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『トップガン・マーヴェリック』を観て『フラッシュダンス』を思い出しながらドン・シンプソンをしのぶ
以下は「トップガン・マーヴェリック」公開中に書いた文章です。
「トップガン・マーヴェリック」私は素直に楽しませていただきました。こういう映画は、どうこう批評するより楽しんだもの勝ち。そして、これは映画館で観ないと楽しめないことも分かっている作品ですから、暑いさなかですが映画館に行ってまいりました。ただ、以下は映画の話とは全然関係ないので、そのことをお断りしておきます
オープニングで、私はぐっときてしまいました・・・
製作が「ジェリー・ブラッカイマー&ドン・シンプソン プロダクション」と出たんですよね。
ブラッカイマーいい奴だなあ。友情だよ友情。シンプソン、君の名前を盟友ブラッカイマーはこうしてフィルムに刻み続けているんだ。天国で安らかに、いや、天国でやっぱり自分の好きな映画を作っていてくれ、と思いましたよ。
ジェリー・ブラッカイマーとドン・シンプソンは共同で制作会社を作り「フラッシュダンス」「ビバリーヒルズ・コップ」もちろん86年の「トップガン」など大ヒットを生み出したコンビでした。1980年代のこれらの映画の大ヒットを、批評家は相手にもしないか、あるいはけなしたかもしれませんが、少なくとも観客は映画館に詰めかけました。
二人は批判を意に介さないだけではなく「批評家の気に入るような映画を作っていたら、今でも私は安アパート暮らしだったでしょうね」(ブラッカイマー)「私の仕事は芸術を語ることではなく、映画制作のためのお金をきちんと作ることです」(シンプソン)と語っていました。
しかし、シンプソンにせよブラッカイマーにせよ、決してお金稼ぎのためだけに映画を作る人ではありませんでした。単に金稼ぎなら、彼らほどの営業力や構想力があるのならもっと他の仕事を選んでもよかった。シンプソンの死後、ブラッカイマーは「パイレーツ・オブ・カリビアン」をヒットさせますが、「トップガンの時代、戦闘パイロットの映画がヒットするなんて言った人はいなかったし、海賊映画は全く不人気で誰も作る人はいなかった」という意味のことを語っています。
「売れ線を狙う」のではなく、あくまで自分たちの作りたい作品を作り、それを絶対ヒットさせるエンターテイメントにする。シンプソンもブラッカイマーもそういうプロデユーサーでした。「私はなによりも、自分が見に行きたい映画を作っています」(ブラッカイマー)
そしてシンプソンのテーマは常に「挫折の中でも夢を見失わない主人公がついに運命に打ち勝つ」という、ある意味使い古されたテーマを、現代の映像でどうよみがえらせるかということでした。正直、じっくり映画を「鑑賞」する時間や余裕が現代人はだんだん減っている。それなら、当時ヒットしていたMTVの手法を映画に取り入れ、ある意味「現代のロックミュージカル」を作り、人々を飽きさせず、かつ力づけるような作品はできないだろうか。「フラッシュダンス」も最初の「トップガン」も、まさにそういう発想で作られたと思います。突拍子もないことを言うようですが、私は「フラッシュダンス」は、ある意味「ロッキー」のダンス版とも思います。
しかし、シンプソンは成功のさなか、次第に精神のバランスを失っていきます。「次の作品も大ヒットさせねばならない」「大衆の趣味嗜好をいつもキャッチせねばならない」というプレッシャーからか、酒とドラッグに溺れるようになりました。日常でもハリウッドで乱痴気騒ぎを続け「大成功した映画人」を無理に演じている面もありました。いつも美人の女性を連れていましたが、ほとんどはコールガールでした。シンプソンを真面目に心配しくてくれる女性に対しては、逆にシンプソンはどぎまぎするばかりでうまくコミュニケーションできなかったともいわれます。ブラッカイマーは何度もドラッグを辞めることを忠告しますが、ついに90年代の「バットボーイズ」を最後にシンプソンとのコンビを解消します。その後すぐ、シンプソンは薬物中毒で世を去りました。
ブラッカイマーやシンプソンのような人たちを、批評家が褒め上げることはないかもしれない。映画マニアも語ろうとはしないかもしれない。しかし、こういう人たちが大ヒット作を作り出してくれているからこそ、映画は滅びないし、その大ヒットのおかげで、マイナーな実験作を作るチャンスも映画界に生じるのです。ドン・シンプソンよ、永遠なれ。
フラッシュダンスのテーマ曲の歌詞、今聞き直すとなかなかしみる・・・
はじめは何も持っていなかった
ただほのかに光る夢のほかには
でもその夢は怖れにおおい隠されていた
私の心の奥深く
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