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エベレストに向けて

2012年6月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 来年予定しているエベレスト(チョモランマ)登頂計画について先日、三浦雄一郎を中心にミーティングを行った。スケジュール、人員、体制等を話し合っているうちに1年後に迫ったエベレスト登頂が、現実味を帯びてきた。

 遠征の始まりは道具の点検からと考え、2008年のエベレスト遠征に使ったテント、寝袋、コッフェル、ガスコンロ等の装備を確認することにした。スタッフを招集、梅雨の晴れ間を利用して、これまで倉庫に眠っていた大量の登山道具を引っ張り出した。
 ガスストーブはそれぞれEPI(ガス缶)に接続して目詰まりを起こしていないかを確認する。コッフェルはバラバラになったものをまとめ、寝袋は全部、お日様にさらした。
 最も手間がかかったのが、35個もあるテントの点検だった。一つ一つ開いて、チャックやランナー(テントを固定するロープ)、窓枠、フライシートやテントポール等、細かい部分まで注意しながら破損と劣化度を調べる。これらは登山のライフラインであり、点検と修繕はおろそかに出来ない。
 確認作業をしていると、テントの中に何かこぼした跡やお菓子袋、ベースキャンプ付近の細かい岩がはいっていたりする。アタックの前にのんびりとベースキャンプで過ごした日々を思い出した。
 中には新品同様のテントがいくつかある。これらのテントはランナーが途中からスパッときれいに切れている。新品を使うのはアタック時に万全を期するためなのだが、ランナーがスパッと切れているのはテントを撤収する時、8000㍍もの高所で余計なエネルギーや時間を節約するためナイフで固定ロープを切るからだ。

 テントに触れていると、緊迫感がよみがえってきた。あの時、8200㍍の地点で高所性肺水腫と高所性脳水腫を併発、何とか自分でステロイド系の特効薬、デキサメサゾンを打ち、シェルパに抱えられ命からがら下山したことを。この時、自分でテントを撤収した覚えは全く無い。シェルパが必死にサポートしてくれ、テントも下げてくれたのだろう。
 1年後のエベレスト計画は流動的で不確定な要素も多いが、いざ装備の点検をこまごまやってみると現実的な感覚に至る。一つ一つ丁寧に点検することによってスタートラインに立った気がした。

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