小さな旅・思い立つ旅|食がつくる風景は美しい[水と暮らす、茶原郷、海に浮かぶ舟屋]
自然のリズムに寄り添う
日本では四季折々に変化する気温や湿度、特定の季節に吹く風などを活かし、食の生産を行ってきた。雨の多い平野ではあたり一面に田んぼが広がり、波の穏やかな湾では舟屋が建ち並び、寒暖差の大きな丘陵地には茶畑が広がる。
自然の中に人の営みが関わることで、暮らしに合わせて自然が改変されていく。食がつくる風景は自然のリズムに寄り添いながら、維持・更新が繰り返されていく。長い年月の経過とともに、風土に根付いた風景がかたちづくられていく。
食がつくる風景は美しい
ということで、季節や時間の移ろう自然の中で、食がつくる風景を旅するのはどうでしょう、という話。食の味や匂いを堪能するだけでなく、その美味しさがつくられた背景に迫る旅。
フードスケープ ツーリズム
針江のかばた
水とともに暮らす
「これまで水道水は飲んだことがない。
だって必要ないから」
比良山に降った雪や雨が伏流水となって混々と湧き出す集落が滋賀にある。日本でも珍しい水とともに暮らすところ。
各家庭には湧き出た水をためる池がある。小屋で覆われ「かばた」と呼ばれる。飲料水として利用したり、野菜を冷やしたり、食器を洗ったり。顔もあられば歯も磨く。
集落に張り巡らされた水路は、各家庭のかばたと繋がっている。鯉は水路とかばたを自由に行き来する。汚れた食器をかばたに置いておけば、魚がきれいに掃除してくれる。
水はいつも濁りなく 透き通っている
宇治田原の茶園
お茶の栽培をブラックボックスにしない茶園
「お茶の収穫は1年に1回。
長生きしても50回しか経験できない」
茶畑の横には柿の木を植える。春に柿の葉が芽吹くと、少し遅れてお茶の木も芽吹き出す。柿の木にとまったスズメが隠れるくらい柿の葉が茂るとお茶の葉を摘む時期となる。
お茶の新芽の摘みごろを、柿の葉が教えてくれる
立ち入り禁止の茶園が多いなか、小山園製茶場は栽培の過程をオープンにする、という生産者の強い意志で、園内を自由にお散歩できる。山の傾斜に沿うように美しい茶畑が一面に広がり、中腹にある吉野杉のテラスで絶景をあてにお茶を飲む。まさに茶源郷。
伊根の舟屋
海に浮かぶ舟屋の心地よさ
「舟を飼う。舟と暮らす。舟は家族なんだ」
穏やかな海に向かって口を開いた「舟屋」が並ぶ風景は、世界でも類を見ない。古くからの海の民の原風景が残る。まるで海に浮かんでいるようにも見える舟屋は、伊根湾の沿岸に軒を連ねる。1階は船を収納するため、海に面して口を開け、2階に網や漁具を収納する。
朝にさばいた魚のアラをもんどりと呼ばれるカゴに入れ軒下の海に沈める。翌朝には新鮮な海の幸が手に入る。ゆったりと流れる時と流れと、変わらぬ舟屋の景色
日本で最も美しい漁村
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