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幸せは、雨とともに
幸せは雨とともにやってくる。
娘の誕生も、お宮参りも、入学式も、幸せなときはいつも雨だった。そして、今回も。
家族全員の予定を合わせるために前倒しした銀婚式のお祝いディナー。ホテルから徒歩9分、雨予報は「ポツポツ」というアプリの情報を信じてのんきに部屋を出たら、外はまさかの本降り。大通りを歩きながらタクシーを…などという甘い期待は盛大な水しぶきとともに吹き飛ばされ、すっかり濡れてしまった足元を申し訳なく思いつつ、私たちはぬくもりのある木製の扉を「はじめて」開いた。
柔らかな照明の落ち着いた店内。さりげなく飾られた季節の花々。温かな笑顔と無駄のない動きでそれぞれの持ち場を切り盛りする人々。整然と整えられたテーブルには、シェフからのご挨拶と今宵のメニューが記された案内が置かれている。シャンパンやワインも今夜はおまかせにしよう。何を食べ何を飲みたいかを思案するより、何を食べさせ、何を飲ませてくれるのかという想像に心が躍った。
店の名はla.Prima vorta。ゴ・エ・ミヨ ガイドに5年連続掲載の、押しも押されもせぬ高知の人気イタリアンレストラン。しかし、そうした華々しい経歴よりも、ここは私たちにとって僭越ながら「志を同じくする」素敵な職人の店である。
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オーナーシェフの諏訪さんと初めて会ったのは雪の舞う1月。どこかのメディアに掲載されていたうちの蔵の記事を読んで興味を持ち、丁寧な事前連絡を下さってのご訪問だった。落ち着いた雰囲気の中から時折顔を出す少年のような好奇心と探求心、作り手の思いを聞き漏らすまいとする姿勢、その味を受け止め咀嚼し、自分自身の中に落とし込む様子…。まさに「土地に根ざした食の申し子」のような人だと思った。
「今日テイスティングさせてもらったもの、全て購入させてください。来られなかったスタッフとも今日の出来事を共有しながら味わって今後に活かしていこうと思います。」
そんな嬉しい言葉とともに全種類の商品を持ち帰られた諏訪さんはひと月後、スタッフの皆さんとともに再訪して下さった。
「うちのスタッフはみんな長年働いてくれているんです。」
とおっしゃる理由がすとんっと理解できた。美味しいものを共有するアンテナの鋭さが重なり、楽しさや喜びとないまぜになっている、キラキラした人々だった。
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美味しさと幸福度の基準はシンプルである。それはクチコミや権威あるナニモノかの太鼓判ではなく、「信じられる人が心を込めて作ってくれたものか否か」なのではないだろうか。
確かに、皆が美味しいという評判の店や権威ある賞を手にした店は満足のいくものを提供してくれるのだろう。しかしこの雨降りの夜、私たちが酔いしれた幸福は、それとは異なるものだった。私たちの蔵に真心を寄せ向き合って下さった、諏訪恵治シェフが作り出す世界は、私たちにとってこの上ないワンダーランドである。そしてそんな彼とともに魔法のような食卓を演出するスタッフさんたちの織りなす色鮮やかな世界。それは、こんな幸せな世界があったのかと、シンデレラが夢見心地になる世界である。その幸福をかけがえのない家族3人で味わえた夜は、奇跡と呼ぶにふさわしいものである。
「美味しい!」にはそれを作る人と味わう人、そしてそこに通い合う信頼や思いがあるのだな、と改めて実感する夜だった
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「美味しかったです!本当にありがとう。」
と言葉を交わす頃には、夜空はすっかり晴れ上がっていた。雨はまた次の幸せを準備するために、一足先に店を後にしたようだった。