2013年4月22日(アーカイブ)
インドの王子様、ミウラベース基地に現れる
朝起きて、テントの張に頭をぶつけると、テントから「がさっ」と音がして雪が落ちた。外出るまでもなく昨日の夜はまた雪が降ったようだ。これほど連続して雪がベースキャンプで降るのも珍しい。起きると五十嵐さんとギャルツェンがダイニングテント前に立っている。聞くところによると、C1、C2では雪が1mほど降り積もり、ほとんどの隊が下りてきているという。明日はプモリC1に行くつもりであるが、この積雪だとそれも怪しいと思った。
朝食を食べるとき、お父さんを起こしに行った。昨日から下痢であったが、朝はどうにかテントから出てきて、おかゆを少し食べる。昨日の夜、大城先生からもらった薬により、大分楽になったそうだ。大雪により遠征は停滞しているが、それでも下準備をしなければいけない。プモリC1に明日行ったとして、その後、1日おいてすぐにエベレストC1、C2に行くことになる。そのため、僕たちがプモリで高度順化している間も荷揚げ作業をシェルパ達に行ってもらわなければいけない。
朝食後は高度順化のための食糧計画とその荷造りをした。テントや酸素というものは日程の遅れが出たりしても、使用する内容はそれほど変わらないので、事前の計画通りに荷造りをすればいいのだが、食事は人数や上がる人たちの好みを考慮しなければいけないので意外に最も時間がかかる。特に父は食にはうるさいので、結構神経を使う。今日も朝、いきなり「お昼には味噌煮込みうどんを食べたい」と言い始めた。味噌煮込みうどんは名古屋が名物であるが、ここには名古屋や中部地方出身の人がこの隊には誰もいない。
仕方がなく、ミトロ君がインターネットで味噌煮込みうどんの作り方を調べ、五十嵐さんがコックと一緒に食糧計画をしている合間に味噌煮込みうどんを作った。
これがまたおいしい!!!
しっかりと鶏のダシをとって、味噌ベースを作る。これには父も満足して、高所キャンプでもこれを作ってくれとまた無茶をいう。高所キャンプでは五十嵐さんがいないので僕が作ることになるのだ。
味噌煮込みうどんに満足してその余韻に浸っていると、インド人のご一行がダイニングテントの前に来た。聞くところによると彼らはインドの登山家で、その中でもRavinda Kumarさんはシッキムで最も位の高い人物であると紹介された。父はそれにピンときて「あなたはシッキムの王子様ですか」と聞くと「はいそうです」と答えた。それには椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。彼らは父が80歳でエベレストを登るという事を聞いて、わざわざ僕たちのテント場を探してきてくれたのだ。とても物腰が柔らかく、父に対して「あなたは私たちの希望であり情熱だ」と言って恭しく頭を下げ、握手を求めてきた。みんなで記念写真を撮り山頂での再会を誓った。昨日は日本人の山ガールやポーランドのジャーナリスト、その前はドイツの学生さんが来たが、ここにいるといろいろな人に出会える。
今日の午前中にヘンリートッドさんに頼んでいた120本の酸素ボンベがキャンプに到着した。今回は再充填の酸素ボンベも多く使っているので、これらを細かく調べなければいけない。しかし、昼間のテント内温度はなんと48度。先ほどまで厚い雲がかかっていたが、天気も回復傾向にあり、雲の合間から差す太陽光が痛いほど強い。テントがあまりにも熱くなると酸素ボンベの圧力が変わってしまう。そのため、酸素の圧力確認はもう少し冷えてからにすることにした。時間ができたので、父との恒例のアイスフォール散歩を行うことにした。連日降り続けている新雪を踏みしめるのは心地よい。しかし、倉岡さんと酸素の確認を16時半から行うと約束していたので、途中から大城先生に父のサポートをお願いして、ベースキャンプに帰ることにした。
帰ると平出君と倉岡さんがアイスフォールの氷にアイススクリューを打ってバーをつけて懸垂をしている。どこでも鍛えている筋肉フェチ達である。僕も負けず劣らす筋肉フェチなので一緒に懸垂をした。かなり疲れた。明日は筋肉痛だろう。
酸素の点検は倉岡さん、ミトロ君、五十嵐さんと僕で行った。再充填とはカトマンズにて使い古したボンベに再度圧力をかけて酸素を充填したボンベである。エコで経済的であるのだが、いまいち信用できないところもある。それぞれのボンベの重さと圧力を、レギュレーターを入れて確認する。気圧の250倍もあるようなボンベが転がり、さらにノズルの部分も壊れているものも多いので、ドキドキしながら確認する。しっかりと圧力があるボンベもあれば、そうでないものある、割合にして2割は圧力が足らず、1割はノズルが壊れていて使い物にならなかった。こうしたものは取り替えてもらおう。
酸素チェックの最中、夕食は参鶏湯を作ろうと思っていたので、コックに参鶏湯の作り方を指南する。もちろん本格的な参鶏湯は難しいが、とりあえず鶏二羽を圧力鍋に入れて、にんにく、しょうが、臭みを消すためのお茶と水を入れて45分ほど圧力鍋にかける。するとクンブ地方でワイルドに育った鶏肉の何とも言えないスープができる。以前、メラピークに行ったときに試したのではずれなしだ。みんな満足してくれた。
夕食のとき、倉岡さんが「今日昼の天気で大分雪が解けたので、明日はプモリに行こう!」といった。ベースキャンプに来てから早1週間、意外に忙しく過ごしたが、これからもっと忙しくなる。