じゃあ、これから毎日ハグさせてくださいね!(短編小説)
*
彼女のことを考えると、心がドキドキしてしまう。
「あの……もしかして、私のこと意識してくれてます?」
「そ、そそ、そんなわけないだろ!」
「そうですか? それならいいんですけど」
「あ、当たり前じゃん……」
俺はそう言うと、彼女から目を逸らした。
すると、彼女は俺の腕を掴んできた。
「じゃあ、今日は二人で遊びましょうよ!」
「えっ……?」
俺は一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。
そして、その意味を理解した瞬間、思わず声を上げてしまった。
「ええっ!?」
「嫌ですか?」
「そ、そんなことないけど……」
「なら、決まりですね!」
こうして、俺は彼女と遊ぶことになったのだった。
*
その後、俺たちはショッピングモールに行き、服やアクセサリーを見たり、ゲームセンターで遊んだりした。
そして、今はカフェに来ている。
「ふう……楽しかったね」
「はい! とても楽しかったです!」
「そっか、それは良かった」
俺は彼女に笑いかけると、コーヒーを飲んだ。
「ねえ、どうして俺なんかと遊んでくれたの?」
「だって、先輩のことが好きだからですよ」
「えっ……?」
俺は驚いて、彼女の顔を見た。
しかし、すぐに我に返る。
「またそうやってからかうんだ……」
「別にからかってないですよ。私は本気です」
「いやいや、そんなことあるわけないでしょ」
俺が笑いながら言うと、彼女は真剣な表情を浮かべた。
「私、嘘は言ってません」
「……っ!?」
そのあまりにも真剣な表情に、俺は何も言えなくなってしまった。
「私、先輩のことが本当に好きなんです」
「えっと……冗談だよね?」
「違います。本気なんです」
「いや、でもさ……」
「先輩は私の気持ち、信じてくれないんですか?」
「そ、そんなことは……」
「だったら、信じてください」
「…………」
俺は無言で頷いた。
それを見た彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。
「ありがとうございます。嬉しいな」
「うん……」
それからも、俺と彼女は色んな話をした。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
気がつくと、外は暗くなっていた。
「もうこんな時間か……」
「そうですね。そろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
俺たちは会計を済ませて店を出た。
そして、駅まで歩く。
その間、会話はなかった。
やがて、駅に着いた。
そこで電車が来るのを待つ。
「あの、一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「何?」
「私と連絡先を交換してほしいんです」
「ああ、そういうことか。いいよ」
俺はスマホを取り出して、彼女と連絡先を交換する。
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
それから少しして、電車が来たのでそれに乗り込む。
空いていたので、二人並んで座る。
すると、彼女が俺の手を握ってきた。
「ちょ、ちょっと……!」
「大丈夫ですって。誰も見てませんよ」
「それでも恥ずかしいんだけど……」
「ふふ、かわいいですね。でも、今日は手を離しませんよ」
そう言って、彼女は俺の手をぎゅっと握ってくる。
柔らかい感触が伝わってくる。
それだけで、ドキドキしてしまう。
やがて、最寄り駅に着く。
俺は彼女の手を振り払うようにして離した。
「それじゃあ、また明日ね」
「はい、また明日会いましょう」
そうして、俺たちは別れたのだった。
*
次の日、学校に行くと彼女が話しかけてきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう」
「昨日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「いえ、私がしたかっただけですから気にしないでください」
「そっか……」
それから、しばらく他愛のない会話をする。
しかし、彼女は何か言いたげな様子だった。
なので、俺から話を切り出した。
「それで、俺に話したいことって何かな?」
「実は昨日、先輩と別れてから考えたんです」
「何を?」
「先輩が私をどう思っているのか」
「…………」
「先輩は私のことを嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ、好きってことですよね?」
「……まあ、そうなるね」
「それなら良かったです。安心しました」
そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
それを見て、俺も嬉しくなる。
「先輩、これからもよろしくお願いしますね」
「うん、よろしく」
こうして、俺たちの新しい関係が始まったのだった。
*
ある日のこと、俺は後輩ちゃんと一緒に下校していた。
今は帰り道を歩いているところだ。
「それにしても寒いですねー」
「そうだね」
「手、繋ぎませんか?」
「えっ……? えっと……?」
「こうすれば温かくなりますし、一石二鳥だと思ったんです」
「なるほど……」
言われてみればその通りだと思う。
それに、断る理由もないので素直に受け入れることにした。
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「はい、どうぞ」
そして、俺たちは手を繋いで歩き始めた。
手が温かいからか、寒さはあまり感じなかった。
*
しばらくして、俺の家に到着した。
「ここが先輩のお家なんですね」
「そうだよ」
「立派なおうちで羨ましいです」
「そうかな? 普通だと思うけど……」
「そうですか? お金持ちの家って感じがしますよ」
確かにうちの両親はそこそこ稼いでいるけど、別にそこまで凄いわけではない気がする。
まあ、人それぞれ感じ方は違うだろうから何とも言えないのだが……。
「とりあえず、中に入りなよ」
「そうですね。お邪魔します」
俺たちは家の中に入った。
家には誰もいなかった。おそらく両親とも仕事で遅くなるのだろう。
リビングに入ると、暖房をつけてソファーに座った。
彼女も隣に座る。そして、俺にもたれかかってきた。
「ちょ、ちょっと……」
「いいじゃないですか、これくらい」
彼女は楽しそうに笑った。どうやら離す気はないらしい。
俺は諦めてそのままにすることにする。
しばらくすると、彼女が話しかけてきた。
「そういえば、ご両親はいないんですか?」
「二人とも仕事だよ」
「そうなんですか……ということは二人きりですね」
「そ、そうだね……」
それを聞いて、思わずドキッとしてしまった。
彼女はそんな俺を見てニヤニヤしている。
「あれれ~、どうしたんですかぁ?」
「べ、別に何でもないから!」
「怪しいですね~」
そう言いながらも、彼女は追及してこなかった。
そのことにホッとしていると、今度は別のことを聞いてきた。
「ところで、先輩は私のことどう思いますか?」
「ど、どうって……?」
「か、かわいいとか、思いますか?」
いきなりそんなことを聞かれても困る。
しかし、答えないわけにはいかないので正直に答えることにした。
「か、かわいいと思うよ……」
俺がそう言うと、彼女の顔が赤くなった。照れているみたいだ。
そんな様子を見て、こちらも恥ずかしくなってしまう。
「あ、ありがとうございます……」
それからも沈黙が続く。気まずい空気が流れる。
それを打ち破るように、彼女が口を開いた。
「そ、そうだ! ゲームしましょう!」
「う、うん、いいよ」
「何がいいですか?」
「うーん、何でもいいけど……」
「なら、マリカーやりましょう!」
「いいね」
というわけで、二人でマリカーをすることになった。ちなみに、このゲームは俺の得意分野だ。だから、彼女に勝つ自信があった。
レースが始まると、俺は全力で飛ばした。その結果、一位になることができた。すると、隣の彼女は悔しそうに言った。
「うう……悔しいです……」
「ふふん、俺の勝ちだね」
俺が得意げに言うと、彼女は頬を膨らませた。
「むー、もう一回勝負してください」
「いいよ」
再び対戦が始まる。結果は俺の圧勝だった。また負けてしまったことで、彼女は落ち込んでいた。そんな彼女を見て罪悪感を感じる。
すると、彼女は顔を上げて言った。
「もう一回だけお願いします」
「いいよ」
それから何回かやった結果、やはり俺の勝利に終わった。すると、彼女は不満そうに言う。
「先輩ってやっぱり強いですね」
「まあね」
自慢げに答えた。
だって、このゲームは得意だし。仕方ないよね。すると、彼女は何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「こうなったら最終手段を使います」
「何それ?」
嫌な予感がした。だが、もう遅い。次の瞬間には抱きつかれていた。しかも、顔を俺の胸に埋めてきたのだ。突然のことに驚いてしまう。慌てて引き剥がそうとするが離れない。意外と力が強いようだ。
結局、抜け出すことはできなかった。それどころか、さらに強く抱きしめられてしまう。そのせいで、彼女の柔らかい感触を感じてしまう。
(こ、これはやばい……!)
このままではまずいと思い、離れようとする。しかし、彼女は逃してくれない。むしろ、さっきよりも強く抱きしめてくる。そのおかげで、より彼女の柔らかさや温かさを感じてしまい、ドキドキしてしまう。心臓の鼓動が激しくなる。顔も赤くなっていることだろう。恥ずかしくて死にそうだった。
そんな状態のまま、数分間が経過してようやく解放されたのだった。俺はすぐに彼女から離れる。そして、深呼吸してから尋ねた。
「な、何するんだよ!?」
すると、彼女は悪びれる様子もなく言ってきた。
「先輩に抱きついてみました」
「そういうことじゃなくて……!」
「嫌だったですか?」
「……嫌じゃないけどさ」
そう答えながら、心の中では後悔していた。あんなことしなければよかったと……。今さら後悔したところで遅いのだけれど……。
そんなことを考えていると、彼女がとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、これから毎日ハグさせてくださいね!」
「はあ!? 何言ってるんだよ!?」
思わず大きな声を出してしまった。それはそうだろう。突然そんなこと言われたら誰だって驚くはずだ。というか、何でそうなるんだ?意味が分からないんだけど……。困惑していると、彼女は説明を始めた。
「私なりのスキンシップですよ」
「いや、でもさ……」
「ダメですか?」
上目遣いで見つめられた。その瞳からは『断らないで』という想いが伝わってくるようだった。そんな顔されたら断りづらいじゃないか……。まあ、最初から断るつもりはなかったけど……。ただ恥ずかしかっただけだし……。とはいえ、一応確認しておく必要があるだろう。そう思って尋ねてみた。
「えっと……本当にいいの?」
「はい! もちろんです!」
即答された。迷いは一切ないみたいだ。それを聞いた瞬間、嬉しさが込み上げてくるのを感じた。好きな人から求められて嬉しくないはずがないのだから当然だろう。だからなのか自然と口元が緩んでしまう。それを見た彼女は不思議そうに尋ねてきた。
「先輩、どうかしましたか?」
俺は慌てて表情を引き締めると誤魔化すように言った。
「い、いや、何でもないよ」
「……本当ですか?」
まだ疑っているようだ。なので、本当のことを話すことにした。もちろん恥ずかしいけれど……。
「実は嬉しかっただけだよ……」
ボソッと呟いた。その瞬間、顔が熱くなるのが分かった。きっと真っ赤になっているだろう。自分でも分かるくらいだから相当だと思う。その証拠に彼女も驚いている様子だった。少しして我に返ったのか、笑みを浮かべて問いかけてきた。その表情はとても嬉しそうだった。まるで子供のような無邪気な笑顔だ。不覚にもかわいいと思ってしまった。それくらい破壊力のある笑みだったのだ。見惚れていると、彼女は更に顔を近づけてきて耳元で囁いてきた。息が耳にかかってくすぐったい。おまけにいい匂いまでしてくるので余計に意識してしまう。それが恥ずかしくて顔を逸らすと、頬に柔らかい感触が伝わってきた。同時に小さな声が聞こえてくる。どうやらキスをされたらしい。そのことに動揺しながらも視線を戻すと悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女と目があった。どうやらからかわれたらしい。そのことを理解した途端、頬が熱くなっていくのを感じた。たぶん耳まで真っ赤だろう。それを見て彼女は楽しそうに笑うのだった。