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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第25話 僕とメイドと元許嫁の吹っ切れない関係

  *

 屋敷の中に入った僕たちはリビングに向かった。

 ソファーに腰掛けたドロワットさんは落ち着いたのかゆっくりと息を吐いた。

 それを見たメイが僕に耳打ちしてきた。

「あの……ご主人様」

「うん? どうしたんだい?」

「ドロワットさんのことなんですけど、どうされるおつもりですか?」

「ああ、そうだなあ……」

 僕は悩んだ末に結論を出した。

「彼女の気持ちに応えることはできないと思う。だけど、せっかく来てくれたんだし、しばらくはこの屋敷に滞在してもらうつもりだよ」

 するとメイは納得したように頷いた。

「なるほど、わかりました。では、そのように手配しておきます」

「ありがとう、助かるよ」

「……はい」

 ふと気になったことがあったので、ソファーに座っているドロワットさんに話しかけた。

「そういえば、ドロワットさんのお父様とお母様は、なんて……?」

 彼女は微笑みながら答えてくれた。

「…………」

「もしかして、何も言わずに、ここまで来たのかい? ご両親も心配してるんじゃないのかな?」

 しかし、その言葉を聞いたドロワットさんは笑みを浮かべたまま黙っているだけだった。

 その様子を見て不安を覚えた僕がさらに問いかけようとした時、彼女が口を開いた。

「ゴーシュ様、今は二人きりでお話させていただいてもいいかしら?」

「あっ、うん、それは、いいけどさ」

 そう言うと僕はメイに目配せをした。

 彼女は察してくれたようで席を立った。

 それを見てから僕はドロワットさんの彼女の話を聞くことにした。

「実はわたくし、お父様とお母様には何も言わずにここまで来たのです」

「でも、何も言わずに来るなんて無茶だよ。ご両親も心配しているよ」

「ええ、わかっていますわ。ですから、今から手紙を書こうと思いますの」

「すぐに書いた方がいいよ」

 僕が頷くと彼女は微笑みつつ言った。

「ご忠告、感謝しますわ。それでは手紙を書き終えたらまた、ここに来ますわね」

「うん、わかったよ」

 そんなやり取りをして別れた後、自室へ戻った僕は椅子に腰を下ろした。

 それを確認したメイが紅茶を用意してくれたのでお礼を言いつつ一口飲んだ後、大きく息を吐き出した。

 そんな僕を見たメイが言った。

「……大丈夫ですか?」

「……うん、大丈夫だよ……ただ、まさかドロワットさんが一人で僕のところに来るなんて思ってなかったからさ……正直、驚いたんだよ……」

 それを聞いたメイは小さく頷きながら言った。

「そうですね……わたしも驚きました……」

「それに、あの様子だと、きっと帰るつもりはないんだろうなぁ……」

「そのようですね……」

 それから、しばらく沈黙が続いた。

 やがてメイがポツリと呟いた。

「本当に大丈夫でしょうか……?」

「まあ、なんとかなると思うよ……」

「そうですか……」

 そこで再び沈黙が訪れた。

 その後、夕食の時間になったので食堂へ向かった。

 そこにはすでにドロワットさんの姿があった。

 彼女は僕たちの姿を見ると椅子から立ち上がり、一礼してから挨拶をしてきた。

「お待ちしておりましたわ、ゴーシュ様、メイさん。それと……あの方は、どなたですの?」

「ああ、紹介してなかったね……」

 ソフィアは優雅にお辞儀をした後、自己紹介を始めた。

「はじめまして、ドロワット様。わたしは、ソフィアと申します。以後、お見知りおきくださいませ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

 挨拶を済ませた後、僕たちは席に着いた。

「それで手紙は書けたのかい?」

「ええ、もちろんですわよ」

 そう答えた彼女の顔は、なぜか自信に満ち溢れていた。

 そして食事が終わった後、さっそく手紙を持ってきた。

「お待たせいたしました。これでよろしいかしら?」

「確かに受け取ったよ。メイ、手紙を送ってくれるね?」

「かしこまりました」

 メイは返事をすると手紙を受け取り、部屋から出て行った。

 それを見送った後、ドロワットさんに話しかけた。

「さて、それじゃ食後のお茶にでもしようか」

「ええ、ぜひ、ご一緒させていただきますわ」

 こうして僕とドロワットさんはお茶をしながら会話をすることになった。

 しばらくして、会話が一段落したところで彼女に問いかけた。

「ところでドロワットさん、君はこれからどうするつもりなんだい?」

 彼女は微笑みながら答えた。

「とりあえず、ここでお世話になろうと思っておりますわ」

「そうなんだ……」

「ええ、そうですわ」

「……ちなみに聞くけど、いつまでここにいるつもりなんだい?」

「それはもちろん、ゴーシュ様がお許しくださるまでですわ」

「うーん……そうかぁ……」

 僕は腕組みをしながら考え込んだ。

(やっぱり、そうなるよなぁ……)

 正直なところ、彼女とこのままずっと暮らすというのは現実的ではないと思っていた。

 なぜなら、今の僕にとって一番大切なのはメイだからだ。

 だから、もし彼女と一緒になるのであれば、ドロワットさんとも一緒に暮らすわけにはいかない。

 かといって彼女を追い出してしまうわけにもいかないだろう。

 そんなことを考えながら悩んでいるとドロワットさんが話しかけてきた。

「ゴーシュ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん? なんだい?」

「ゴーシュ様は、わたくしのことをどう思っていらっしゃるのでしょうか?」

 その問いかけにどう答えるべきか迷った僕は少し考えた後、正直な気持ちを話すことにした。

「正直に言うと、君のことを好きになることはできないと思っているよ」

「…………」

 それを聞いたドロワットさんは無言で俯いたまま黙ってしまった。

 そんな彼女に続けて言った。

「でも、だからといって君を追い出すこともできないし、ましてや君を追い返すなんてことは絶対にしないから安心してほしいんだ」

「……わかりましたわ」

「うん、わかってくれて嬉しいよ」

 僕がそう言った時、ちょうどメイが戻ってきた。

「ご主人様、手紙を出し終わりました」

「ありがとう、メイ」

「いえ、これくらいのことであればいつでもお任せください」

「うん、頼りにしてるよ」

 そう言って微笑んだあと、ドロワットさんに声をかけた。

「それじゃあ、そろそろ寝ようかと思うんだけど、いいかな?」

「ええ、かまいませんわ」

「わかったよ。じゃあ、おやすみ」

 そう言うとドロワットさんもおやすみなさいと返してきた。

 それを確認した僕はメイとともに自室へと向かった。

 部屋に入った僕たちは着替えるとベッドへと入った。

 しかし、なかなか眠ることができなかったのでメイに話しかけてみた。

「ねえ、メイ……」

「はい、なんでしょうか?」

「ドロワットさんのことなんだけどさ……」

 そこまで言いかけたところで彼女が僕の唇に人差し指を当ててきた。

「ご主人様、それ以上は言ってはいけません」

「……そうだね」

 彼女の言葉を聞いた僕は頷きながら返事をした。

 それから、しばらく沈黙が続いた後で再び口を開いた。

「それにしてもドロワットさんの気持ちに応えることができないのは、つらいなあ……」

 すると彼女は小さく頷いた。

「そうですね……ですが、こればかりはどうしようもありません……」

「そうだよね……」

 そこで再び沈黙が訪れた。

 しばらくすると彼女が口を開いた。

「……ご主人様、一つだけ聞いてもよろしいですか?」

「いいよ」

「どうしてドロワット様に、そんなに優しいのですか?」

「……なんとなくだけど、彼女のことを傷つけたくなかったんだよ」

「なるほど……そういうことでしたか……」

 それから、また沈黙が訪れた。

 その後で今度は僕の方から質問してみた。

「メイは僕のことをどう思う?」

 彼女は、しばらく黙り込んだ後に答えた。

「そうですね……一言でいうなら『優しい人』だと思っています」

「そうかな……?」

「はい、間違いありません」

「そっか……それならよかったよ」

 それからもしばらく沈黙が続いたあとで僕はゆっくりと目を閉じた。

 そんな僕にメイが言った。

「それではわたしも休みますね……おやすみなさいませ、ご主人様」

「ああ、おやすみ……メイ……」

 そして僕も眠りについたのだった。

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