税務UPDATE Vol.20:令和6年度税制改正大綱による税制適格ストック・オプションの要件緩和
1. はじめに
令和5年12月14日、「令和6年度税制改正大綱」(以下「本大綱」といいます。)が与党(自由民主党および公明党)から公表され、我が国におけるスタートアップ・エコシステムの抜本的強化の必要性を踏まえた税制適格ストック・オプションの要件緩和が行われる旨が示されました。
緩和される要件のうち、主たるものは権利行使価額の限度額および株式の保管委託(以下「株式保管委託要件」といいます。)であり(各要件の概要は下表も参照)、これらの要件緩和の内容については後述2. 3. においてご説明いたします。
その他、外部協力者(「特定従事者」)への税制適格ストック・オプション付与要件も緩和されておりますが、こちらについては後述4. においてご説明いたします。
2. 権利行使価額の限度額の引き上げ
本大綱により権利行使価額の限度額(現状は年間1,200万円)が以下のとおり引き上げられることが示されております。
以上を整理すると、下表のとおりとなります。
3. 株式保管委託要件の緩和
権利行使により取得される株式が譲渡制限株式である場合に限り、会社と付与対象者との間で締結される株式の管理等に関する契約に従って、当該会社により付与対象者の権利行使によって取得された株式の管理等がなされることを前提に、株式保管委託要件を満たすことが不要とされました。
これにより、付与対象者が権利行使により譲渡制限株式を取得した場合(上場前のM&Aに際して権利行使が行なわれた場合等)においては、会社が自社で当該譲渡制限株式につき管理を行うことが可能となりました。
株式保管委託要件については、ストックオプションに対する課税(Q&A)[最終改訂令和5年7月]の問11において株券を発行せずとも同要件を満たすことが可能な場合が示され、スタートアップ企業側の負担を軽減する方向の解釈が示されておりましたが(*)、このような方向性が租税特別措置法の改正によりさらに後押しされることとなります。
4. 外部協力者(「特定従事者」)への税制適格ストック・オプション付与要件の緩和
2.3.にて述べた要件の緩和のほか、外部協力者(「特定従事者」)への税制適格ストック・オプション付与に係る要件につきましても緩和が行われました。
スタートアップ企業等が外部協力者(「特定従事者」)に対し税制適格ストック・オプションを付与する場合には、(i)発行企業が中小企業等経営強化法第13条に規定する認定新規中小企業者等に該当し、(ii)付与対象者が同法2条8項に規定される社外高度人材に該当すること等が要件として認められるところ、中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提として、これらの要件が以下のとおり緩和される旨が本大綱により示されております(*)。
(i)認定新規中小企業者等に係る要件の見直し
認定新規中小企業者等に係る要件のうち、以下の要件を廃止することが示されました。
(ii)社外高度人材に係る要件の見直し
社外高度人材に係る要件について以下のような見直しを行うことが示されました。
■「3年以上の実務経験があること」との要件を、以下のとおり変更する。
上場企業の役員については「1年以上の実務経験があること」とする。
国家資格を有する者、博士の学位を有する者及び高度専門職の在留資格をもって在留している者については廃止する。
■社外高度人材に該当する者として、以下の者等を追加する。
教授及び准教授
上場企業の重要な使用人として、1年以上の実務経験がある者
非上場企業のうち一定の会社の役員及び重要な使用人として、1年以上の実務経験がある者
Authors
弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。
弁護士 金井 悠太(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2019年弁護士登録、西村あさひ法律事務所を経て、2020年12月から現職。M&A、データ法制対応、紛争解決、海外進出支援、一般法律相談等広く企業法務全般に携わる。