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標高8000mの生態系

2009年5月30日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。

 8000㍍を越える山は、頂上に近づくにつれ、眩しいくらい明るいのに、青が次第に濃さを増し、黒く見えることすらある。紫外線が強く酸素は地上の3分の1、平均気温マイナス30度。こんな世界では僕たちが考えるような「生態系」が存在するとは考えにくい。

 ところが、昨年エベレストのアタック中に、サウスコル8000㍍の地点で大きな鷲の死骸を見つけた。シェルパの間では、鳥は神様の使いという信仰がある。僕たちは丁重にお墓を作り、登山の無事を祈った。
 いったいこの鷲は何を求めて不毛の土地である8000㍍の高所に来たのであろうか。ここには大鷲のえさになるような小動物は存在しない。ただカラスやスズメは8000㍍超でも飛んでいる。もしかすると屍となって横たわる登山家をついばむカラスやスズメを求めてきたのだろうか。そこまで考えが至ったとき、この場所では僕たちが自然のサイクルの中に取り込まれていることを実感した。

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