本の国

草原の真ん中、広々とした快晴の元に白いお城、それに立派な砦が見える。
城下に町はなく、ただぽつりと城が建っていた。
しかし、廃城ではなくしっかりと整備されているようだ。
弓や槍をもった見張りが砦を巡回しているし、城には旗が掲げられている。
その日の光に輝く白く綺麗なお城に見惚れていると、

突然、かたり、とその城は傾いて・・・。



「いたいっ」

そんな私の小さな悲鳴でで目が覚めた。
わたしの飼っている小さなリスに思いきり指を噛まれたようだ。

「ほら、お食べ。」

リスの名を呼び食べるように胡桃を渡すと、せかせかと胡桃を割り始めた。
こいつはいつもお腹が空くと、いつ何時でもお構いなしに、指を噛んでくる。まったく、わがままな奴だ。
だけど、その必死な姿が愛らしく、自然と顔が綻ぶ。


私の住むこの場所はいつでも夜だった。
いや、正確に言おう。
私の勝手に住んでいるこの場所は周りの壁に囲まれ、
いつだって真っ暗なのだ。
私は常夜のこの場所で本を読んでいる。そして本の夢をみて世界に浸る。
本、図書の用途は読んで知識を得る、空想に耽る。
基本的にはその2通りだろう。私の場合は後者の空想に耽るタイプだ。
夢の中で自由自在にその世界に入り込むことが出来た。
その弊害として、私は夢と現実の境界線がわからない。
そこでリスを飼っているのだ。
こいつが居れば、ここは現実だと。そういう目印に。
ただし、ひとつだけ言っておきたい、私は作家であるということだ。
一応、謡本作家である。たまにしか書かないのだけれど。



私は居住、つまりは住まうもの、の夢を見ることが好きだった。
積雪の多い地域で雪の重さに潰れないための三角屋根などの機能重視のものや
歪で前衛的なデザインを施していながらも
オシャレなデザインハウスなどの外観重視なもの
また、土地の高いところでは高いビルを建て価格重視なもの
そういった多種多様な家を見ることが好きだった。
見ててなんでこんなに違うのか考えることが楽しかった。
それで城を建てて空想に耽り遊んでいたのだ。
本を読むことで夢の中で国を作ってしまう事だってしてしまうのだから、
本当に楽しいものだ。



建物以外の本というと
私には一冊のお気に入りの本がある。
その本の夢の中で私はいつも少女と話をする。
月下にてその月の光と同じ色をした髪をなびかせて

「あなたは、どうしたい?」

と質問され

「それは、内緒だよ。」

と答える。

その決まった会話を挨拶のようにするのだ。
そのたびにその少女は何故か微笑みながら霞ががった瞳から綺麗な涙を流す。
そうして、一頻り少女が泣いた後二人で他愛もない話をして月を見る。
その月はどんな夢の中で見た月より、綺麗で私のお気に入りだ。

「いたいっ」

また、私の小さな悲鳴で目を覚ます。
やはり、小さなリスに手を齧られていた。

「ほら、お食べ。」

いつものようにリスの名を呼び食べるように促して胡桃を渡すと、
いつも通りせかせかと胡桃を割り始めた。
私は何故か、少しだけ物寂しさに襲われて、そして歌が書きたくなった。

 月明かり

     頬に流れる

         夢雫

     膝つき慕う

         あなたは鏡か

詠を書き、そこで私はまた、別の夢へ浸る。

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