幸せの赤いステッチ
昨年3月、錦糸町にパルコができた。長年錦糸町を知る人間からしてみれば感慨深い出来事だ。テレビ番組でロケに来ていたマツコ・デラックスも「PARCO!?錦糸町にPARCO!?」と連呼していた。
私はマツコと世代も育った場所も近く、マツコの小岩や錦糸町界隈に対する発言には大いに共感することが多いのだ。
パルコができる前は、LIVINという商業施設があった。いつ行っても閑散としていて、他人事ながら潰れやしないか心配していたのだが、やはりそれは現実のものとなった。
そんなLIVINには忘れがたい思い出がある。そこで今回、思い立ってエッセイを残すことにした。
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人間は満ち足りていないと物欲に走るという。
数年前の私がまさにそう。ここ暫くほど買っていなかったジーンズが無性に欲しなり、渋谷の街へ出かけた。
丸井の売り場に行ったが、どれもこれも結構高い。ジーンズってこんなに高かったっけ?という疑問が先立ち、ろくに商品も見ないままそこを去った。他にもいくつかあたってみたが、みな似たり寄ったり。物欲を満たすことが出来ず暗い気持ちで帰路に就いた。
最寄駅の錦糸町に着き、無印良品で必要な日用品を買うべくLIVINに向かった。相変わらずどこかさびれた雰囲気。
2階についたところで、ふとジーンズ売り場が目に入った。LIVINだしな・・・という思いが一瞬横切ったが、とりあえず見てみることにした。
一見パッとしない空間なのだが、よく見てみると、流行のスキニーなども揃えている。値段も手ごろだし、いくつか気になるものがあったので、試着してみることにした。
すそを裏返したときに見える赤いステッチがかわいかったが、ちょっときつい。典型的日本人体型の私は、丈つめが必要となるので、せっかくの赤いステッチ部分も切らなくてはいけなくなる。
悩みながらもとりあえず外の鏡を見ようとカーテンを開けると、そこには最初案内してくれた女の店員ではなく、いかにも下町の商店街にいそうな角刈りのオッサン店員が立っていた。
この人にいろいろ話しても通じないだろうなぁと思ったが、とりあえず自分の好みを伝えてみた。すると思いの他、ヒップラインが綺麗に見えるデザインやサイズの見極め方など詳しくて、しかも女性目線で説明してくれる。赤いステッチはどうしてもなくなってしまうということだったが、妥協して購入することにした。
翌日、出来上がったジーンズを取りに行くと、昨日は見かけなかった若い女性の店員が応対してくれた。
縫いあがりを確認してみると、なんと赤いステッチがあるではないか!
驚く私を見た店員は、どうにかお客様の希望を叶えたかったみたいで・・・と照れくさそうに説明してくれた。
これがあのオッサンではなく、渋谷の雇われ店員だったらどうだったかと考えた。もちろん大型人気店だからといって一概には言えないのだが、おそらく無理の一点張りで流されたのではないか。
さびれた店を馬鹿にしていた自分を大いに反省した。こういう所にも、プロフェッショナルは存在していたのである。
ぜひよろしくお伝えくださいと深々とおじぎをし、店を出た。
久々に満たされた瞬間だった。それはジーンズを手にしたという物欲ではなく、心の奥深くにある何かが。