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ポイント解説・金商法 #18:公開買付制度及び大量保有報告制度の改正

2024年5月15日、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」が成立し、同月22日に公布されました(以下「本改正法」といいます。)。本改正法は、公開買付制度及び大量保有報告制度の一部改正を含むところ、これは2023年12月25日に公表された「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」といいます。)における検討及び提言を踏まえたものとなります。

本noteでは、本改正法のうち、公開買付制度及び大量保有報告制度の改正に焦点を当て、WG報告での検討内容を踏まえた本改正法のポイントをまとめました。


1. 公開買付制度の改正

(1) 市場内取引への公開買付規制の適用

【現行制度】
市場内取引(立会内)は、誰もが参加でき、取引の数量や価格が公表され、競争売買の手法によって価格形成が行われるといった点で、一定の透明性・公正性が担保されているとの考え方に基づき、原則として5%ルール(*1)及び3分の1ルール(本改正法により30%の閾値へ引き下げられた点含め、下記1(2)参照)の適用対象にはなっていない。

【WG報告の提言】
近時は市場内取引(立会内)を通じて議決権の3分の1超を短期間のうちに取得する事例も見受けられ、そのような会社支配権に重大な影響を及ぼす取引について、投資判断に必要な情報・時間が一般株主に十分に与えられていないため、市場内取引(立会内)についても3分の1ルールの適用対象とすべきである。

【本改正法】
市場内取引(取引所における競売買の方法による取引)のうち、株券等所有割合が30%超となる買付け等を公開買付規制の対象に追加することとする(金商法第27条の2第1項第1号)。

*1 多数の者(60日間で10名超)から買付け等を行い、買付け後の株券等所有割合が5%超となる場合には、公開買付けによらなければならないというルールをいいます。

(2)3分の1ルールから30%ルールへ

【現行制度】
買付け等の後の株券等所有割合が「3分の1」を超えるような場合には、著しく少数の者からの買付け等であっても公開買付けによることが義務付けられる(いわゆる「3分の1ルール」)。
 
【WG報告の提言】
諸外国の公開買付制度を概観すると、公開買付けの実施が義務付けられる閾値を30%としている例が多い。また、日本の上場会社における議決権行使割合を勘案すると、30%の議決権を有していれば、多くの上場会社において株主総会の特別決議を阻止することができ、株主総会の普通決議にも重大な影響を及ぼし得るものと推察される。そのため、3分の1ルールの閾値を30%に引き下げることが適当である。
 
【本改正法】
公開買付けの実施が義務付けられる議決権割合を3分の1から30%に引き下げることとする(金商法第27条の2第1項第1号)。

(3)「急速な買付け等」の規制廃止

【現行制度】
(A)3分の1ルールの対象外取引(新規発行取得、市場内取引(立会内)等)と、(B)3分の1ルールの対象取引(市場外取引等)を区分し、3か月以内に(B)の取引により5%超の株券等を取得するとともに、(A)の取引と合計して10%超の株券等を取得することで3分の1超の株券等所有割合に至る場合、公開買付けの実施が義務付けられる。
 
【WG報告の提言】
現行の「急速な買付け等」の規制においては、市場内取引(立会内)は(A)の取引と位置づけられているところ、今般、市場内取引(立会内)を3分の1ルールの適用対象とすることに伴い、市場内取引(立会内)を(B)の取引として整理することが適切である(*2)。
 
【本改正法】
現行の「急速な買付け等」の規制については廃止する(現行金商法27条の2第1項4号の削除)。

*2 WG報告では、市場内取引(立合内)を3分の1ルールの適用対象とする場合には、そのような場面においても公開買付けの実施が義務付けられることとなるため、「急速な買付け等」の規制を維持する必要がないとの意見も見られたものの、最終的に「急速な買付け等」の規制を廃止すべきとの結論には至らなかったとされています。

(4) 他者の公開買付期間中の買付けルールの廃止

現行制度】
株券等につき公開買付けが行われている場合において、株券等所有割合が3分の1を超えている者が、5%超の株券等の買付け等を行う場合、公開買付けが強制される(*3)。
 
本改正法】
上記規制については廃止する(現行金商法27条の2第1項5号の削除)。

*3 株券等所有割合が3分の1を超えている者が当該株券等の買付けを行う場合、市場外取引であれば原則として公開買付けが強制されるため、上記規制は市場内の取引に公開買付規制を及ぼすことに意義があったところ、今般市場内取引が公開買付規制の対象となったことに伴い削除されたものと思われる。

(5) 5%ルールの新たな適用除外(政令により規定予定)

【WG報告の提言】
5%ルールが過度に取引を制限している面があるため、(a)単元未満株式の買付け等や、(b)機関投資家等の顧客からの買付け等であって、その後直ちに売却することを予定しているものについては5%ルールの適用対象とならないことを明確化すべきである。

本改正法】
本改正法においては、5%ルールに関して「取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等」が適用除外として追加されているものの(金商法27条の2第1項2号)、当該「政令で定める取引」としてWG報告の提言どおりの内容が定められるのか含め、具体的な内容は今後明らかとなる。

(6)公開買付説明書の記載の簡素化

【WG報告の提言】
公開買付説明書の内容が公開買付届出書とほぼ同内容となっており、その効果に比して当該公開買付説明書の交付・訂正に関する事務が負担となっているため、公開買付届出書を参照すべき旨を記載することによって、公開買付説明書の内容を簡素化することを可能とすべきである。
 
【本改正法】
公開買付説明書に記載するべき事項のうち、公開買付届出書に記載された事項について、公開買付届出書を参照すべき旨及び公開買付届出書を閲覧するために必要な事項を記載した場合、公開買付説明書に記載されたものとみなすこととする(金商法第27条の9第2項)。

また、公開買付届出書の訂正届出書の提出に伴う公開買付説明書の訂正事項分について、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める場合に該当する場合には、訂正事項分の交付を不要とする(金商法第27条の9第4項)。

2. 大量保有報告制度の改正

(1)共同保有者の範囲の限定

現行制度】
保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者については、例外なく共同保有者に該当する。
 
WG報告の提言】
上記合意に黙示の合意が含まれることとなる結果、機関投資家による協働エンゲージメント(*4)に萎縮効果をもたらしている。そこで、機関投資家による協働エンゲージメントに関して、共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的とせず、かつ継続的でない議決権行使に関する合意をしているような場合については、共同保有者概念から除外することが適当である。
 
本改正法】
共同保有者の範囲に関し、①金融商品取引業者等であって、②経営に対して重要な影響を及ぼす行為を行うことを目的とせず、③株主としての権利を共同して行使することの合意である場合については、共同保有者には該当しないこととする(金商法27条の23第5項)。

*4 他の機関投資家と協働して個別の企業に対して対話を行うことをいいます。

(2)現金決済型デリバティブ取引への提出義務の拡大

現行制度】
現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引のロングポジションを保有するのみでは、基本的に大量保有報告制度の適用対象にならない。
 
WG報告の提言】
現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引であっても、現物決済型のエクイティ・デリバティブ取引に変更することを前提としている事例や、そのようなポジションを有することをもって発行会社にエンゲージメントを行う事例が存在する。そこで、取引開始時点で潜在的に経営に対する影響力を有しているものや、実質的に大量保有報告制度を潜脱する効果を有すると評価できるものについては、大量保有報告制度の適用対象とすることが適当である(*5)。
 
本改正法】
株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有する者であって、当該デリバティブ取引の相手方から当該株券等を取得する目的その他の政令で定める目的を有する者は、当該株券等の保有者とみなされることとする(金商法27条の23第3項第3号)。

*5 例えば、①取引の相手方から株券等を取得することを目的とするもの、②取引の相手方が保有する株券等に係る議決権行使に一定の影響力を及ぼすことを目的とするもの、③これら①②のような地位にあることをもって発行会社に重要提案行為等を行うことを目的とするもの等が考えられるとされていました。

3. 今後の見通し

本改正法の施行期日は、原則として、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされておりますが(本改正法附則1条本文)、本noteで取り上げた公開買付制度及び大量保有報告制度に関する事項は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされております(本改正法附則1条3号)。

今後、本改正法の施行に向けて同法施行令・内閣府令事項が検討され、改正案が公表・パブリックコメントに付されると思われるところ、その動向については注視が必要となります。


Authors

弁護士 後藤 徹也(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。ニューヨーク州弁護士、一種証券外務員資格・内部管理責任者資格。21年8月から現職。
『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『会社訴訟・紛争実務の基礎-ケースで学ぶ実務対応』(有斐閣、2017年〔共著〕)、『公開買付けの理論と実務〔第3版〕』(商事法務、2016年〔共著〕)、『アドバンス会社法』(商事法務、2016年〔執筆協力〕)等、著書・論文多数。

弁護士 豊島 諒(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2018年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2020年慶應義塾大学法科大学院修了、2022年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2022年4月から現職。企業買収・公開買付けといったM&A案件を中心に、企業法務全般を広く取り扱う。

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