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ポイント解説・金商法 #21:公開買付開示ガイドライン【前編】

2024年9月17日、金融庁から「公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)(案)」(*1)(以下「本ガイドライン」といいます。)に対するパブリックコメントの結果(*2)が公表されました。本ガイドラインは2024年10月1日から適用することとされています。

(*1)金融庁:「公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)(案)」の公表について
(*2)金融庁:「公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)(案)」に対するパブリックコメントの結果等について

本ガイドラインは、発行者以外の者による株券等の公開買付けに係る開示書類の審査を行う関東財務局に対して審査に当たっての留意事項を示すとともに、法令上記載が求められる開示事項等について考え方を示すことを目的としたものとされておりますが、これまでの関東財務局における事前審査において実務上行われていた公開買付届出書に対するコメントの方針や審査内容が文書により明確化された部分が多いと言えます。また、本ガイドラインでは、全部取得を目的とする公開買付けと、部分取得を目的とする公開買付けの区別を意識した記載がされているのも特徴の一つです。

本noteは、本ガイドラインの内容について一元的に参照できるよう、ある程度網羅的に紹介しつつも、必要に応じて重要と考えられるポイントに絞って本ガイドラインの内容を解説するものです(本noteは前編です。後編については、「ポイント解説・金商法 #22」をご参照ください。)。

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開催日時
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1 共通事項

本ガイドラインでは、まず「A 共通事項」として、本ガイドラインの趣旨、関東財務局における事務処理の範囲・事前相談の方針(*3)、一般的な留意点等が記載されています。

(*3)なお、事前相談の開始時期が明確ではないといった指摘に関しては、パブコメにおいて以下の回答がなされております。

(パブコメNo.2)
(事前相談については、)おおよその時期の目安について関東財務局のウェブサイト等で公表することを検討いたします。また、当該ウェブサイト等にて事前相談にて提出が必要となるフォーマット等を公表することについても検討いたします。

このうち公開買付届出書等の記載における一般的な留意事項については以下のように記載されております。

(全部取得を目的とする公開買付けの場合)
公開買付価格の公正性に関する情報が適切に開示されているか否かを重点的に審査すること。
・買付予定数の下限その他の事情を踏まえ、当該公開買付けの成立にかかわらず全部取得の目的を達することができないおそれがある場合、その蓋然性に応じ、「部分取得を目的とする公開買付けの場合」の場合に準じて審査すること。

(部分取得を目的とする公開買付けの場合)
公開買付価格の公正性に関する情報のほか、公開買付けの目的及び公開買付け後の経営方針、株券等の追加取得又は第三者への譲渡の予定等に関する情報が適切に開示されているか否かを重点的に審査すること。
・公開買付者が特定の者のみから株券等を取得することを目的として実施するディスカウントTOB等、他の株主が応募することが見込まれないような場合、公開買付価格の公正性に関する情報は、必ずしも重要性が高いとはいえないこと。

2 基本ガイドライン

次に、「B 基本ガイドライン」として、公開買付届出書の様式上の各項目を中心に、審査上留意すべき点が記載されています。「Ⅰ.公開買付届出書」、「Ⅱ.公開買付届出書の添付書類」、「Ⅲ.予告公表」、「Ⅳ.訂正届出書」、「Ⅴ.その他」に分けて記載されていますが、本noteでは、本ガイドラインの大部を占める「Ⅰ.公開買付届出書」に関する留意点を中心に、ポイントを絞って紹介します。

A. 第1【公開買付要項】-3【買付け等の目的】関係

① 公開買付けの概要

  • 以下の事項等が記載されることが一般的。
    ・公開買付けの目的の概要
    ・公開買付者、その特別関係者及びその他の当該公開買付けの関係者が所有する対象者の株券等の数
    ・公開買付けを含む一連の取引の概要
    ・買付予定数の上限及び下限
    ・対象者の意見の概要
    ・公開買付けに係る重要な合意等

  • 一連の取引が複雑な場合等には、当該取引の全体像や各当事者との関係等について、図表等の活用を含めて、投資者にとって分かりやすい記載となっているか。

  • 公開買付者に加えて、公開買付者の特別関係者、公開買付者との間で応募契約その他の公開買付けに係る重要な合意をしている者その他のその所有する株券等の数が投資情報として重要である者について、所有する対象者の株券等の数及び所有割合(その計算方法を含む。)が記載されているか。

  • 公開買付けの目的と買付予定数の上限及び下限が整合的か。

(全部取得を目的とする公開買付けの場合)
公開買付けの後において公開買付者及びその特別関係者が有する議決権が総株主の議決権の3分の2を下回るおそれがある買付予定数の下限を設定する場合には、公開買付者において当該買付予定数の下限が買付け等の目的の達成のために必要かつ適当と考えた理由について、具体的に記載されているか。

② 公開買付者が公開買付けを実施するに至った背景、目的及び意思決定の過程

  • 以下に記載するような、公開買付者又は対象者の概要並びに対象者等との協議・交渉の経緯及び概要が記載されることが一般的。

③ 対象者における公開買付けに対する意思決定の過程並びにその内容及び理由

(全部取得を目的とする公開買付け)
公開買付価格が対象者の直近の1株当たり純資産額を下回る(いわゆるPBR1倍割れの)水準となる場合には、当該1株当たりの純資産額及び当該公開買付価格が当該1株当たり純資産額を下回る割合が記載されているか。
・この場合において、対象者が当該公開買付価格に公正性・合理性があると認めたときには、その判断根拠(当該公開買付価格と当該1株当たり純資産額の差額に対する評価も含む。)が、対象者の個別具体的な事業内容、財務状況等を踏まえて、適切かつ具体的に記載されているか。

(パブコメNo.12、13、14、15)
公開買付価格が対象者の直近の1株当たり純資産額を下回る水準であることや対象者が当該水準の公開買付価格に公正性・合理性があると認めることを否定するものではない。

(公開買付価格のプレミアム率が過去の同種案件のプレミアム率を大幅に下回る場合)
対象者において当該公開買付価格に公正性・合理性があると認めたときには、当該判断に至った理由(過去の同種案件のプレミアム率を下回ることへの評価を含む。)が具体的に記載されているか。

(部分取得を目的とする公開買付け)
対象者が部分取得を目的とする公開買付けと同時又は近接した時点で、公開買付者を割当先とする当該公開買付けの公開買付価格を下回る払込金額での第三者割当増資を実施する場合に、当該第三者割当増資を組み合わせたとしても、当該公開買付けのみで目的の遂行を図る場合に比べて、対象者の既存株主(当該第三者割当増資を引き受ける者を除く。)にとって不利とならないと対象者が判断する理由が記載されているか。

④ 公開買付け後の経営方針

(部分取得を目的とする公開買付け)
・公開買付け後の経営方針の内容や理由、時期等について、可能な限り具体的に記載されているか。
・公開買付け後の経営方針の内容については、経営陣の交代等の組織上の施策と新規事業の開始等の事業上の施策とが区別されて記載されているか。

(全部取得を目的とする公開買付け)
 一般に、対象者株主でなくなる投資者にとって、買付け後の経営方針は投資情報としての重要性が高くないと考えられるため、通常、概括的な記載で足りる。

⑤ 公開買付けの公正性を担保するための措置

⑥ 上場廃止等となる見込み及びその理由

  • 公開買付けの結果、対象者の株券等が上場維持基準に適合しないこととなる見込みがある場合、不適合が生じ得る具体的な上場維持基準の項目名のほか、不適合となる理由が具体的に記載されているか

  • 公開買付けの結果、流通株式数、流通株式時価総額又は流通株式比率が下落して上場維持基準に抵触する可能性がある場合、公開買付け実施前の流通株式数、流通株式時価総額又は流通株式比率の具体的な数値とともに、公開買付けの結果各数値がどの程度下落する可能性があり、その結果上場維持基準に抵触する可能性があるという旨が記載されているか


Authors

弁護士 後藤 徹也(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。ニューヨーク州弁護士、一種証券外務員資格・内部管理責任者資格。21年8月から現職。
『実務問答金商法第41回「種類株式と公開買付規制」』(旬刊商事法務2366号(2024年)111頁)『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『会社訴訟・紛争実務の基礎-ケースで学ぶ実務対応』(有斐閣、2017年〔共著〕)、『公開買付けの理論と実務〔第3版〕』(商事法務、2016年〔共著〕)、『アドバンス会社法』(商事法務、2016年〔執筆協力〕)等、著書・論文多数。

弁護士 大草 康平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年東京大学法学部卒業、2015年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2020年3月から現職(2022年1月パートナー就任)。2017年から2019年にかけては経済産業省経済産業政策局産業組織課に出向(課長補佐)し、コーポレート・ガバナンスに関するガイドラインの策定、M&Aに関する会社法の特例に関する法改正等に従事。上場会社に関するM&A、コーポレート・ガバナンス等、会社法、金商法、上場規則関係を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

弁護士 辻 勝吾(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2017年アンダーソン・毛利・友常法律事務所、2021年三浦法律事務所。様々な上場会社・非上場会社のM&A(公開買付け、株式譲渡、合併その他組織再編等)、コーポレートガバナンス等を中心に取り扱う。ALB Japan Law Awards 2023および2024においてM&A Deal of the Year (Midsize)を受賞、『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務・2022年)共著、『特集:テーマ別 最新「ソフトロー」事典<M&A>』(ビジネス法務 2024年6月号、中央経済社・2024年)共著、セミナー「TOB実務で必要な基礎知識-買付者・対象者それぞれの視点から-」(株式会社レコフデータ・2024年)等。


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