『寝盗られ幸助』 たつみ演劇BOX
2022.10.15 三吉演芸場にて
前日、十条で新風プロジェクトの『寝盗られ宗介』を観劇して、いたく感動したので、翌日のこの公演もどうしても観たくなってしまい、つい横浜まで足を伸ばしてしまいました。
前者が忠実に再現しているなら、後者はオマージュに近い感じ。だからこその『寝盗られ幸助』、じつに良くできてます。
誕生日公演の際に初演して、今回は再演とのことでしたが、特別な日に上演する演目として劇団員フル出演のとても豪華なお芝居でした。
前半、ダイヤ座長の鬘は前月の劇場の倉庫が蒸し暑かったせいで、ものすごくウェービーになってしまったとかで、真面目な弟役なのに出オチ気味に笑わせるし、愛飢男さんの安定のカミカミっぷりで、お芝居がまぁ前に進まない!
それなのに、最後怒涛のたたみかける台詞で、グッと感動を巻き起こす。
あれ? 主演はたつみ座長じゃなかったのって。
もちろん、たつみ座長の宗介ならぬ幸助も出ずっぱりの長台詞をきっちり、しっかり魅せてくれました。やっぱり上手いなぁ。
そして、女房役の辰巳小龍さん、本当に細やかな演技のできる素敵な女優さんです。舞台の端にいても存在感のあるお芝居できっちり世界観を掘り下げてくれます。
おそらく、今回も小龍さんの脚本だと思うのですが、女房の心情が垣間見えるシーンもチラホラあって、その丁寧な描写が印象に残りました。幸助には幸助の行動原理があるように、女房が寝盗られてやろうを繰り返すにもまたちゃんと行動原理があって。本来ならそれがお互いに向かって愛情を育むのだろうけれど、屈折してしまった二人の愛はこういう形でしか存在できないという切なさ。 別物だけど、これも良い! そう思えるお芝居でした。
あと、まさかの瀕死の親父さんが蘇生するシーンを舞台上で見られるとは思ってなかったので、そこは驚いたし、劇団員総出の大作ならではだなぁ、と。 このあたりの演出は予想していなかったけれど、なるほどと膝を打つ見事なものでした。
レギュラー演目ではないけれど、特選演目として劇団単体で公演できるお芝居にしっかりアレンジされているとものすごく感じました。
大がかりな企画公演も、もちろん豪華で、見応えがあって本当に素敵だけれど、日常の劇団の公演演目がアップデートされたり、新作が登場して徐々に定番になっていったり、そんな進化もたくさんたくさんあってほしいなと強く思いました。
そんな小さな進化を目の当たりにできると本当に嬉しいですしね。
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