どのようにして歩くことを学ぶのだろうか?日々何千ものステップと何十もの転びと(How do you learn to walk? Thousands of steps and dozens of falls per day)
【要旨】
歩行の発達に関するここ100年の研究は,周期的歩行を直線的で均一なコースの上に調査してきた.この研究は自由遊びという自発的な活動の中から得られた自然な乳児の移動に関する最初の集積である.歩行運動の経験は莫大なものであった:12~19ヶ月児は平均して1時間あたりに2,368歩と17回の転倒が見られた.歩行が未熟な乳児は熟練したハイハイの乳児よりも遠くまで・早く動くことが可能であったが,比較的転ぶ割合が高かった.これはコスト増加を伴わない効率性の増加が熟練したハイハイの乳児が歩行へと移行するモチベーションとなっていることを示唆している.歩行を獲得すると自然状況下での移動はドラマチックに上達する:乳児はより多くのステップを踏み,より遠くの距離を移動するようになり,そして転ぶことが少なくなる.歩行は多様な進路での短いものとなるーしばしば短すぎて・不規則すぎて周期的歩行としては適格ではない.それにも関わらず,周期的歩行と自然状況下での移動の測定結果は一致しており,上手に歩ける者はより多く自発的に歩き,転ぶことはより少ない.莫大な量の時間をかけて,変化に富む練習が歩行の学習にとって自然な練習の養生法となっている.
【私見】
この研究ではなるべく自然な環境に近い状態で乳児の歩行を分析しています.
対象は116人の歩く乳児,20人のハイハイの乳児です.図のような遊び部屋のなかで15~60分間,自由に遊びその様子をビデオに収めて解析します.図では13ヶ月の歩く乳児が10分間自由に遊んだときの歩いた軌跡が描かれています.セッションの最後には圧感受性マットの上を歩いてもらい歩幅と歩隔を測定しています.
結果は上記の通りです.crawler(ハイハイの乳児)/walker(歩く乳児)です.まず,左上のグラフ(a)は時間あたりの転倒数を表しています.明らかに歩く乳児の方が高くなっています.ただし,動いている時間(b),時間あたりのステップ数(c),時間あたりの移動距離(d)もハイハイの乳児よりも歩く乳児の方が長くなっています.これらを考慮に踏まえると転倒1回あたりにかかる時間(e),ステップ数(f),距離(g)は歩く乳児とハイハイの乳児との間に有意な差はありません.
この結果より,筆者らは熟練したハイハイは未熟な歩行に比べて良いものではないと述べています.なぜなら,スピードも移動距離も歩行の方が優れていて,なおかつ転倒リスクも同じ程度しかないのですから.既にハイハイという移動スキルを獲得した乳児に対してwhy walk?(なぜ歩くのか?)という疑問に対する答えは上記の結果を踏まえればwhy not?(なんで歩かないの?当然歩くでしょ?)ということになります.乳児は決してハイリスクな歩行にチャレンジしているわけではなく,ハイハイよりもローリスク/ハイリターンな歩行を積極的に選んでいるのかもしれません.
ただし,これらの結果はあくまでも定型発達の乳児を対象としているため,セラピーの現場に適用するには注意が必要です.脳性麻痺を伴う子どもの身体には様々な制約があります.歩いたほうが効率的・経済的と子どもが思える状況をセラピストがいかに個人・作業・環境の面から整えるかが重要と思います.
また,もう一つ興味深い点があります.上図より,乳児は平均して1時間あたり2,368歩,701メートル(アメフトのフィールド7.7個分)歩き,17回転んでいます.そして,実験中に歩いていた時間は32.3%でした.また,トータルの歩数のなかでも46%が1~3歩,23%が1歩だけでした.しかもその内容は直線上を歩くだけでなく,ターンや横歩き,後進などバリエーションに富んでいます.
これらの結果を考慮に入れると,セラピーの歩行練習は直線距離を一度に長時間かけて歩くだけではなく,短時間で休憩を挟みながら,少ないステップで,バリエーションを持たせて,最終的にトータルすれば多くの距離となるように歩くことが大切ではないでしょうか.著者らも「時間を区切った練習は集中的な練習よりも効果的である.なぜなら休息期間により学習が強化され,疲労が回復され,新しくモチベーションを持つことができる.変化に富んだ練習はブロック練習に比べより良い適応性と広範囲な転移へとつながる.なぜなら様々な文脈で多様な運動を行うことは学習者が関連パラメーターとそれらが許容できる設定を特定する助けとなるからだ」と述べています.
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