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『羅生門』感想文

「羅生門」を読みたくなりました。定期的に読みたくなるトリガーが私にはあります。
実はそのトリガーは江頭2:50、つまりエガちゃんなわけです。このことはまた後で触れたいと思います。

「羅生門」、芥川龍之介の名作ですね。私は小学生のころ、今昔物語版の「羅生門」を読みました。主人公は始めから盗人、老婆が髪を抜いていた死体は老婆の主人、という設定。
高校の教科書で読んだ、芥川版「羅生門」。こちらは主人公が羅生門の下で、盗人になるか、飢え死にするかと悩む。老婆が髪を抜いていた死体は、蛇を切って干したものを干し魚と言って、役人の詰所に売りに行っていた女、という設定。
この区別が私の中ではっきりしておらず、今回読んだことで、改めて明確になったことが大きな収穫です。

読み比べのために3冊読みました。

一冊目、教科書で読む名作、ちくま文庫版。こちらは注釈がページ左側にこまめに載せてあり、分からない語句が出てきたことによる読書欲消沈を防げるのでグット。
三篇の解説も収録されており、芥川本人、そして作品への知識と理解が深まる構成。
一番うれしいのが、芥川のいわゆる「王朝もの」(『今昔物語』や『宇治拾遺物語』などの古典作品の中の短いお話を近代の小説として設定を変えたりして創作したもの、いまで言えば2次創作的なもの、でしょうか)の元ネタ2篇が、原文と現代語訳で載っているところ。芥川が原典からどう変えたのかつぶさに分かり、大満足の内容。至れり尽くせりですね😊控えめに言っても最高です。

二冊目、角川文庫版。
こちらは表紙のかわいさに命かけてます。思わず手に取りたくなる、部屋に飾りたくなる、写真に撮りたくなる…さらにインスタにアップしたくなる、という流れを狙ってきている。間違いない。
文庫巻末のほうに注釈がばーっと載せられる構成。そして二篇の解説。写真も多用され、興味を引く作りになっています。解説を読んでいて思うのは、芥川に関しては作品への深い研究もさることながら、芥川その人への強い思い入れを感じる解説、めっちゃ多い!ということです。熱意がすごい!激アツです。

三冊目、理論社による、「スラよみ!現代語訳名作シリーズ」。たしかに、芥川「羅生門」の発表は1915年ですから、107年経っています(←ちょっとびっくり)。文語的であるので、若い人に抵抗なく読んでもらうために、現代語訳は素敵なアプローチです。
そして、今回は真打かもしれません、松尾清貴さんによる解説が、いまの気分にぴったりフィットする感がありました(←2014年発行の本でした)。内容を要約します。

「近代文学とは、人間を描くものであり、この場合の人間とは、何かを考えたり行ったりする自分の意志や欲望を自覚した人間のこと。それが近代的な人間だと考えられた。しかし自分で考えたり行動するからこそ、人生に悩む。その悩みをえぐり出すことが優れた文学の条件とされた。

芥川は「王朝もの」を書くという手法を選んだことについて、「あるテーマを語るときに異常な事件を描く必要があった場合、それをいまの日本で起こったものとして書くと、読者に不自然さを感じさせて、せっかくのテーマを殺してしまうことがある」という意味のことを語っている。
芥川は「羅生門」書くにあたり、原典の『今昔物語』の主人公を近代の人物として作り替えた。暇を出された下人に作り替えたことで、悩める近代人の姿をはっきりと見えるようにした。

その中で、考えたり行動したりする自分を自覚した人間の壊れてゆく過程が生々しく描き出され、そこにあるのは人間にはどうしようもない現実が、地獄のように広がって自分の意志や欲望を覆い隠してしまう残酷な光景。そんな世界には、いくつもの価値観が、どちらが正しくてどちらが間違っているとも言えないまま、平等に存在する。」

以上は要約です。

この内容、ずばり「いま」ではないか。コロナ禍、そしてコロナ禍によってあぶり出された数々の課題、後を絶たない自殺の問題、起きてしまった侵攻、揺れる世界。

いまこそ「羅生門」、芥川が必要とされているのではないか。芥川、いま読むべきです。

そしてここで、私の「羅生門」を読むトリガーについてですが、それは江頭2:50、エガちゃんなわけです。
高校時代、現代文の先生は、プリントを配って授業するスタイル。その「羅生門」のプリントになぜか「江頭2:50」の文字が。何の前触れもなく、です。授業でエガちゃんについて触れたかどうかは記憶にありませんが、強烈なインパクトとして残りました。
今年YouTubeで、代アニ入学式でのエガちゃんのスピーチを見ました。エガちゃんの言った、「夢を持つ」こと。言い古された言葉ですが、エガちゃんが言うと響くものがある。それはエガちゃんが生き方で見せてきたからなんですよね。必死さ、ひたむきさと、そうやって生きようとするときに起こる矛盾と葛藤。それをとりまく時代のあまりの苦しさ。そのうねりが「羅生門」につながっていく点がある。
20年以上超えて、生徒の心にこのムーブメントを起こした現代文の先生、ジツハスゴイ人ダッタノカ!という問いも生まれつつ、今日はこの辺りでおいとまします。おつきあいいただき、ありがとうございました。

#羅生門 #芥川龍之介  #江頭2:50 

(この感想文は2022年5月8日に書いたものです)

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