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重力を知る:乳児が一人座りを獲得するときの抗重力コントロールの分節的評価(Learning about gravity: segmental assessment of upright control as infants develop independent sitting)

Saavedra, Sandra L., Paul van Donkelaar, and Marjorie H. Woollacott. "Learning about gravity: segmental assessment of upright control as infants develop independent sitting." J Neurophysiol 108.8 (2012): 2215-2229.

【要旨】

乳児がどのようにして独座を獲得するのかという疑問は多くの機能的活動の理解の核となるものである.空間位において体幹を垂直方向に定位して安定させるという子どもの能力を評価するとき,股関節と体幹を異なる分節で固定するという私たちのシンプルで実践的な方法は有用であり,抗重力コントロールの発達に対する新しい見識に貢献する.これまでの研究は体幹を1つの分節として見なしてきた.この研究の目的は定型発達児の座位バランスにおいて,いかに姿勢コントロールが複数の体幹分節にわたり変化するかを調査することである.このような目的で,8名の定型発達児(3-9ヶ月)の縦断的研究において,4つのレベルでの体幹サポート(腋窩,中部肋骨,腰,股関節)の表面筋電図と運動学的データを集めた.安定における発達的変化は調査した体幹の領域に特異的で,拮抗筋活動の変化は前後軸と左右軸では異なり,筋活動と運動との関係は乳児が抗重力位のコントロールを獲得するときに4段階での行為プロセスを通じて一貫性のない試行から予期的・段階的な反応により抗重力位の姿勢を獲得することがわかった.この情報により研究者はこの発達プロセスに関する仮説を更に洗練することが可能になり,臨床家は姿勢障害を伴う子どもへのより特異的な治療プログラムを開発・テストすることが可能となる.

【私見】

データの読み方が私には非常に難しく,興味のある方はぜひ原文を読んでみてください.この研究により,座位の獲得に至る過程で体幹コントロールは頭尾の方向で分節的に発達することがわかりました.私が興味を持った点は,著者らが座位における体幹コントロールの発達を次の4段階に整理した点です.

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図の左:各ステージの座位を表している写真です.

図の中:正中位から前後方向について頭部COMの移動を示しているヒストグラムです.横軸は正中からの距離を示し,左が前方(腹側)・右が後方(背側)です.

図の右:屈筋群・伸筋群の筋活動と頭部COMの移動との関係を示した時系列グラフです.横軸は時間です.黒線が頭部COMの移動を表していて,0を境に上方向が前方(腹側)への移動,下方向が後方(背側)への移動を示しています.

ステージ 1:虚脱(collapse).乳児は完全に屈曲方向に崩れています.筋活動からも抗重力位をとろうとする様子は見られません.

ステージ 2:起立と転落(rise & fall).前後に大きくグラグラ揺れてます.乳児は垂直方向の定位を認識し,抗重力位へ果敢にチャレンジするものの,持続が難しい状態です.筋活動を見ると屈筋が働くと屈曲に逸脱し,伸筋が働くと伸展に逸脱する様子が見られます.

ステージ 3:ゆらぎ(wobble).このステージになって乳児は抗重力コントロールを持続できるようになっています.ただし,まだ前後にゆらゆら揺れています.ヒストグラムは正規分布様となります.筋活動を見てみると,伸筋の活動と頭部COMの移動とが同期している様子がわかります.この伸筋の活動を調節して姿勢をコントロールしようとするパターンは成人と同じものです.ただし,筋活動の量は成人のそれに比べて非常に高くなっています.

ステージ 4:機能的(functional).一人座りが完成する時期です.この時期になると子どもは手を使っておもちゃで遊ぶ時間が増えます.ヒストグラムは正中位により近くなり,伸筋の活動量やパターンも成人のそれとほぼ同じです.

脳性麻痺を伴う子どものセラピーを考えると,ステージ 3のwobble期は子どもが姿勢を「固めている」段階とも考えられるのではないでしょうか.いわゆる「自由度の凍結(freezing degrees of freedom)」です.これに対して,ステージ 4のfunctional期は「自由度の解放(freeing degrees of freedom)」と捉えることも可能ではないでしょうか?この2つのステージの間にある鍵となる要素はいったい何でしょうか?

余談ですが,姿勢を「固めて(≒wobble?)」いる子どもを見たときに「あ~姿勢を固めているな.代償的な姿勢コントロールだ.これはよくない.何とかしないと(ネガティブ)」と考えるのではなく,「お~姿勢を固めてコントロール出来るのか.すばらしい.上手に座れるまであと一歩だな(ポジティブ)」と考えられるセラピストにないたいです.だって,姿勢を固めている≒wobbleだとしたら,4つあるステージの3つ目まで達成しているということですから.セラピストとして,子どもの背中を押す存在でいたいと思います.

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