昔の記憶
東京に来たばかりの2014年頃の話です。同じタイミングで上京した、すゑひろがりず(当時のコンビ名はみなみのしま)、ななまがり、マドンナ(2019年解散)と定期的にライブをやっていました。
打ち上げ代を安く上げる為に、私が当時住んでいた中野の自宅で家飲みをする事になりました。
皆で近所のスーパーへ酒とつまみを買いに出かけ、お会計をしようとした時、レジに立っている、高校生位の男性店員が「どなたか年齢確認をお願いします」と言いました。
私はとっさに被っていた帽子を脱ぎハゲあがった自分の頭皮を見せて「これで確認になりますか?」と言いました。
(当時は薄毛治療を始める前でしたので今よりも格段にハゲておりました。)
その店員さんは「それでは確認になりません」と返答しました。
その光景に後輩達も笑っていたし、隣のレジに立っている女性店員さんにいたっては、うずくまって笑ってました。
ウケた事に満足した私は免許証を提示し、お会計を済ませ、店を後にしました。
数年後に、私の主催ライブで、すゑひろがりず南條がこの時の話をエピソードトークとして話をしました。
「マイルドさんが年齢確認を言われて、帽子をとって、これで年齢確認なるやろて言うたんですよ。高校生位の男の子の店員に、なりませんて言われたら、マイルドさんがブチキレで、何でならへんのじゃ!?コラァ!!
この頭皮見て成人男性て何で分からんのじゃコラァ!!
て店中に響く声で高校生を怒鳴りあげたんですよ!!」
芸人が話を面白くする為に、多少、話を膨らませて話す事はあります。俗に言う"盛る"というやつです。
話が面白くなり、客席が盛り上がるなら、幾らでも盛ってくれて良いのですが、その時のお客さんの反応はとても冷ややかで、世に放ってはいけない犯罪者予備軍を見るかの様な視線が、私に対し向けられました。
ライブ終わりに南條に「おいおい、ああいう盛り方はやめてくれよ。俺が頭のおかしい奴みたいになるやろ?」と苦言を呈すと
「いや、盛るも何も、マイルドさんは高校生にキレてましたよ。」
隣にいた、すゑひろがりず三島も「マイルドさんは怒ってましたよ。あの時、確かもう酔ってたんじゃないですか?」
更にマドンナ松浦も「僕らみんなドン引きでしたよ。高校生も、店員さん達も怯えてましたよ」
?????
自分の記憶と他人の記憶が、こんなに食い違う事が果たしてあるでしょうか?
後輩達が、色んなところで、このエピソードを尾ひれはひれ付けて話すうちに、何が本当で何が嘘か分からなくなっているのか...
はたまた、私が都合の良い様に、自分の記憶を書き換えてしまっているのか。
その場に居合わせた複数人から「マイルドさんは店員にキレていた」と言われたら、本当はやってしまったのではないか?という思考に陥ってしまいます。
無実の罪を自白してしまう人の心理が少し分かる気がします。
「お前が盗むところを見たってやつが何人もいるんだよ!!」
なんて言われたら、自分が覚えてないだけで、本当は盗んだのではないかと暗示にかけられてしまうのかもしれませんね。
実際にその店員さんにキレたかどうかは、今となっては分かりません。
ただ裁判では証言も証拠になりますから、三人いる時点で私は完全に有罪です。
逆に向こうが全く覚えていない様なケースもあります。
20代の頃、大阪で、おいでやす小田と銭湯に行った時の事です。
男湯の、のれんの前で小田を女湯の方に悪ふざけして軽く押しました。
私が早足で男湯の、のれんをくぐり、小田がのれんの向こうから「コラ!!ハゲ!!」と若干大きめの声で言いました。
のれんをくぐると、小田は青ざめました。
脱衣所に全身に和彫りの刺青が入ったスキンヘッドのヤクザ風男性がいたからです。
そのヤクザ風男性はチラッとこっちを見て、私は恐怖のあまり硬直してしまいました。
小田は立ち止まらず、キューティーハニーが変身する時の様なものすごい早さで裸になり、湯船へ一直線に進んで行きました。
遅れて私も服を脱ぎ、湯船に入りました。
小田から「お前のせいで危なかったやんけ!」と吐き捨てる様に言われました。
今振り返ると、間の抜けた楽しい思い出なんですが、これを小田に話すと、全く覚えてないと言うんですね。
それ、多分、俺じゃないぞと。
小田があまり記憶力が良くないのかなと思っていたのですが、私が忘れている様な昔の話を事細かに小田が覚えたりしていて、決してそんな事もないんですよ。
だから最近、怖いんです。
全く身に覚えのない私の話を、誰かがエピソードトークとして話をしていて「あれ?こんな事なかったと思うけど、実は俺が忘れているだけなんか?」となるし
逆に自分の記憶に残っている事が実際にあった事なのかどうか不安になるんですよ。
自分が生きてる世界線と他人が生きてる世界線に微妙なズレがあるのかなとかも思います。
生きるってミステリアスですね。
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