はじめてのお茶摘みと釜炒り@柿木村
4月末、三浦家は焦っていた。楽しみにしていた帰省は新型コロナウイルスの感染拡大により中止することになり、そのままでは何もないただのゴールデンウィークになってしまうのだった。
ふと、以前に知り合いの写真家・七咲友梨さんにご実家の茶畑をご案内していただく相談をしていたことを思い出した。茶摘みの時期になったらぜひやりましょうという話をしていたので、そろそろいかがでしょうとお伺いを立ててみたのだった。
友梨さんのご実家は島根県の西の端っこ、吉賀町の旧・柿木村(かきのきむら)。そこでは昔から自家用に在来のお茶の木を育て、各家にある鉄釜で炒ってお茶にする釜炒り茶の文化が根付いているという。
以前から友梨さんがSOTTO CHAKKAという名前で販売も手掛けていたので、ずっとその存在が気になっていたのだ。
連絡してみると友梨さんがゴールデンウィーク前に帰省して仕事しながらお茶摘みをすることが分かり、タイミングよくゴールデンウィークに予定を作ることができた。
前々から興味を持っていたスズキくんも合流して、スズキファミリーと2家族で訪問することに。
大森町から柿木村までは車で2時間15分くらい。柿木村の道の駅で友梨さんと待ち合わせて早速茶畑へと向かった。
学生時代良く使った東京ー名古屋間の新幹線の車窓からは、静岡の山々の斜面に作られた茶畑が見えた。同じように、柿木村でも茶畑は斜面に作られていた。何故なのか調べてみると、水捌けがいいことが一つの生育条件なのだという。
茶の木にはたくさんの萌黄色の新芽がついていて、日に照らされた部分が透けてかわいい。
採り方の説明を受けて早速お茶摘み開始!新茶は一芯二葉と言って、芯(まだ開く前の葉っぱ)と開いた二枚の葉っぱだけを摘む。
摘むこと自体は手でプチッとするだけなので簡単だが、ちょっとずつしか摘めないのでお茶にできるだけ摘もうと思うと結構大変だ。
でも塵も積もればなんとやらで、人手も多数いたので数時間でそれなりに集まった。
触るとしっとり柔らかで気持ちいい。一枚口に入れて咀嚼すると、ちゃんとお茶の香りが鼻に抜ける。ああお茶だと思った。しばらく噛んでいると口の中がすごくスッキリした。
日も傾いて来たので友梨さんのご実家に場所を移し、釜炒りの儀を執り行うことになった。ご実家は美しい棚田が連なる山間地にあった。
これが各家に常備されているという鉄釜だ。非常に、雰囲気がある。
薪で火を焚き、摘んできた茶葉を投入して焦がさないように常に底から茶葉をひっくり返して炒っていく。油断するとすぐに焦げてしまうので、一瞬たりとも気が抜けない作業。
ちなみに炒るのに使っているのは、友梨さん宅に長年伝わる黒文字の枝。年季が入った飴色で、なかなか素敵な質感になっている。
炒っていると、持ち上げた時の感触が変わる瞬間がある。茶葉に熱が回ってくったりとし、少し重たくなるような感覚になるのだ。そうしたら素早く釜から上げて、手揉みの工程に入る。
茶葉が温かいうちに手早く、掌を広げてゴシゴシと揉み込む。木枠に竹を貼った揉み台は地元のおじいさんが開発して近所で流行りつつあるらしい。茶葉の汁が滲み出てベトベトくっついてくるくらい、しっかりと揉んだら完了だ。
この作業をすることにより、茶葉に傷がついてしっかりと水分が抜け、お茶を淹れた時には成分がより抽出されやすくなるのだという。
最後は揉み終わった茶葉をザルに敷いた紙の上に広げ、天日乾燥。数日後乾燥し切ったら、もう一度仕上げの釜炒りをして完成する。数日がかりの作業だ。
↓釜炒りと揉み込みの作業のようす(うめによる応援歌付き)。
これでこの日は終了。
日をまたぐので完成までは見られなかったけれど、初めてのことばかりでめちゃくちゃ新鮮で楽しかった。名目上は茶摘みの手伝いだったが、ローカルお茶文化に触れながら手を動かすいいGWのイベントになった。
すっかりお茶にハマってしまった三浦&スズキは後日、大森でも茶の木を探すことになった。スズキくんが先にいくつかポイントを見つけたが、その他にも歩いてみれば結構たくさん自生していて自分でも見つけることができた。きっと昔は結構茶の栽培をしていて、そこから実がこぼれて広がったのだろう。
大きな茶の木が並んで生えていたあるポイントは、地元のおじさんのご両親が育て、毎年ほうじ茶を作っていたという場所だった。おじさんの許可ももらい、各ポイントで茶葉を集めて自宅でも釜炒り茶を(鉄釜はないので鉄フライパンで)作った。
完成したものにお湯を注いで飲んでみると、新茶の甘みが爽やかな香りとともに口の中に広がる。二煎目、三煎目と淹れると、さらに茶の甘みや旨みが膨らんで変化していった。
これは……めちゃくちゃ美味しい。毎日でも飲みたいくらいである。しかも大森産で、自分の手で作れるなんて、ほんとすごい。ほんといい。最高だ。
というわけで町内でも何度か茶摘みをして、柿木村での学びを早速実践に移したのであった。実際に毎日オフィスで飲んでいるが、それほどたくさんはないので勿体ぶって同じ茶葉にやかんのお湯を注ぎ続けカスッカスになるまで楽しんでいる。
いや〜いいことを学んで暮らしの楽しみが増えた。友梨さんファミリーありがとう。
茶の木は春の新茶の時期だけでなく夏、秋、冬と含まれる成分も変わり、年中いろいろな楽しみ方ができるという。俄かに到来したお茶ブームであるが末長く楽しめる暮らしの営みになりそうで、ワクワクしている。
<おしまい>