
第一夜
その店は小学校の通学路にあった。
八百屋兼魚屋。家族経営のお店である。おばあちゃんが店主で、娘さんや息子さんが手伝っている。電話で注文していたまぐろのさしみを取りにいく。
お店に入り、ついでに鮭の切り身も買おうと思った。一切れ590円。注文した分以上のお金を持ってきていなかった。しかたなくあきらめる。
お金を払うと、お店のおばあちゃんがじゃらじゃらとおつりをくれた。おつりは120円くらいのはずなのに、片手いっぱいになるほどの小銭。500円玉もいくつか入っている。
多すぎると思って顔を上げると、おばあちゃんは猫になり、白い布がかけられた台の下に入ってしまった。
驚いて娘さんに聞くと、おばあちゃんぼけちゃったから…と言う。お店にでるのもそろそろ最後かな、と。棚を見るとなるほど、ほとんどがガラガラである。
返そうとすると、娘さんは500円玉をふたつ取り、あとはいいと言う。長いことお店に通ってくれたから、と。わたしの左手にはまだ、いっぱいの小銭。500円玉もまだいくつか混じっている。
急に喉の奥が苦しくなった。ずっと通っていたのは、それはお店のひとがやさしいからで、そしておばあちゃんは特別で、わたしが店から出るときいつも、外まで出できて見送ってくれた。たぶんどのお客さんに対しても、そうやって丁寧に送り出していた。
おばあちゃんは猫になったまま、台の下に隠れている。台の下を覗き込む。姿は見えない。ありがとね、おばあちゃんありがとね。
返事はない。気配だけがそこにある。
今朝方みた、夢のお話です。
お読みいただきありがとうございました。