義肢のヒルコ 第9話
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「俺の名は皆神蛭子。陰陽院に来たからには広輪京の中央にある楔の柱……正式な名前は楔御柱だっけ? ……まあ、その楔御柱を俺たちは守らなきゃいけないわけだけどさ、そんな当たり前のことを言われても困るよな? それを守らないと日本は崩壊しちゃうし。君たちの家系が三百年それを守ってきた。俺も徹底的に楔御柱を守ろうと思っているさ。……こんな上から目線な言い方だけど、そうでもしないと俺の本気は伝わらないと思うから」
俺は周囲を見る。
「……そんな感じでよろしくなっ! 今は葛原青葉ちゃんのアパートに住まわせてもらっているから、気軽に声をかけてきていーんだぞっ!」
『……!』
クラスの生徒たちが一斉にざわついた。
俺は空いている席へと座る。
隣の席の青葉ちゃんは、きっ……とした感じで蛭子をにらみつける。
(わたしの名前を出さないでほしいとあれだけ言ったのに……蛭子くんはいったいなにを考えているの……)
俺は隣の席にいる彼女の険しい視線から逃れるように目をそらす。
(まあ、俺が行動しなければ、なにも始まらないというわけで……どういう答えが返ってくるのやら)
再度、俺は周囲を見る。
(この感じ、あまり歓迎ムードじゃねえな。俺の特性も関係しているんだろうけど、しばらく様子を見てみるか)
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――昼休み。
とある人物が俺と青葉ちゃんのクラスに現れた。
「……あなたが皆神蛭子ね」
俺の目の前には青葉がいた。
いや、違う――青葉ちゃんは隣の席にちゃんといる。
正確には青葉ちゃんの顔をした別の人物だ。
「あたしの名前は葛原青花。東の葛原――つまり、魂生師の家系に属する巫女よ。あなたにはそれが理解できて?」
俺は隣の席の青葉ちゃんを見る。
青葉ちゃんのフルネームは……葛原青葉。
そして、目の前の女……葛原青花。
「もしかして、お二人さん……双子なのか?」
「……そうよ、皆神蛭子。あたしたちは双子なのよ。出来の良さは比べ物にならないけど」