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ラッソーリニクの素(お土産)で本場の味に近いラッソーリニクを作ってみた

ラッソーリニクとは

突然ですが、ラッソーリニク(рассольник)ってご存知でしょうか。

canvaでラッソーリニクを検索したらでてきたスープ、それっぽいです


旧社会主義国で食べられる伝統的なスープのひとつです。塩漬けキュウリが入っているので、独特の酸味があります。
ロシア語版wikiによると、ボルシチ、シーに次いで重要なスープという位置づけのようですが、スラヴ料理の中では日本の方にあまりなじみがないものではないでしょうか。ボルシチ、シー、サリャンカ……あたりはスラヴ通の人に知られていても、ラッソーリニクはかなりマイナーで、日本のスラヴ系レストランでもなかなかお目にかかれないような気がします(個人的な肌感覚です)。

ラッソーリニクの素をいただく

そのラッソーリニクの素を、先日、旧社会主義国時代にお世話になったOさからお土産でいただきました。

ラッソーリニクの素 115₽(約200円)
わたしは1₽=4円以上の時代を知っているので、ここ数年のルーブル安を実感


わたしが最後に旧社会主義国に行ったのはコロナ禍前の2019年。以来、諸事情から国際郵便の受付が停止。以前は現地の方から新年のお祝いなどで、カードと一緒にちょっとしたお土産を送っていただくこともあったのですが、ここ数年は現地の友人知人ともかなり音信不通になっていたので、現地の物が懐かしい!
またボルシチではなく、ラッソーリニクという気遣いが素晴らしい!(ありがとうございます!)
こういうものは大切にとっておくと、あっという間に賞味期限が切れてしまうので、美味しく食べられるうちに、早速作ってみることにしました。

(全体的に長文になりますので、お急ぎの方は、目次から必要なところだけお読みください)



日本で本物のラッソーリニクを作るハードル

①本物の塩漬けキュウリが手に入らない…

わたしが旧社会主義国に住んでいたのは約××年。その国の料理はひととおり作れるようになり、日常的に食べていたのですが、日本で現地の料理を再現するのはいろいろハードルが高く、ボルシチはまわりからリクエストがあれば作っていましたが、ラッソーリニクは帰国してから一度も作っていませんでした。
その理由の一つは、現地と同じ材料が手に入りにくいということ。

その材料のひとつが、塩漬けキュウリ(солённые огруцы)です。

ラッソーリニク(рассольник)は、その名前のとおり、塩漬けキュウリとそのラッソル(рассол、漬け汁)が使われるのですが(※塩漬けキュウリだけのこともあります)、日本で酢漬け、マリネ漬けのキュウリ、ハンバーガーに入れるタイプのピクルス(輸入)は手に入るのですが、現地で日常的に見かけた塩漬けのキュウリはまったくといっていいほど見かけませんでした。
輸入の瓶詰めピクルスに美味しいものもあるのですが、やっぱり自分が現地で食べたものとは違うので、作りたい味にはならないのです。

「塩漬けキュウリってことは漬物でしょ? 普通に日本にあるじゃない」と思われた方、……違うんです。必要なのは下記のような塩漬けキュウリなのです。

canvaで塩漬けキュウリを検索したら出てきた画像


②現地と同じキュウリが見つからない…

旧社会主義国のキュウリにはいろんな品種があり、その昔、わたしが漬物に使っていたのは(農業に詳しい知人にすすめられた)、クラーシュ(кураж)、ルホヴィツキー(луховицкий)、イズムルードヌィエ・セリョーシュキ(изумрудные серёжки)などです。

キュウリの種のパッケージ
ルホヴィツキー(左)とクラーシュ(右)

当時は市場で買ったり、ダーチャで家庭菜園をしている人からいただいたりしていましたが、日本でこの品種を見たことがありません。探せばあるのかもしれませんが、わたしの行動範囲では見かけませんでした。

日本でたまに売っているピクルスキュウリ(小さいキュウリ)からも作れるのかもしれませんが、試してみたことはありません。
塩漬けの材料をそろえるのも難しかったからです。

③塩漬けキュウリは塩のみで作るのではない

塩漬けキュウリ(солённые огруцы)の作り方ですが、ただ塩のみで漬けるわけではありません。家庭によってレシピが違うので、これが正しい! これが本物! というのは言えないのですが、一例をあげますと、友人のダーチャで冬用の漬物作りのお手伝いをしたときに教わったのは、ディルの花(зонтики укропа)、ホースラディッシュの葉(листья хрена)、チェリーの葉(листья вишни)、ブラックカラントの葉(листья смородины)、タラゴンの小枝(веточка эстрагона)、岩塩、黒胡椒、にんにく、唐辛子などのスパイスを使って漬けるやり方でした。
上記の材料+キュウリを梅酒作りで使うようなサイズの大瓶に漬けて、保存します。
塩漬けキュウリがあれば、作れるスラヴ料理の可能性が広がるので、機会があれば作りたいと何度も思ったのですが、日本では材料が簡単にそろわないので、諦めました。
(ハーブのディルは知っていても、ディルの花が傘の形をしている……なんてことを知っている人も少ないような気がします)

ディルの花、セリ科の特徴である傘形をしています(傘形花序)。
ディルの花の部分はロシア語でзонтики укропа(直訳:ウクロープの傘)と呼ばれます。
セリ科の学名はApiaceae、ラテン名ではUmbelliferae

ただ仮に「塩漬けキュウリ」が手に入ったとしても、日本ではものすごく貴重な品。スープの具にするのはもったいなくて、前菜の一皿にして美味しくいただいて終わった気がするので、どちらにせよ、ラッソーリニクは作らなかったと思います。

④日本で腎臓(マメ)は入手しにくい…

ラッソーリニクを作らなくなったもう一つの理由が、ラッソーリニクのブイヨンの材料となる骨付き肉、内臓(より伝統的なラッソーリニクだと腎臓を使います)が入手しにくいということ。近所のスーパーでごくたまに腎臓が販売されているのを見かけることもあるのですが、すぐに売り切れてしまいます。

⑤日本のお肉は質は良いけれど、お高い…

また価格の問題もあります。
旧社会主義国でお肉を買うときは塊肉をキロ単位で買えていたのですが、日本ではそういうわけにはいきません。日本のお肉は質が良いけれど、お値段もそれなり……。
(2019年の記録ですが、市場で骨付き牛肉1.5kg 480₽(650円くらい)で買えたようです)

ラッソーリニクは安くて手頃だったからこそ、作っていたわけです。
日本でわざわざお金をかけてラッソーリニクを作らなくとも、ほかに安くて美味しいものが山ほどあります。そういうわけで、ラッソーリニクとご無沙汰してしまっていました。


ラッソーリニクの素で本場のラッソーリニクの味を再現してみる!

前置きが長くなりました。
では、さくさくと作っていきます。

一般的なラッソーリニクの作り方(ざっくり)

ちなみに一般的なラッソーリニクの作り方は、骨付き肉&香草などで作ったブイヨンに、大麦(茹でる)、みじん切りの塩漬けキュウリ、タマネギ、ニンジン(それぞれ炒める)、じゃがいも(後入れで茹でる)、ブイヨンを作るときに使った肉(細かく切る)などの具材+ローリエを入れて煮込み、塩胡椒などで味をととのえる……です。
(※家庭によって多少材料、工程が違うことがあるかもしれません。人によってはトマトペーストを入れたりもします)

お土産でいただいたラッソーリニクの素には、ありがたいことに、必要な材料が乾燥具材としてすべて入っていました。

内容(原材料名):大麦、乾燥野菜とハーブ(じゃがいも、にんじん、塩漬けきゅうり、塩)
トマトパウダー 、玉ねぎ、青ねぎ、イタリアンパセリ、黒胡椒パウダー


パッケージを開けるとこんな感じです


ということは、このパッケージだけで、ラッソーリニクが作れるということです。唯一の懸念事項は、150g 6食分(6人分)という記載。
一人で食べきれるか……とちょっと悩んだのですが、食べきれなかった分は冷凍保存すればいいことなので、作っていくことにしました。

他に用意したもの

ラッソーリニクの材料はすべてそろっていますが、旧社会主義国の料理に絶対に欠かせないディルと、スメタナの代用品としてのサワークリームを別に用意しました。どんな料理もこの2つさえあれば、あら不思議。旧社会主義国の味になる、すぐれものです。

ディル(ロシア語ではукроп)


スメタナの代用品サワークリーム
日本ではスメタナ=サワークリームとされているのですが、実はちょっと違います


ラッソーリニクの素で作るラッソーリニク

作り方はいたって簡単。

作り方 Приятного аппетита! がうれしい

ざっくり訳出すると、

作り方:
150g スープの具材(本製品のこと)、1.75L ブイヨン、
塩  お好みで
家庭風ラッソーリニクのレシピ。肉のブイヨンで作るととても美味しいです!

1.  沸騰したブイヨンにパッケージの内容物を入れます。 蓋をして弱火で45分間煮込み、最後に塩で味を調えます。
2.(鍋を)火から下ろします(要するに火を止めます)。刻んだハーブを飾って(散らして)お召し上がりください。マルチクッカーでの調理にも適しています。


「肉のブイヨンで作るととても美味しい」とおすすめされたので、ビーフコンソメの素を用意。本来であれば、骨付き肉でブイヨンを作るのですが、今回そこは省略。

ゆるーく簡単にボルシチを作りたいときにも便利なビーフコンソメ



まずは1.75Lのお湯を沸かし、そのお湯に対応した量のビーフコンソメを投入。それからパッケージの具材を入れ、鍋に蓋をし、弱火で45分煮込むのですが……

「……45分!!!」

ちょっと長めの時間ですね。

ガス代が安かった旧社会主義国にいたときはなんとも思いませんでしたが、我が家のキッチンはIH。電気代が高騰している今日この頃、45分の煮込み料理はちょっときつい(というより、日中35℃をこえる日に、火を使いたくない……)。時間短縮で圧力鍋を使おうかとも思いましたが、ひとまずパッケージの記載通りに作ることにしました。

完成&実食(反省点)

45分ぐつぐつ煮込むと、こんな感じで完成します。

サワークリームを入れ、ディルを散らしてみました


かなり、それっぽいです。
ラッソーリニクを知る人たちに写真を送ったところ、見た目は褒められました。本物かどうかといえば、味はかなり本物に近いと思います。独特の酸味がなつかしく、具材の大麦が本当に良い仕事しています。
ただ、記憶の中のラッソーリニクの味を完全に再現できたかというと、うーん……です。

このラッソーリニクの素の具が小さく刻んだ乾燥具材ということもあって、食感が全然違うのです。お肉がないのはともかく、個人的にはほっくほくでとろけるジャガイモと、甘みのあるにんじんが恋しい。

ビーフコンソメの素で作るブイヨンは美味しいのですが、パッケージ通りの量にすると、かなりしょっぱいので(具材に塩漬けキュウリが入っているからかもしれません)、水に対してコンソメの量を少なめにするか、心持ち水の量を増やしたほうがいいと思いました。

ラッソーリニクを作ったあとに気づく。大事な○○を忘れていた…

そして一番の反省点なのですが……。
ラッソーリニクをいただきながらずっと「なにかが足りない」と思っていました。ラッソーリニクは美味しけれど、なにか物足りない……。なにか入れ忘れたか……。なんだろう……。

そして、ハッ!と 気づきました。

そうです。パンです! 旧社会主義国のスープを食べるときはパンが絶対的に必須。パンを片手に持って、パンを食べながら、スープを食べるのです。
(※ロシア語でスープは「飲む」ではなく、「食べる」という動詞を使います)

そうだ。そうだ。パンだ。パンがほしい。バトン(白パン)か、できれば黒パンが食べたい。

……ということで、黒パンを買いに走ったのですが、あいにくいつも行っているドイツパン屋は夏期休業。別のお店でバゲットを入手しました。

バゲットを添えて(パンがあればひとまず満足です)


より本物の味を再現するために

上記の写真には映っていないのですが、どうしても(乾燥具材ではない)ジャガイモとニンジンを入れたかったので、電子レンジでチンして、後入れしました。
せっかく作るからには、プレゼントしてくれた方のためにも、努力を惜しまず、最大限に美味しくして食べたい。

結論として、かなり自分が知っている、現地のラッソーリニクの味を再現できたので、大満足でした。
今までこういった「スープの素」を使う経験があまりなく、今までインスタントものに懐疑的だったのですが、かなり本物に近いものが、簡単にできることにむしろ感動しました。

酸味が足りなかったら酢漬けのピクルス(市販のコルニッション)を使おうと思っていましたが、使わずにすみました

ラッソーリニクを作っていて思い出したこと


今回、久しぶりにラッソーリニクを作ってみて、ラッソーリニクも懐かしかったのですが、その土地にない、異国料理を再現する難しさ、楽しさも思い出しました。

旧社会主義国に住んでいた頃――主に2000年代は、まわりのリクエストに応じて和食を作ることが多かったのですが、「これで寿司飯の作り方を教えてください」と現地の方が持ってきたお米が長粒米だったということがありました。「このお米は粘りが少ないのでお寿司には向かないです。炒めたり、別の料理で使ったらすごく美味しいんですけど」とやんわり断ったものの、現地の人からすると、お米はすべて同じ。米の品種に違いがあることも、一般の人は知りません(料理人や日本に詳しい人は別です)。日本で一般的に食べられているお米がジャポニカ米であることも、当然知られていませんでした。
お寿司用のお米なるもの(実際は海外のお米)は売っていましたが、ちょっと高額だったので、その方は一番手頃な長粒米を持ってこられ、どうしてもそのお米で寿司飯を作ってみたいというので……わたしも実験がてら、いろいろ工夫しつつご飯を炊いてみたのですが、予想通り、似て非なるものになってしまいました。
(似てもいなかったかもしれません……パッサパサ……チャーハンにしたかった……)

現地の人は日本人(エキゾチック?)と一緒に、「寿司もどき」(エキゾチック?)ができればそれでOK、味は二の次だったようなのですが、やっぱり日本人としては「これじゃない」ものを食べさせてしまうと、強烈な罪悪感におそわれますし、適材適所じゃなかった食材が本領発揮できなかったことにも申し訳なく思います。
そういうことが何回かあると、本物を知ってもらいたい……本物の美味しさを知ってもらいたいという欲がふつふつと湧き上がり、一時帰国したときに持ち帰った本物の日本の食材で、和食パーティーを開いては、現地の人たちにふるまったりしました。

今回、久しぶりにラッソーリニクを作ることで、当時の出来事、当時抱いていた感情が山のように湧き上がりました。
料理を再現することで、感情まで再現されるとは……。

食というのは、記憶と結びついているのだなと。
あらためて感じたことでした。

まとめ

長くなりましたが、興味のある方はぜひラッソーリニク、塩漬けキュウリに挑戦してみてください。ただスープなどの煮込み料理は、やっぱり冬に作るのがベストです。

お土産を持ち帰ってくださったOさん、本当にありがとうございます。

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