本日の猫たち #351(イギリスのピンの話を少し)
今日は少し涼しかったので、猫たちもまったり過ごしていました。
春の換毛期が終わったら、兄猫の毛皮はすっきりするかなと思っていたのですが、かなり毛が抜けたにもかかわらず、まったく変化がありませんでした。
猫たちの遊び道具は自給自足です。
世にある大半のおもちゃをためしてみて、一巡した結果、自分たちの抜け毛で作った毛玉ボールが一番食いつきが良く、楽しんで遊んでくれることがわかりました。
ただ問題は妹猫。
先住猫と兄猫は普通にサッカーをしたり、キャッチボールをして遊んでくれるのですが、妹猫は新鮮な毛玉ボールを口にくわえて持ち逃げしたり、嚙んでべちょべちょにして廃棄せざるをえない状態にしてしまったりするので、毛玉ボールで遊ぶときは妹猫の動きに要注意です。
飼い主は引き続き、読書と露日翻訳。
突然ですが、「イギリスのピン(английская булавка)」ってなんだと思いますか?
最近読んだアレクサンドル・グリンの『ねずみとり(Крысолов)』とレオニード・アンドレーエフの『まったくこどもむけではないおとぎばなし(
Сказочки не совсем для детей)』にこの「イギリスのピン」が出てきました。
『ねずみとり』では、主人公のシャツとコートを「イギリスのピン」で留めるシーンがあり、『まったくこどもむけでないおとぎばなし』では、悪さをしてしっぽを切られた狼に、判事が「医者に行ってしっぽを縫いつけてもらった後、さらにイギリスのピンで固定しなさい」と助言するシーンが出てきます。
答えはこちら。
「安全ピン」です。
安全ピンは英語だとsafety pinというので、日本語は英語の直訳なのだと思いますが、なぜロシア語では「イギリスのピン」というのか、実はずっと謎に思っていました。なぜなら現在使われている「安全ピン」を発明したのは、アメリカ人の発明家ウォルター・ハントだからです(1849年)。それなら「アメリカのピン」と命名されてもおかしくないのに「イギリスのピン」……。
今なら検索したらすぐに出てくることなのですが、わたしが旧社会主義国に移住した2000年初頭、オンライン辞書もAIもなかったので、由来が調べられず、ずっとなんでだろう? と考えていました。
wikiにその理由の一部が書かれていました。
発明家本人が「安全ピン」の特許を売却してしまった…というのも一因ではあるのですが、当時の特許は必ずしも発明家を保護するものではなかったようで、ハントがアメリカで発明した1849年の秋、イギリスの実業家チャールズ・ロウリーがハントのピンに類似したピン(パクったのか…)の特許を、故郷イギリスで取得し、大々的に宣伝、各国に広めます。
そのため、ロシアに入ってきた「安全ピン」はイギリス由来であり、「イギリスのピン」と呼ばれるようになったのだそうです。
日常でよく使われるありふれたものに、ドラマが隠されているなあ……としみじみ思いました。
ちなみに「安全ピン」が出てくるアンドレーエフの作品は1907年(明治40年)に書かれたもの。1849年(江戸時代、嘉永2年)に発明されたのだから、そのときにあってもおかしくないのですが、安全ピンって昔からあったのですね……。
(※安全ピンのもとになったピンの起源はもっと古いので、気になった方はググってみてください)
ちなみにわたしが初めて「イギリスのピン(английская булавка)」を知ったのは、お土産物屋さんです。今では「イギリスの」を省略し、ただ「ピン(булавка)」と呼ばれることも多いのですが、小さいマトリョーシカが5つくらいついている安全ピンが売られていました。
今もあるかどうかは知りませんが、当時は持ち運びが楽で、安価で、お土産にもってこいだったのです。
その商品は今手元になく、著作権の問題もあるので画像は貼れないのですが、興味のある方は、「булавка с матрешками」で検索してみてください。
「本日の猫たち」とは別の記事にしてもよかったのですが、しばらくこのままでいかせてください……。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
気が向いたら、またのぞいてやってください。