南米最高峰、父と挑む
父の三浦雄一郎とともに挑む、南米最高峰の山アコンカグア(6960㍍)遠征が1ヵ月後に迫っている。今回はただ登るのではなく、スキーも滑る。そのための雪上トレーニングも必要で、それを先日の北海道合宿で行った。
札幌は例年より大幅に初雪が遅れ、トレーニングの舞台となったサッポロテイネスキー場もオープン前だった。僕たちには好都合だったのかもしれない。もし営業していたら、こんなに堂々とスキー場の真ん中を歩いて登れなかっただろう。
今回は体力トレーニングに加え、装備の確認も目的の一つであった。スキーの滑走面にシール(逆毛のついた滑り止めの布)を貼りつけて登ったり、登山靴にアイゼンをつけたりを何度も繰り返した。
これも立派なトレーニングである。登山靴からスキー靴への履き替え、アイゼンの付け替えは高所では大きな負担になる。靴ひもを結ぶために頭を下にするのさえ、酸素が少ない場所では楽ではないのだ。それでも事前に手順を詳しく確認しておけば、本番のストレスが減り、改善点を見つけることもできる。
今回の合宿は途中から天気が崩れて吹雪になった。これもトレーニングの目的にかなっていて、ありがたかった。登山靴を脱ぎ、スキー靴を履く。それだけのことが実は大変。雪が入らないように気をつけながら靴をザックから出す。ソックスがぬれないようにすぐに靴を置き、冷たく固まったスキー靴のプラスチックを押しひろげる。分厚い手袋越しにこれらの手順をすすめるのは、煩わしいことこのうえない。
登山では環境の変化に対応することが何より大事で、父の持病である不整脈には特に気を配らなければならない。これは自律神経によるところが大きく、環境の変化に影響されやすい。厳酷な環境下で、ある行動から次の行動へといかにスムーズに移れるか。この判断力もトレーニングで養うべきものだ。
アスリートが大きな大会を目指すとき、そのトレーニングは期間ごとの段階的なものになる。最初の段階は素地となる体力づくり。そこからより専門的な筋力をつけ、最後は回復を心がけながら本番に近い環境で細かい微調整を行う。これをピーキングという。
86歳のアスリート、三浦雄一郎のトレーニングはこれから最終段階。今後は低酸素室に入り、高度順化をしっかりやることでピークを迎えるはずだ。
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