早期脳障害後の視覚経路の可塑性(Plasticity of the visual system after early brain damage)
ANDREA GUZZETTA
Dev Med Child Neurol. 2010 Oct;52(10):891-900.
【要旨】
このレビューの目的は早期障害後の,成人期に起こった障害とは対照的で異なる視覚の脳可塑性のプロセスを支持するエビデンスについて論じることである.早期に視覚系へダメージを受けた脳により採用されるいくつかの神経可塑的なメカニズムは後の段階では利用不可能であるというエビデンスがまずある.例えば,その成立において広範な形成異常の見られる皮質のなかに機能的な組織を区別する能力,または損傷部位を迂回する新たな視床-皮質結合をつくり後頭皮質における目的地へと到達する能力である.幼い脳は後の発達段階で利用されるものと同じメカニズムを用いるが,それはより効率的な方法で行われる.例えば,中枢性の視野障害がある人においては,その線条体外の視覚ネットワークの解剖学的広がりは早期の障害の方が後期の障害よりも大きくなっており,結果として盲となる場所への視覚探索がより効率的なものとなる.同様のメカニズムは盲視の人におけるいくらかの差異,盲となる場所での無意識下での視知覚現象,でも支持されるようである.とくに,後期に障害を持った人と比較して早期に障害を持った人では盲となる視野への刺激の主観的気づき(awareness),視野内に何かがあるように意識として感じること,が強いようである.これらのメカニズムに関する私たちの知識を広げることは脳可塑性が最も可能性あるタイミングで視覚認識をサポート・高める早期セラピー介入の発展に役立つだろう.
【私見】
子どもの視知覚に関する脳可塑性について述べたレビューです.
先天的な脳障害を伴う子どもの視知覚に関する脳可塑性について,考えられるメカニズムは以下の三つです.a.損傷部位の中に機能的組織が残存している場合,b.一次視覚野の外に視覚機能が再組織化される場合,c.視放線-線条体経路が障害部位を迂回する場合です.PVLのお子さんであればc.の可塑性が起こっている可能性が高いと思います.ただ,いずれの可塑性もまだまだ報告数が少なくはっきりとはわかっていない状況のようです.
上の図は視放線(が本来あるべき場所)を含む脳室周囲が広範囲にダメージを受けている子どものDTT画像です.障害を受けた側の視放線が綺麗に損傷部位を迂回しているのがわかります.この子どもの視野「は」正常とのことです.
臨床を考えるうえで面白かった知見は中枢性の視野障害を伴う子どもの代償的な眼球運動についてです.先天的な視野障害を伴う子どもでは,後に障害を受けた子どもよりも障害のある部位に提示された対象を早く(正常な時間で)見つけ出します.ただし,視覚探索の戦略として?視野障害側への変則的(anomalous)な回旋を伴うことがしばしばあるとのことでした.臨床では常々感じることですが,脳性麻痺を伴う子どもの頭部の大げさな動き,そして不自然な姿勢の非対称は決して姿勢コントロールの弱さではなく,視覚探索の戦略として子どもが積極的に採用している可能性も考慮する必要があるように思います.