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危機管理INSIGHTS Vol.13:消費者法と危機管理①-PSCマーク制度と子供の安全のための玩具への新規制-
1. はじめに
近年、子供用玩具として販売されているマグネットセットや水で膨らむボールを子供が誤飲し、開腹手術による摘出が必要となるなどの重大な事故が相次いで発生しました。
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(出典:独立行政法人国民生活センター)
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(出典:独立行政法人国民生活センター)
これらの事故の危険性の大きさや被害の重大さに鑑み、2023年5月16日、「消費生活用製品安全法施行令の一部を改正する政令」(以下「本改正」といいます。)が成立し(公布:2023年5月19日、施行2023年6月19日)、マグネットセットと水で膨らむボールに関する規制が新設されました。
本改正が上記2製品を製造、輸入または販売する事業者にとって重要な意味を有することはもちろんのこと、本改正を機に、他の事業者においても消費生活用製品安全法についての理解を深め、今後の改正に備えておくことは非常に有用といえます。
そこで今回は、本改正の成立を契機として、消費生活用製品安全法の基礎および本改正について解説します。
2. 消費生活用製品安全法の概要
消費生活用製品安全法(以下「消安法」といいます。)は、「消費生活用製品による一般消費者の生命又は身体に対する危害の防止を図るため、特定製品の製造及び販売を規制するとともに、特定保守製品の適切な保守を促進し、併せて製品事故に関する情報の収集及び提供等の措置を講じ、もつて一般消費者の利益を保護すること」を目的とする法律です(同法1条)。
消安法は、大別して、(i)PSCマーク制度、(ii)製品事故情報報告・公表制度、(iii)長期使用製品安全点検・表示制度という3つの制度を定めています。
本稿では、本改正が関係する(i)PSCマーク制度を解説します。(ii)および(iii)の制度については、下記経済産業省のウェブサイトをご参照ください。
【参照リンク】
経済産業省ウェブサイト「製品事故情報報告・公表制度の概要」
経済産業省ウェブサイト「長期使用製品安全点検・表示制度」
3. 「消費生活用製品」・「特定製品」・「特別特定製品」
(1)消費生活用製品
「消費生活用製品」とは、「主として一般消費者の生活の用に供される製品(別表に掲げるものを除く。)」をいいます(同法2条1項)。
別表には以下の製品が列挙されており、これ以外の製品で、通常、市場で一般消費者に販売されている製品は、全て消安法の対象とされています。
「消費生活用製品」の詳細は、経済産業省のウェブサイト「消費生活用製品の定義」をご参照ください。
【消安法の「別表」(消費生活用製品に当てはまらないもののリスト)】
① 船舶安全法(昭和8年法律第11号)第2条第1項の規定の適用を受ける船舶
② 食品衛生法(昭和22年法律第233号)第4条第1項に規定する食品及び同条第2項に規定する添加物並びに同法第68条第2項に規定する洗浄剤
③ 消防法(昭和23年法律第186号)第21条の2第1項に規定する検定対象機械器具等及び第21条の16の2に規定する自主表示対象機械器具等(いわゆる、消火器具等をいいます。)
④ 毒物及び劇物取締法(昭和25年法律第303号)第2条第1項に規定する毒物及び同条第2項に規定する劇物
⑤ 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第1項に規定する道路運送車両
⑥ 高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)第41条に規定する容器
⑦ 武器等製造法(昭和28年法律第145号)第2条第2項に規定する猟銃等
⑧ 薬事法(昭和35年法律第145号)第2条第1項に規定する医薬品、同条第2項に規定する医薬部外品、同条第3項に規定する化粧品及び同条第4項に規定する医療機器及び第9項に規定する再生医療等製品
⑨ 前各号に掲げるもののほか、政令で定める法律の規定に基づき、規格又は基準を定めて、その製造、輸入又は販売を規制しており、かつ、当該規制によって一般消費者の生命又は身体について危害が発生するおそれがないと認められる製品で政令で定めるもの
(2)特定製品
「特定製品」とは、「消費生活用製品のうち、構造、材質、使用状況等からみて一般消費者の生命又は身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品で政令で定めるもの」をいいます(同法2条2項)。
これまで「特定製品」としては、以下の10製品が指定されていました(同施行令1条、別表第1)。
【消安法施行令の「別表第1」(特定製品に指定されたもののリスト)】
① 家庭用の圧力なべ及び圧力がま(内容積が10リットル以下のものであつて、9.8キロパスカル以上のゲージ圧力で使用するように設計したものに限る。)
② 乗車用ヘルメット(自動二輪車又は原動機付自転車乗車用のものに限る。)
③ 乳幼児用ベッド(主として家庭において出生後24月以内の乳幼児の睡眠又は保育に使用することを目的として設計したものに限るものとし、揺動型のものを除く。)
④ 登山用ロープ(身体確保用のものに限る。)
⑤ 携帯用レーザー応用装置(レーザー光(可視光線に限る。)を外部に照射して文字又は図形を表示することを目的として設計したものに限る。)
⑥ 浴槽用温水循環器(主として家庭において使用することを目的として設計したものに限るものとし、水の吸入口と噴出口とが構造上一体となつているものであつて専ら加熱のために水を循環させるもの及び循環させることができる水の最大の流量が10リットル毎分未満のものを除く。)
⑦ 石油給湯機(灯油の消費量が70キロワット以下のものであつて、熱交換器容量が五十リットル以下のものに限る。以下同じ。)
⑧ 石油ふろがま(灯油の消費量が39キロワット以下のものに限る。以下同じ。)
⑨ 石油ストーブ(灯油の消費量が12キロワット(開放燃焼式のものであつて自然通気形のものにあつては、7キロワット)以下のものに限る。)
⑩ ライター(たばこ以外のものに点火する器具を含み、燃料の容器と構造上一体となつているものであつて当該容器の全部又は一部にプラスチックを用いた家庭用のものに限る。)
本改正により、2023年6月19日の施行日から、特定製品として、以下の2製品が追加で指定され、特定製品は合計で12製品となります(詳細は下記5で解説します)。
⑪ 磁石製娯楽用品(磁石と他の磁石とを引き合わせることにより玩具その他の娯楽用品として使用するものであつて、これを構成する個々の磁石又は磁石を使用する部品が経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る。)
⑫ 吸水性合成樹脂製玩具(吸水することにより膨潤する合成樹脂を使用した部分が吸水前において経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る。)
(3)特別特定製品
「特定製品」のさらなるカテゴリーとして、「特別特定製品」があります。
「特別特定製品」とは、「その製造又は輸入の事業を行う者のうちに、一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生を防止するため必要な品質の確保が十分でない者がいると認められる特定製品で政令で定めるもの」をいい(同法2条3項)、現在、以下の4製品がこれに指定されています。
① 乳幼児用ベッド(主として家庭において出生後24月以内の乳幼児の睡眠又は保育に使用することを目的として設計したものに限るものとし、揺動型のものを除く。)
② 携帯用レーザー応用装置(レーザー光(可視光線に限る。)を外部に照射して文字又は図形を表示することを目的として設計したものに限る。)
③ 浴槽用温水循環器(主として家庭において使用することを目的として設計したものに限るものとし、水の吸入口と噴出口とが構造上一体となつているものであつて専ら加熱のために水を循環させるもの及び循環させることができる水の最大の流量が10リットル毎分未満のものを除く。)
④ ライター(たばこ以外のものに点火する器具を含み、燃料の容器と構造上一体となつているものであつて当該容器の全部又は一部にプラスチックを用いた家庭用のものに限る。)
4. PSCマーク制度
(1)PSCマーク制度の概要
特定製品の製造、輸入または販売を行う事業者は、PSCマークが付されているものでなければ、これを販売または販売の目的で陳列することができません(同法4条1項)。
PSCマークとは、Product Safety of Consumer Productsマークの略で、製品ごとに省令で定めた技術上の基準(同法3条)に適合していることを示す表示です。PSCマークは、以下のとおり、特別特定製品とそれ以外の特定製品とで異なるマークが定められています。
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(2)PSCマークの付与に関する手続
特定製品にPSCマークを表示するには、以下の届出等の義務を履行する必要があります。
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(出典:経済産業省ウェブサイト「消費生活用製品安全法のご紹介」 )
詳細は、経済産業省ウェブサイト「消費生活用製品安全法 法令業務実施ガイド」をご参照ください。
(3)製品流通後の措置
また、消安法は、特定製品が市場に流通した後の措置として、大要、以下のものを規定しています。
・改善命令(14条)
・表示禁止命令(15条)
・危害防止命令(32条、39条)
・報告の徴収及び立入検査(40条、41条)
・主務大臣に対する申出(52条)
・罰則(58条から62条まで)
詳細は、経済産業省ウェブサイト「消費生活用製品安全法 法令業務実施ガイド」をご参照ください。
5. 子供の安全のための玩具への新規制の概要
上記1、3(2)記載のとおり、2023年5月16日、本改正が閣議決定され(公布:2023年5月19日、施行2023年6月19日)、特定製品に以下の2製品が加えられることになりました。
・磁石製娯楽用品(磁石と他の磁石とを引き合わせることにより玩具その他の娯楽用品として使用するものであつて、これを構成する個々の磁石又は磁石を使用する部品が経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る。)
・吸水性合成樹脂製玩具(吸水することにより膨潤する合成樹脂を使用した部分が吸水前において経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る。)
本改正により、現在販売されている磁石製娯楽用品(マグネットセット)や吸水性合成樹脂製玩具(水で膨らむボール)は、いずれも特定製品として消安法の規制に服することになり、2023年6月1日に公表された技術上の基準に適合しないものとして、PSCマークの付与を受けることができず、今後は販売等をすることができなくなります。
6. 事業者が押さえておくべきポイント
事業者は、新規制を含む法令をきちんと理解し、対応するとともに、製品事故を防止すべく安全性に万全を期すことも非常に重要です。そして、万一製品事故が起こってしまった場合には隠蔽せずに適切に報告・公表を行うことにより、被害を最小限にとどめることがリスクマネジメントの観点から肝要です。
本連載がそのための一助になりましたら幸いです。
Authors
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
弁護士 中村 朋暉(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)、一橋大学法科大学院学修アドバイザー。
三浦法律事務所の新卒第1期生として2022年4月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、訴訟・紛争等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。