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M&P LEGAL NEWS ALERT #17:AIアクティビズムと株主提案③


1. はじめに

AIの使用に関する透明性レポートの作成・公表を求める株主提案の賛成率は高くなる傾向にあることに鑑み(詳細は「M&P LEGAL NEWS ALERT #13:AIアクティビズムと株主提案」をご参照ください)、AI情報の開示を充実させることについて株主と同意することで株主提案を撤回させた米国企業も存在します。

そのうちの1社がヘルスケア企業であるUnitedHealth Group(ユナイテッドヘルス・グループ)ですが(*1)、もともとユナイテッドヘルス・グループはいかなるAI情報の開示を行っており、株主提案を受けてどのようにAI情報の開示を充実させたのかを踏まえ、日本企業が行っておくべき開示対応を検討します。

*1 Shareholder proposal withdrawn after United Health agrees to report on AI use

2. AI情報の開示

前提として、AIのリスクに対する取り組みが不十分である場合には企業価値の毀損につながるため、取締役会によるAIに関する監督が行われていたり、AIに関連する懸念や問題に対応したりしているのであれば、その旨を適切に開示することが重要です(詳細は「M&P LEGAL NEWS ALERT #16:AIアクティビズムと株主提案②」をご参照ください)。

(1)株主提案前のAI情報の開示

ユナイテッドヘルス・グループは従前からサステナビリティレポートにおいて以下のAI情報を開示していました(*2)。

*2 2022 Sustainability Report (UnitedHealth Group) の66頁

これらの内容は、AIと機械学習(ML)を活用することの意義やAI/MLのプラクティスを継続的に改善していくことのコミット、ガバナンスなど、自社のAI情報を簡潔にまとめたものといえますが、簡潔であるが故にAIの使用に伴うリスクやそうしたリスクを軽減するための取り組みが判然としないものになってしまっていたといえます。

(2)株主提案後のAI情報の開示

株主提案が行われた後にユナイテッドヘルス・グループが公表したサステナビリティレポートでは以下のとおりAI情報が大幅に拡充されています(*3)。

*3 2023 Sustainability Report (UnitedHealth Group) の68~71頁

このように、株主提案後に公表されたサステナビリティレポートでは、

  • AIの使用の具体例

  • AIモデルで使用されるデータの種類

  • AIモデルによるデータ使用における手続要件

  • AI/MLガバナンス手続のもとになる思想

  • 取締役会とAIに関連する取締役委員会の任務・役割

  • 運用レベルにおけるマネジメント手法

  • AIガバナンスのために設置した委員会等の構成メンバーや任務・役割、権限

  • AIモデルとユースケースを評価するための基準となる原則(プリンシプル)の内容

  • AIツールの使用に関する懸念を報告する方法

などについて具体的な記載がなされるようになっています。

3. 日本企業が行っておくべき開示対応

株主提案後に取り組み自体のアップデートが行われたものもあると思われる一方で、従前から開示しようと思えば開示できたものも少なからずあると思われるところ、適切に開示を行わなければ取り組み自体が行われていないものとして評価されかねません。

そのように評価されてしまうのはもったいないことですので、上記のユナイテッドヘルス・グループの事例も参考に、自社におけるAIの使用やAIに関するガバナンス体制、取り組みなどについてできるだけ具体的に説明することが重要です。

例えば、①自社におけるAIの使用についてであれば、一般的な使用方法に加え、自社固有の使用方法を説明し、使用に際しての手続要件や管理方法なども併せて説明する、また、②AIに関するガバナンス体制についてであれば、取締役会による監督の内容のほか、AIに関連して設置している委員会等の構成メンバーや任務・役割、権限を説明するとともに、ガバナンス体制の全体像を図示するといったことで立体的な開示となり、株主や機関投資家の理解が進むものとなります。

また、金融庁が毎年公表している「記述情報の開示の好事例集」では投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントがテーマごとに記載されており、例えば、情報セキュリティについては、「情報セキュリティ上のリスクに対して実施している施策について端的に記載」、「情報セキュリティに関するガバナンス体制について具体的に記載」といった点が好事例として着目したポイントとされていますので(*4)、これらの開示のポイントをAI情報の開示にあたって取り入れることも有用です。

*4 「記述情報の開示の好事例集2023(金融庁・2024年3月8日)」の5-8や5-9など


Author

弁護士 関本 正樹(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士。21年7月から現職。18年から20年にかけては株式会社東京証券取引所 上場部企画グループに出向し、上場制度の企画・設計に携わる。『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『対話で読み解く サステナビリティ・ESGの法務』(中央経済社、2022年)等、著書・論文多数

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