【教育/保育業界必見!】危機管理Insights Vol.20:日本版DBSのポイント③-民間教育保育等事業者の認定と認定事業者等が講ずべき措置-
1. はじめに
Vol.18において、2024年6月19日に成立した「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(以下「本法」といいます。)が、概要、①学校設置者等及び民間教育保育等の事業者の責務等、②学校設置者等が講ずべき措置、③民間教育保育等事業者の認定及び認定事業者が講ずべき措置、④犯罪事実確認の仕組みの4本柱から成り立っていることをお伝えしました。
今回はこのうち、③民間教育保育等事業者の認定及び認定事業者が講ずべき措置について解説していきます。
2. 民間教育保育等事業者の認定及び認定事業者が講ずべき措置
民間教育保育等事業者は、民間教育保育等事業について、学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている旨の内閣総理大臣の「認定」を受けることができるとされています(本法19条)。
この認定を受ける実務的な意義・メリットとしては、教員等の犯罪事実確認につき、当該事業者が学校設置者等と同じ基準で実施をしていることが対外的に公表され、当該事業者もその旨を表示することができるという点にあると考えられます。
日本版DBS制度が開始した場合、学習塾や学童クラブ等に児童を通わせている、あるいはこれから通わせようと考えている保護者の方々は、学習塾等の従業員等に性犯罪歴はないのか、学習塾等が認定を受けているかといった点を気にするようになることが予想されます。学習塾等としては、このような保護者の懸念を解消し、安心して児童を預けられるという心情を持ってもらえるようにするために、認定を受けるインセンティブがあると考えられます。実際、既に日本版DBSに参加する予定であるという意向を表明している大手学習塾が存在している旨も報じられているところです。
ひとたび認定を受けると、事業者は、学校設置者等と同様に特定性犯罪の前科の有無を確認する義務を負うことになります。
(1)認定の基準
民間教育保育等事業者が「認定」を受けるための基準は、本法20条1項に列挙されており、概要、①犯罪事実確認を適切に実施するための体制、②児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置、③児童対象性暴力等に関して児童等が容易に相談を行うことができるようにするために必要な措置、④児童対象性暴力等を防止するためにとるべき措置等を定めた児童対象性暴力等対処規程の作成(内閣府令で定める基準に適合する必要あり)、⑤児童対象性暴力等の防止に対する関心を高めるとともに、そのために取り組むべき事項に関する理解を深めるための研修、⑥犯罪事実確認記録等を適正に管理するために必要な措置といった点をクリアする必要があります。
(2)認定等の公表
認定と民間教育保育等事業者及び事業運営者の共同認定(本法21条1項)を併せて「認定等」と定義した上で、内閣総理大臣が認定等をインターネットの利用等の方法により、以下の情報を公表するとしています(本法22条)。
(3)認定の表示
認定事業者等は、認定等事業に関する広告等に、内閣総理大臣が定める表示を付することができるとされており(本法23条1項)、認定等を取得したことを公に表示することができます。
(4)認定事業者等の義務
認定事業者等は、自身の定めた児童対象性暴力等対処規程を遵守しなければならないと定められています(本法25条)。
また、認定事業者等は、原則として、認定等に係る教育保育等従事者としてその業務に従事させようとする者について、業務を行わせるまでに、犯罪事実確認を行わなければならないとされています(本法26条1項)。認定時現職者については、認定等の日から起算して1年以内で政令で定める期間を経過する日までに、その全ての者(認定等の日から当該政令で定める期間を経過する日までの間に当該業務に従事しなくなった者を除く。)について、犯罪事実確認を行わなければならないとされています(本法26条3項)。
これに加えて、認定事業者等には、犯罪事実確認記録等の適正管理義務(本法27条)、帳簿の備付け及び定期報告の義務(本法28条)等も課されています。
3. まとめ
以上のとおり、民間教育保育等事業者は、認定のプロセスを経ることにより、保護者や児童に安心感を与えられる反面、認定事業者として様々な措置を講じる義務を負うことになります。
子ども政策担当大臣が事業者向けのガイドラインを早期に策定予定である旨を明言しているところ、民間教育保育等事業者は、そのようなガイドライン等の情報を踏まえて、認定を受けるか否か、認定を受ける場合にはどのような準備を行うべきかを吟味・検討することが望まれます。
ガイドライン公表後、本連載にて当該ガイドラインについても解説予定ですので、引き続きお読みいただけると幸いです。
Author
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。