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危機管理INSIGHTS Vol.22:学校法人の危機管理/改正私立学校法の要所③-監事に関する改正点-
1. はじめに
2023年4月26日に成立し、同年5月8日に公布された「私立学校法の一部を改正する法律案」(以下「改正法」といいます。)の施行日は2025年4月1日とされており、施行日まで半年を切りました。
改正法の主眼と全体像、理事・理事会に関する改正点については、以下の記事をご参照ください。
【参照リンク】
危機管理INSIGHTS Vol.12:学校法人の危機管理/改正私立学校法の要所①-改正法の主眼と全体像-
危機管理INSIGHTS Vol.21:学校法人の危機管理/改正私立学校法の要所②-理事・理事会に関する改正点-
前回のVol.21では、学校法人の執行・運営の主体である理事・理事会に関する改正内容を解説し、大きな権限を有する理事・理事会に牽制を利かせることの重要性を説明しましたが、本記事で取り上げる「監事」はその牽制機能の最たる担い手です。
私立学校法上、監事は学校法人の業務及び財産の状況並びに理事の職務執行状況を監査する主体と位置付けられており学校法人の業務の決定と執行を担う理事及び理事会に対する牽制機能が期待されています。
本記事では、令和5年改正前の私立学校法(以下「現行法」といいます。)を踏まえつつ、監事に関する主な改正点について解説します。
2. 監事の選任・解任等
第1に、監事の選任・解任機関は評議員会とする旨の改正がなされました。
現行法では、監事は、評議員会の同意を得て、理事長が選任するとされていました(現行法38条4項)。
しかし、監事の選任に際しては評議員会の同意が必要であるものの、監査対象である理事長が、監査主体である監事を選任することは、監査対象である執行機関からの独立性ないし牽制関係の観点から問題がありました。
そこで、改正法では、監事は、評議員会の決議によって選任することになりました(改正法45条1項)。また、理事が、評議員会へ監事の選任議案を提出するときには、過半数の監事の同意が必要と定められています(改正法49条1項)。
監事の解任は、現行法では、解任機関の定めはなく、寄附行為の定めによるとされており(現行法30条1項5号)、例えば、改正前の寄附行為作成例では、理事会の特別決議で監事を解任できると定められることがありました。
しかし、監査対象である理事会が、監査主体である監事を解任するという点に、選任プロセスと同様の問題がありました。
そこで、改正法では、選任と同様に、評議員会の決議によって解任するとされました(改正法48条1項)。また、不当な解任を防ぐため、監事には、選任・解任された場合のみならず辞任の場合を含めて、評議員会での意見陳述の機会が与えられており(改正法49条3項)、辞任した監事は辞任後最初の評議員会で辞任理由を述べることも認められています(改正法49条4項)。
3. 監事の任期等
第2に、監事の任期に関する規定を追加する旨の改正がなされました。
現行法では、監事の任期をはじめ、再任回数、選出基準、選出手続等に関する定めはなく、これらの事項は寄附行為の定めによるとされ(現行法30条1項5号)、各学校法人の判断に任されていました。監事の任期を定めることは、任期満了時に再任するか否かを判断するに際して選任機関が候補者の適性を検討する機会となり、また、選出基準、選出手続等を明確にしておくことは、選任された者への信頼に繋がります。
改正法では、監事の任期は、選任後寄附行為をもって定める期間以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終了の時までとし、寄附行為をもって定める期間は、6年以内としています(改正法47条1項、69条1項)。また、理事の任期は監事の任期を超えてはならないという規定も新たに加わりました(改正法32条2項)。任期に関し、監事と理事の間に差異を設けることは、監事の地位の安定と独立性の確保に資するといえます。
なお、改正法でも、監事の選出基準、選出手続等に関する定めはありませんが、寄附行為等をもって定めることにより、人選及び選出過程の透明性を確保することも考えられます。
4. 監事の兼職制限・同族制限等
第3に、監事の兼職制限・同族制限をより厳格にする旨の改正がなされました。
現行法では、監事は、理事、評議員又は学校法人の職員との兼職が禁止されていましたが(現行法39条)、改正法では、これらに加えて、子法人役員(監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者を除きます。)又は子法人職員との兼職も禁止されました(改正法31条3項、46条2項)。この改正は、選任の段階で監査対象である理事側との関係を遮断し、監事の独立性に対する疑念が生じないようにするとともに、監事の職務への影響が生じないようにする趣旨のものです。
現行法でも、理事や評議員については、学校法人の創設関係者やその後継者との関係、法人の規模や置かれた状況が異なる等の事情を勘案した規定がありましたが(現行法38条7項)、改正法では、監事は、理事又は他の監事若しくは2人以上の評議員と特別利害関係(私立学校法施行規則12条)を有するものであってはならないとされました(改正法31条6項、46条3項)。私立学校法は、複数の監事がそれぞれ独立して各自の判断で権限を行使することにより監査全体を充実させることを期待しているところ、監事同士の馴れ合いによる監査がなされると、監事を複数置く意味がなくなるため、他の監事と特別利害関係がある者を監事に選任することは禁止されました。また、評議員についても、理事の業務執行を監視するという点では監事と評議員会の機能は共通であるため、評議員会内で監事と特別利害関係がある者が多数を占めることによる監事と評議員会との馴れ合いを防ぐため、2人以上の評議員と特別利害関係がある者を監事に選任することは禁止されました(なお、経過措置については、改正法附則2条2項をご参照ください)。
5. 監事の職務・権限等
第4に、監事の職務内容を拡充し、調査権限を強化する旨の改正がなされました。
改正法では、監事の職務には、子法人に対する調査権(改正法53条2項)、理事が評議員会に提出しようとする議案等の調査義務(改正法54条)、評議員会への出席・意見申述義務(改正法55条1項)、等が追加されました。また、学校法人と理事との間の訴訟では、監事が学校法人を代表するという規定も新たに加わりました(改正法59条)。なお、費用面が監査の制約となることを避け、費用面から監事の地位の独立性を確保するため、監事の職務執行について生ずる監査費用は、監事から学校法人への請求が認められています(改正法60条)。
監事の職務内容の拡充に伴い、大規模法人では監事の職務が膨大になることが予想され、日常的な対応が必要とされる事態もありうるため、大臣所轄学校法人等(改正法143条)のうち事業規模又は事業区域が特に大きい法人について、常勤の監事を定めなければならないとされました(改正法145条1項)。
6. 会計監査人との連携
第5に、監事と会計監査人との連携に関する改正がなされました。
改正法では、学校法人が、学校法人会計基準に従って会計処理を行うことが私立学校法に明記され(改正法101条)、それに従って作成された計算書類等(計算書類及び事業報告書ならびにこれらの附属明細書)は監事の監査を、会計監査人設置学校法人においては計算書類及びその付属明細書について会計監査人の監査を受けなければならないとされました(改正法104条)。
監事の職務には「財産の状況の監査」が含まれており、監事には「財務管理について識見を有する者」が含まれるとしていますが(改正法45条1項)、私立学校法上、会計専門家である必要はありません。そこで、会計監査人設置学校法人(改正法18条2項、144条3項)における監事は、その職務を行う上で必要があるときには、会計監査人に監査に関する報告を求めることができることとされました(改正法87条)。一方、会計監査人は、会計に関する不正な業務執行を発見しやすい立場にあるといえますが、それを是正する権限は有していないため、そのような事実を発見した場合には、監事に報告することとされました(改正法87条)。従って、監事が会計監査人からこうした報告を受けた場合には、監事は、理事会及び評議員会等に報告し(改正法56条2項)、例えば、理事の行為の差止請求権(改正法58条1項)等の権限を行使することなどの方策をとることが必要になります。
このように、監事は、会計監査人の専門知識を利用し、両者が連携することで、会計に関し効率的で充実した監査業務が行われることが期待されます。
7. 終わりに
以上のとおり、「監事」に関する改正点はまさに改正法によるガバナンス改革の要所の一つといえます。
改正法に則った仕組みを形式的に整えるだけではなく、監事による執行機関に対する牽制が実行的に機能するよう改正の趣旨等を踏まえたガバナンス体制の見直しが重要となります。
本記事が学校法人関係者の方々の一助となれば幸いです。
Authors
弁護士 齋藤 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2024年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
2012年~2024年3月まで検察官として勤務(うち2年間は都内の大手法律事務所に出向)。検察官在職時は、財政経済事案をはじめ幅広い事案に携わる。
2024年4月より現職。危機管理・コンプライアンス分野を中心に、当局対応、民事・刑事の錯綜する事案等、企業法務全般を幅広く取り扱う。
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
弁護士 小林 昇太郎 (三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2020年神戸大学法学部卒業、2022年東京大学法科大学院修了、2023年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。