習では2楽章は「自由と民主主義を一歩ずつ侵食していく美しい顔をした全体主義の恐怖」みたく感じていた。あまりに身もふたもない印象なので、本番でどう覆されるか楽しみにしていた
・・これはかてぃんさんの涙の音だ
あたたかく、美しく
悲嘆、絶望、怒り、慈しみ、喜び、感動・・
社会に対して、人に対して、環境に対して、自分に対して、ありとある感情と涙と
(自分の中でいちばん近いかてぃんさんの涙の印象はこの詩です)
優しく強く感受性の豊かなかてぃんさん、涙することもきっとあると思う
かてぃんさんの中から、静かに、時に荒れるように、思いがあふれている
その美しさに、声をかけることも、手をふれることも、できない
ただじっと見ていた。心をかけることもはばかられるようで
かてぃんさんは情熱大陸の予告編で「叫ぶ代わりにピアノを弾く」と言われていたけれど、今日は涙のすべてが音になってサントリーホールに広がっているようだった
美しくどこまでもよく通る音は舞台からもっとも遠い席にもその思いを、音を、届けていた
かてぃんさんの音色はあきらかに21種類よりも増えて30種類くらいになってる。それぞれの音色もより研ぎ澄まされて深く広く優しく美しく心に届く
2楽章の最後の硬い硬い音は、絶望の音ではなく、そこで絶望が終わり、扉を開けば新しい世界がはじまると、そのように感じた
◆第3楽章
それは太古の昔からの進化をぜんぶ上って来るようだった
トリケラトプスも冬虫夏草も人間もいまは途絶えた者達もこれから生まれ出ずる者達も高らかにに生きる喜びを歌い、不安も苦難も乗り越えて、前に進む。地球はすごい!と
かてぃんさんが弾きながら飛び跳ねる。曲の中に入って、曲のエッセンスを、曲の意味を、アデスさんとの「共感」を取り出してどんどんあらわにして見せてくれる。時々指を折りながらリズムを数え、指パッチンのしぐさを見せながら曲に乗る。オケもみんな楽しそうだ。かてぃんさんがマエストロと視線を交わすたびに新しい音楽が生まれている。その喜び!
キモイ変拍子の嵐で、演奏する者に困難を強いるようなこの曲は、どれほど無機質で実験室のような曲かと思っていたけれど、本番を聴いて、自分の中の細胞が全部入れ替わるように感じられた。それほどに心地よくて刷新される曲だった。楽しかった!うれしい!ありがとう!って心から言いたい!
終演後マエストロとかてぃんさんが思わず熱い抱擁を交わしてた。思わずそうしたくなるのがわかりすぎて、うれしくてたまらない!おめでとう!ありがとう!ほんとにこれは音楽界の歴史的事件だと思う!そこに立ち会えた喜び!!
ライブCDやBlu-rayが出るなら絶対買いたいし、一部でもいい(ほんとは全部がいい)のでYouTubeなどで公開されるならうれしいし、可能ならばいろんなところでこのメンバーで再演があるならばめちゃくちゃうれしい。日本でも世界でも!
Bravo Bravo Bravo!!!
【ソリストアンコール】
椅子にすわったかてぃんさんは、しばらく手を左右にずらして置きながらなにかを考えているようだった。いま覚えばアレンジの流れを確かめていたように感じる。
「ターラッターラー・・・」あれ!アデス?!
・・と思ったらアイガットリズムだった
YouTubeの動画よりもアデス風味をふんだんに
従来のショパンやプロコらも健在
最後は・・アデスのエンディングにて締め!
世界中でかてぃんさんにしか弾けない、おしゃれで元気をくれるいきいきとしたアンコールだった
オケのみなさんも前かがみ気味で笑顔笑顔!
【ホルスト/組曲「惑星」作品32】
わたしのなかでは「惑星」はアデスの「地球賛歌」から「宇宙」へと飛び立ち未知の世界へと向かう曲です
以下箇条書き的に
特殊照明の演出がかっこいい(とくに火星の演出が好き)。生演奏付きのプラネタリウムみたい(すごすぎる!)
オケの音が、アデスとはまたガラッと変わっていて素敵
木管が大好きだなあ(ほかもいい)
金星のバイオリンソロにうっとり
木星のエンディングが脅威を感じるほど溶け合って勢いがあって感動
土星が好きなのだけど、もっと好きになった
天王星は、名前の文字を音に忍ばせたホルストさんが喜ぶと思った!
海王星の女声合唱(東京混声合唱団)に宇宙のはるか彼方に連れていかれて酔いしれた
マエストロとオケの意志が向かう先一体となった素晴らしい惑星でした!
【おわりに】音楽ってすばらしいな
いつも感じることは、生演奏はかけ値なくしあわせをもたらしてくれること
それはきっと聴衆だけでなく、演奏に成功したかてぃんさんもマエストロもオケのみなさんも同じようにしあわせを感じていることと思う
かてぃんさんは6月2日(頃)に楽譜に出逢って、何か月も悪戦苦闘しながら楽譜にまっすぐ向き合って、何周もしてこの曲を喜びを持って演奏できるようになった。先月のNOSPRとのショパンコンチェルトのツアーでもそうだったけれど、ひとつ演奏を終えるたびに、演奏家としてどんどん大きく美しく強くなってる。そのスピードがすごいのは、見えないところでどれほどの努力をされてるかの表出だと思う。かてぃんさんから、生きていくうえで学ぶことはたくさんあると感じる
次にかてぃんさんに会えるのは来月のスタクラフェス
これから1カ月ちょっと後、東北・シンガポール・台湾・のだめクラシックやProm4などのコンサートを経て、さらに大きくなっているかてぃんさんに会えるのが楽しみでなりません!
読んでいただきありがとうございました!