【教育/保育業界必見!】危機管理Insights Vol.19:日本版DBSのポイント②-学校設置者等が講ずべき措置等-
1. はじめに
Vol.18において、2024年6月19日に成立した「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(以下「本法」といいます。)が、概要、①学校設置者等及び民間教育保育等の事業者の責務等、②学校設置者等が講ずべき措置、③民間教育保育等事業者の認定及び認定事業者が講ずべき措置、④犯罪事実確認の仕組みの4本柱から成り立っていることを解説しました。
今回はこのうち、②学校設置者等が講ずべき措置について解説していきます。「学校設置者等」の定義は本法2条3項に列挙されており、例えば、認定保育所、認定こども園、幼稚園、小学校、中学校、高校などがこれに含まれます。
2. 学校設置者等が講ずべき措置等
本法は、学校設置者等が講ずべき措置等として、概要、(1)犯罪事実確認義務等、(2)児童対象性暴力等を把握するための措置、(3)犯罪事実確認の結果等を踏まえて講ずべき措置、(4)児童対象性暴力等が疑われる場合等に講ずべき措置、及び(5)研修の実施を列記しています。
(1)犯罪事実確認義務
第1に、学校設置者等は、犯罪事実確認義務を負うとされています(本法4条1項)。
具体的には、学校設置者等は、教員等としてその本来の業務に従事させようとする者(施行時現職者を除く。)について、当該業務を行わせるまでに、「犯罪事実確認書」(本法33条1項)による特定性犯罪事実該当者であるか否かの確認(犯罪事実確認)を行わなければならないとされています。
また、学校設置者等は、施行時現職者については、施行日から起算して3年以内で政令で定める期間を経過する日までに、その全ての者(施行日から当該政令で定める期間を経過する日までの間に当該業務に従事しなくなった者を除く。)について、犯罪事実確認を行わなければならないとされています(本法4条3項)。
要するに、学校設置者は、新規採用者・施行日現職者とも、教員等について犯罪事実確認を行わなければならないということになります。
(2)児童対象性暴力等を把握するための措置
第2に、学校設置者等は、児童対象性暴力等を把握するための措置を講じなければならないとされています(本法5条1項及び2項)。
具体的には、学校設置者等は、児童等との面談その他の教員等による児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置、及び教員等による児童対象性暴力等に関して児童等が容易に相談を行うことができるようにするために必要な措置として内閣府令で定めるものを実施しなければならないとされています。
(3)犯罪事実確認の結果等を踏まえて講ずべき措置
第3に、学校設置者等は、犯罪事実確認の結果等を踏まえて講ずべき措置を講じなければならないとされています(本法6条)。
具体的には、学校設置者等は、犯罪事実確認に係る者について、その犯罪事実確認の結果、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、その者を教員等としてその本来の業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じなければならないとされています。
(4)児童対象性暴力等が疑われる場合等に講ずべき措置
第4に、学校設置者等は、児童対象性暴力等が疑われる場合等に講ずべき措置を講じなければならないとされています(本法7条)。
具体的には、学校設置者等は、教員等による児童対象性暴力等が行われた疑いがあると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、その事実の有無及び内容について調査を行わなければならないとされています。また、学校設置者等は、児童等が教員等による児童対象性暴力等を受けたと認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該児童等の保護及び支援のための措置を講じなければならないとされています。
(5)研修の実施
第5に、学校設置者等は、研修の実施をしなければならないとされています(本法8条)。
具体的には、学校設置者等は、児童対象性暴力等の防止に対する関心を高めるとともに、そのために取り組むべき事項に関する理解を深めるための研修を教員等に受講させなければならないとされています。
昨今、ハラスメント研修、コンプライアンス研修、内部通報制度に関する研修等の従業員研修の必要性・重要性は十分認識されつつあり、多くの企業や学校において工夫を凝らした研修を実施していることと思います。もっとも、研修の数や時間が増えすぎると受講する従業員の負担感が増し、コンプラ疲れと呼ばれる弊害を招く危険があります。
このような弊害を防ぐために、例えば、従業員研修のコンテンツを整理し、大上段の視点としてコンプライアンスやインテグリティ(高潔さ・誠実さ)の重要性を示した上で、本法をはじめとする様々な法令上要請される事項を各論としてメリハリ付けをしながら要所を伝え、従業員の理解度・浸透度を高めるといった対策が考えられます。
3. まとめ
以上のとおり、学校設置者等は、民間教育保育等事業者と異なり、認定等のプロセスを経ることなく、当然に様々な措置を講じる義務を負うことになります。
特に、犯罪事実確認義務、及び犯罪事実確認の結果等を踏まえて教員等としてその本来の業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じるという点は、まさに日本版“DBS”のプロセスであるため、抜け漏れなく対応できるよう入念に準備を進めることが望まれます。本連載がその一助となりましたら、幸いです。
Author
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
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